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私のいない夜会で、どうぞ『真実の愛』をご披露ください  作者: 九葉(くずは)


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第一話 最後の青の間

二十人分の席札のうち、一枚だけが伏せられていた。


青の間へ入った客は、それを欠席者の名だと思ったらしい。誰も触れず、音楽が始まるまでの短い時間を暖炉の前で過ごしている。セシリアだけが、伏せた理由を知っていた。


北部のハルベルク侯爵は、先月、長男を亡くした。向かいへ戦勝の話を好む伯爵を置けば、食事の前に帰ってしまうだろう。伯爵の席を二つずらし、代わりに植物採集を趣味にする老子爵を招いた。伏せた札は、その変更が整うまで名前を待たせている。


セシリアは札を表へ返した。楽団へ向けて白い休符札を一度掲げる。弦の音が止み、給仕が客を席へ導くための静けさが生まれた。


「侯爵様、今夜は北の温室で咲いた蘭のお話を、ぜひ子爵様へ」


亡くした息子の名にも、戦にも触れない。老子爵が蘭の冬越しを尋ねると、侯爵は長く閉じていた口を開いた。


これで一つ。


青の間では、何も起きなかった夜ほど成功とされた。声を荒らげる者がおらず、古い恨みが新しい侮辱へ育たず、翌朝に詫び状を必要としない夜。何も起きなかった理由まで覚えている者は少ない。


夫のレオナールは暖炉のそばで、南国の使節を相手に葡萄酒を飲んでいた。公爵家の黒真珠を耳につけたセシリアが近づくと、彼は待っていたように杯を持ち上げる。


「南の方々は話が長い。港一つ決めるのに、春までかかりそうだ」


使節の指が杯の脚から離れた。


「旦那様は、春まで語り合えるほど大切な港だと申しております。雪解け後の荷を、両国で最初に迎えたいのでしょう」


「ああ、そういうことだ」


レオナールは笑い、使節も半拍遅れて口元を緩めた。港の話は続いた。明朝には外交院へ新しい提案が届くはずだ。


夫は妻を見なかった。


壁際に立つアドリアン・ルヴェルが、使節ではなくセシリアへ視線を向けていた。王立外交院の次官は、今の言い換えが誰のためだったか分かっている。それでも何も言わない。中立を重んじる人らしい、整った沈黙だった。


セシリアは次の卓へ移った。


八年前から同じことをしている。客の喪に合わせて音楽を変え、仲違いした姉妹を同じ花の話へ招き、夫が忘れた弔意を前日のうちに便箋へ整える。レオナールは率直だった。彼が率直でいられるよう、言葉の尖った先を受け取るのはいつも彼女だった。


「お義姉様、ミュゼン伯爵夫人がお帰りになりたいそうです」


マリアンヌが声を潜めた。


伯爵夫人の視線の先には、十年前に婚約を破棄した男がいる。招待の返書では欠席となっていたはずの客だ。夫の判断で、昼に追加されたのだろう。


セシリアは給仕へ合図を送り、庭園側の扉を開かせる。伯爵夫人には新しい月下香を見せるという名目で別室へ移ってもらう。男にはレオナールが探していると告げ、反対側の書斎へ案内した。


二人が互いを見ずに帰れるまで、四半刻。


「助かりました。お義姉様は、誰がどなたを嫌っているかまで全部ご存じなのね」


マリアンヌの感嘆には悪気がない。セシリアは微笑んだ。


「嫌っているのではありません。まだ、同じ部屋にいるには早いだけです」


楽団が次の曲へ移る。今夜のために外していた曲だった。若い楽師が譜面を取り違えたらしい。ハルベルク侯爵の亡き息子が好んだ旋律。その最初の音が鳴る前に、セシリアは休符札を掲げた。


白い札が灯りを受け、音は生まれないまま消えた。


その時、正面の扉が開いた。


レオナールが一人の女性を伴っている。珊瑚色のドレスを着たリヴィア・アルノー伯爵夫人は、喪を終えたばかりの若い未亡人だった。彼女の手はレオナールの腕に重なり、客たちの間を隠れる様子もなく進んでくる。


セシリアは休符札を下ろした。楽師たちはまだ弓を浮かせている。夫が何をするつもりでも、亡き青年の曲をその背景にはさせられなかった。


「皆に話がある」


レオナールの声はよく通った。


「私はリヴィアを愛している。偽りの夫婦を続けるつもりはない」


誰かが杯を受け皿へ置いた。硬い音が一度して、青の間から会話が消える。


セシリアは夫の顔を見た。長い決断を終えた者の晴れやかさがあった。隣のリヴィアも頬を上げている。その幸福を疑う必要はなかった。


黒真珠が耳に重い。


レオナールが今夜に限って食事へ遅れなかったことを、セシリアはそこで理解した。私的な晩餐に彼が姿を見せず、二人分の皿を下げさせた夜は九度ある。多忙なのだと、自分へ説明してきた。十度目の今夜、彼は別の女性と時間どおりに現れた。


「離縁の書面は明朝、君の部屋へ届ける。条件に不足があれば申し出てくれ」


客の前で話すべきことではない。けれど夫は、隠し立てを嫌う自分を誠実だと思っている。


アドリアンが一歩だけ動いた。彼の隣にいた使節が袖へ触れると、その足は止まる。マリアンヌは扇を閉じたまま、兄と義姉を交互に見ていた。


リヴィアがセシリアへ向き直る。


「セシリア様。公爵様から伺っています。離縁後も、わたくしが困らないよう教えてくださると」


屈託のない声だった。すでに合意された引き継ぎを確認するような口ぶりである。


「リヴィアは君のような作られた礼儀は好まないが、最初は支えが要る。難しいことではない」


レオナールは卓上の席札を指先で弾いた。


「客の好みと席順を教えればいい。君なら、次の女主人を整えられるだろう」


作られた礼儀。先ほど夫の港を守った言葉も、伯爵夫人を庭へ逃がした扉も、楽団から一曲を消した白い札も、彼には飾りとして映っていた。その飾りだけを、次の愛へ掛け替えたいのだ。


セシリアは席札を元の位置へ戻した。


「承知いたしました。今夜のお客様をお見送りしてから、お返事いたします」


声は乱れなかった。レオナールは満足そうにうなずき、リヴィアの手を取る。客たちは視線の置き場を失っていた。


セシリアは楽団へ休符札を下ろす合図をした。選び直した穏やかな曲が始まる。


「ハルベルク侯爵様、お車の用意が整いました。庭園側からお帰りいただけます」


一人ずつ名を呼び、扉まで送った。事情を尋ねる者には、今夜は夫婦の私事で心を騒がせたことだけを詫びた。夫の勇気も、リヴィアの真実も褒めなかった。誰の非も言葉で包まない。


マリアンヌは最後まで残りかけたが、兄に呼ばれて振り返った。アドリアンは何も尋ねず、退出の礼だけを取る。彼のために用意した言葉も、今夜は必要なかった。


青の間の灯りが順に落ちた。


楽団の休符札を箱へ収める。次回の日付を書いた予定表は閉じた。公爵家の机には、いつもなら翌月分の白紙が置かれる場所だけが残っている。


最後の客を見送ると、セシリアは白紙の招待状を自分の書箱へ戻した。


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