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私のいない夜会で、どうぞ『真実の愛』をご披露ください  作者: 九葉(くずは)


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9/9

第九話 次の日曜の席

冬至夜会の三日後、セシリアは朝食に一時間遅れて着いた。


正しくは、約束に遅れたのではない。


アドリアンから届いたカードには、日曜の朝から昼まで温室を開けておく、とだけ書かれていた。何時に来てもよく、来なくても返事はいらない。朝食はその間ずっと用意してあるという。


十時に外出着を整えたセシリアは、玄関で一度手袋を外した。誰かと食卓を囲むと考えただけで、空いた席と冷えた皿が胸に浮かんだためである。


けれど、馬車を待たせているのは自分だった。


行かない理由を手紙にせず、行きたいと思った時間にもう一度手袋をはめた。


ルヴェル侯爵家の別邸にある温室は、冬の庭へ細長く張り出していた。硝子屋根の向こうに白い雲が流れ、柑橘の鉢と香草の箱が朝の光を受けている。


案内の家令は、主人が奥で待っているとだけ告げた。遅れへの言葉も、今後の予定も尋ねない。


温室の中央には、二人用の丸卓がある。


アドリアンは上着を椅子の背へ掛け、片手に園芸書を持っていた。セシリアを見ると本へ栞を挟む。


「おはようございます、セシリア様」


「お待たせいたしました、ルヴェル卿」


「待ったのは朝食ではなく、南方種の檸檬が冬を越せるかという結論です。こちらの本は、できるとも、難しいとも書いてあります」


彼は開いた頁を示した。二つの説へ細い紙片が挟まれており、どちらにも書き込みはない。


「結論をお決めにならなかったのですか」


「木に聞くことにしました」


鉢の檸檬には小さな緑の実が一つ付いている。明日落ちるか、春に色づくかは、誰にも分からない。


セシリアは外套を預け、卓へ近づいた。


朝食は整いすぎていなかった。白い布の中央でパンの籠が傾き、茶器の横には二つの茶葉缶が置かれている。卵料理は蓋の下で温められていたが、ポットの茶は湯気を失っていた。


