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第57章 燃える塔


塔から少し離れた林の中で、ウィルたちは息を潜めていた。


トルシア、ミルバーグ両国の精鋭部隊で編成された十二人は、ゼリア兵の騎士服に身を包み、口元を布で覆っていた。左腕には、識別用の赤布を巻いている。


この位置なら、塔全体を見渡せる。


塔で非常事態が起きない限り、こちらが動くことはない。セシリオが王宮を制圧するまで待機し、何事もなければそのまま帰国することになっていた。


張り詰めた静寂の中、不意に風を裂く音が響く。


一本の火矢が、塔の屋根へ突き刺さった。


続けざまに二本、三本と火矢が放たれ、乾いた屋根へ炎が燃え移る。


「放火だ!」


塔を警備していたセシリオ派の護衛二人は、すぐさまホースを手に取り、火元へ向けて放水を始めた。


だが、その前へ二十名ほどの近衛兵が駆け込み、先頭に立つ隊長が鋭く声を張り上げる。


「国王陛下のご命令だ! 消火をやめろ!」


護衛の一人が、塔を背に一歩前へ出た。


「おやめください。セシリオ殿下より、王女をお守りするよう命じられております」


「国王陛下のご命令に背く気か。取り押さえろ!」


近衛兵たちが一斉に護衛へ襲いかかる。


さらに数名の兵が、松明を手に塔へ向かって駆け出した。


その光景を見た瞬間、ウィルは戦況を把握した。


――火はまだ間に合う。近衛兵を制圧しなければ、アリスを安全に救出できない。


「ジョン」


「はっ」


「トルシア隊は迎撃。松明を塔へ近づけるな」


「承知!」


「エリオット」


「はい」


「ミルバーグ隊は応戦しつつ、消火を優先しろ」


「お任せください」


全員の返答を確認すると、ウィルは近衛兵隊長へ視線を向けた。


命令を飛ばし、戦場を動かしているのはあの男だ。


「オレが頭を抑える。戦況が落ち着きしだい、王女を救出する」


ジョンは力強く頷いた。


「承知しました」


そう答えると、真っ直ぐウィルを見据える。


「ですが、危険だと判断されたら、迷わず王女を優先してください」


その言葉に、エリオットも力強く頷く。


ウィルは二人を見つめ、短く頷いた。


「不要な殺傷は避けろ。制圧を優先だ」


「はっ!」


次の瞬間、十二人は一斉に林を飛び出し、近衛兵との距離を一気に詰めた。


突然現れた兵たちに、近衛兵隊長は目を見開く。


全員がゼリア兵の騎士服をまとっている。


だが、その部隊に見覚えはない。


しかも、迷うことなく近衛兵へ襲いかかってきた。


「何者だ!」


隊長が叫ぶ。


その隙に、ウィルは一直線に間合いを詰めた。


隊長の前へ、副官二人が立ちはだかる。


一人目の剣を受け流し、そのまま柄で鳩尾を打ち抜く。


苦悶の声を漏らして膝をついた男の横をすり抜けると、もう一人の剣を弾き上げ、返す峰打ちで首筋を捉えた。


副官は、その場へ崩れ落ちる。


「貴様……!」


隊長が鋭く踏み込んだ。


互いの剣が激しくぶつかり合う。


鋭い連撃だった。


しかし、ウィルは一歩も退かない。


隊長の剣を最小限の動きで受け流しながら、ウィルは一瞬だけ周囲へ目を走らせる。


松明を持つ兵は次々と制圧され、ミルバーグ隊も消火を続けながら近衛兵を押し返している。


――押しきれる。


その時だった。


隊長が渾身の一撃を振り下ろす。


ウィルは半歩だけ身を開き、その斬撃をかわすと、一気に懐へ踏み込んだ。


柄打ちが鳩尾を捉え、体勢を崩した隊長の首筋へ峰打ちを叩き込む。


隊長は、そのまま力なく崩れ落ちた。


「隊長!」


近衛兵たちの動きが一瞬止まる。


その瞬間だった。


屋根を包んでいた炎が、一気に吹き上がった。


ウィルは反射的に塔を見上げる。


――アリス!!


想定以上に火の回りが早い。


――まずい。


「救出に向かう」


「こちらは何とかします!」


ジョンが応じる。


ウィルは短く頷いた。


「塔から飛び降りることも想定しておけ」


「水を!」


頭から浴びた水が、騎士服を一瞬で濡らす。


ウィルはそのまま、燃え盛る塔へ駆け込んだ。


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