「お茶を入れ直していただきましょう」


「冷めた方は私が飲みます。新しいものを望まれるなら、すぐに頼みます」


「ルヴェル卿がお嫌でなければ、わたくしも同じもので」


「嫌ではありません」


彼は冷めた茶を二つの杯へ注いだ。香りは弱く、舌に残る渋みが強い。夜会なら出さない味である。


二人は同時に杯を置いた。


「冷たいですね」


「ええ。言い逃れのできない温度です」


セシリアの口元が緩んだ。上手に飲んだ顔をする必要がないと、渋い茶が教えている。


パンにも問題があった。


アドリアンが籠から一枚を取ると、切り口の中央が重たく沈んでいる。今朝、料理人の助手が初めて任された生地で、焼き上がった後に失敗を申告したという。


「取り替えるよう家令は主張しました」


「なぜ、そのままに」


「失敗した本人が、食べられないほどではないと申しました。私も確かめましたが、同じ意見です。よろしければ、セシリア様にも判断していただこうかと」


仕事の依頼に聞こえ、セシリアはパンを細かく見た。厚さ、焼き色、水分。どこを直せば次は成功するか、料理人へ伝える言葉まで考えかける。


アドリアンは蜂蜜の壺を彼女の手元へ寄せた。


「おいしいかどうかだけで構いません」


端をちぎり、蜂蜜を少し付ける。外側は香ばしく、中央は弾力が足りない。それでも小麦の甘みがあり、温室の冷めた茶にはよく合った。


「おいしいです。二枚目を取るかは、まだ決めません」


「料理人には、最初の一言だけ伝えます」


報告はそれで終わった。


アドリアンは冬至夜会の評判を口にしない。各国の返書も、次に任せたい席も、レオナールが退出した後の話も尋ねなかった。


代わりに、温室の天井を歩く一羽の小鳥を二人で見た。


硝子の外側にいるため声は聞こえない。細い脚が継ぎ目を越え、見えなくなる。会話はそこで途切れたが、セシリアは次の話題を探さなかった。


アドリアンも園芸書を開かない。


誰の役にも立たない沈黙が、丸卓に残る。


セシリアは自分の指先を見た。席次表も、招待客の覚書も持っていない。手袋を外した手には、蜂蜜が一滴付いているだけだった。


それを布で拭いても、隣の人は去らない。


温室の時計が十一時半を打つ。


「今日の耳飾りは、冬至の夜と同じですね」


アドリアンの視線は、琥珀に留まってからセシリアの目へ戻った。


「自分で選びました。黒真珠を返した後、店で一番初めに気になったものです」


「よくお似合いです」


「外交上のご配慮ではなく」


「私的な感想です。訂正の必要があれば承ります」


セシリアは耳飾りへ触れた。似合うかを確かめずに買ったものを、今朝も自分で箱から出した。誰の家色にも、衣装の格にも合わせていない。


「訂正は、ございません」


その返事を受けたアドリアンは、うれしさを隠さなかった。ただし、その先を自分の許しに変えることもしない。


卓の端には、封筒に入っていないカードが一枚置かれていた。冬至夜会の招待状と同じ紙だが、主催者名も日付もない。


「それは何にお使いになるのですか」


「セシリア様が何か書きたくなった時のために、印刷所から分けてもらいました。使わなければ、白紙のままお持ち帰りください」


空白を埋める内容まで、彼は用意していなかった。


セシリアはカードへ手を伸ばさず、パンの残りを食べる。何を書くべきかを先に考えれば、また正しい予定を探してしまう。


「ルヴェル卿は、休日にも誰かの選択肢を増やしていらっしゃるのですね」


「反省しております。今朝は契約書を三通も用意していません」


「一通なら、用意なさったのですか」


「いいえ。用意したのは、失敗したパンと冷めた茶です」


セシリアは声を立てて笑った。


笑った後に謝らなくても、アドリアンは杯を持ったまま待っている。彼も笑い、二人の間に落ちた時間を拾おうとしない。


「わたくし、今朝は何もしておりません」


「パンを一枚召し上がりました」


「それだけです」


「それを望んでお招きしました」


アドリアンは、そこで一度視線を落とした。客の前では迷いを見せない人が、言葉の置き場所を選んでいる。


「冬至夜会を成し遂げたあなたも尊敬しています。しかし、私が次に会いたいのは、成功した主催者だからではありません」


セシリアは彼の続きを待つ。


「私は、あなたをお慕いしています。誰かのために働くあなたも、冷めた茶の前で何もしないあなたも。ただ、今朝その答えを求めるつもりはありません」


温室の外で風が枝を揺らした。硝子へ触れた葉が一度だけ音を立て、また離れる。


「返事がなければ、お困りになりませんか」


「困るでしょう。ですが、それは私が持ち帰る気持ちです。セシリア様の仕事にはいたしません」


好意を告げながら、返事を待つ焦りも、断られた時に抱える痛みも、その始末を決して彼女へ渡さない。


それなら、怖くない。


セシリアは、うれしいと答える代わりに杯へ触れた。冷めた茶は変わらず渋い。それなのに、今度はもう一口飲みたい。


必要な成果がないのに、ここにいてよい。


その理解は言葉より遅く、冷めた茶をもう一口飲んだ時に体へ届いた。胸の奥で固く結ばれていたものが、音もなくほどける。


アドリアンは空になった自分の皿を見てから、セシリアに尋ねた。


「今朝のあなたには、何をお願いすればよいでしょう」


以前なら、客名簿の整理でも、春の夜会でも、役に立てることを答えただろう。


けれど彼が知りたいのは、能力の使い道ではない。


「何も。けれど、次の朝食にもあなたがいてくださるとうれしいです」


アドリアンの手が、卓上で止まる。


「私で、よいのですか」


「ルヴェル卿だから、お願いいたします」


敬称を口にした時、今朝の丸卓には少し遠いと感じた。外交院の廊下でも、公爵家の青の間でもない。冷めた茶を渋いと認め、失敗したパンを一緒に食べる人がいる場所だった。


「アドリアン」


初めて呼ぶ名は、願いより短い。


彼は答える前に息を整えた。


「もう一度、呼んでいただけますか」


「次の日曜に。今度は、あなたからもセシリアと」


「では、その招待だけを大切にします」


約束の先を急がない返事だった。


セシリアは白紙のカードを取り、置かれていた鉛筆を持つ。日付の欄に次の日曜、場所にはこの温室、用件には遅い朝食と記した。


主催者の欄へセシリア・ラセルと書く。


招待客の欄は一つだけでよい。


アドリアン・ルヴェル。


書き終えたカードを渡す時、二人の指が触れた。彼は取り上げず、セシリアが手を離すまで同じ端を支えている。


「お受けいただけますか」


「喜んで、セシリア」


名前で呼ばれても、役目は増えなかった。次の仕事も、家の都合も、正しい夫人であるための約束もない。


あるのは、次の日曜に誰と同じ卓へ座りたいかという、自分で書いた予定だけだった。


パンの籠には、形の崩れた一枚が残っている。セシリアは二枚目のパンを選び、次の日曜の席を自分のために空けた。

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