第19話 デートタイム到来です 番外編6/6【完】
「そんな偶然あるんだな、このガチャここの水族館限定らしいのに」
「小さい頃一回家族と来たことがあるんです、多分その時ですね」
「随分と長い期間あるんだなこのガチャ……じゃあ俺が付けたら愛ちゃんとおそろだな!」
蓮とおそろいのクラゲキーホルダー、恋人みたいで恥ずか……あ、私達はもう恋人でしたね。にしても年季が入った私のクラゲと比べて、新品クラゲはここまで色鮮やかだったとは。
蓮のバックに取り付けたクラゲを揺らし、私達は水槽のクラゲをゆったり見ながらあれこれ喋っている時。背中にポスッと誰かとぶつかってしまいました。
「あ、ごめんなさい……」
小さな女の子が泣きそうな顔をしながら謝ってきました。
「どうしたの? もしかして迷子かな?」
スムーズにしゃがんで女の子の視点を合わせる蓮。蓮のこの迷いなくする優しい行動、私はとても好きなのです。私も見習ってスパッとしゃがみます。
「うん、お姉とはぐれちゃったの……うぅ」
「大丈夫大丈夫、すぐお姉ちゃんに会えるから。愛ちゃん、とりあえず迷子センターに行こう」
「そうですね」
この迷子で泣く女の子、私は何処か既視感を覚えます。この光景、この状況。
「そうだ、じゃ~ん、このクラゲちゃんをプレゼント! はいどうぞ」
涙を拭った小さな手に、バックから外したクラゲのキーホルダーが。受け取った女の子は嬉しそうにはにかんで笑いお礼を言います。
「ありがとうお兄さん!」
蓮と女の子の姿が、忘れてしまっていた大事な古い記憶と重なり蘇る。
私は家族とここの水族館に訪れたのは、ここの地域に引っ越してきたばかりの頃。私も同じようにして迷子になっていました。
そんな迷子の私を元気付けてくれた、当時小さかった私と同じ背丈の男の子。偶然居合わせたその子も、こうして同じように、私にクラゲのキーホルダーをくれたのです。
そうだ、そのお礼をしたいと言ってから私達は……
「あ、お姉発見!」
「早ッどこどこ?」
「お姉ー!」
と言って駆け出しお姉に抱きつく女の子。そのお姉は、女の子と私達に二重に驚き。
「わわっ野生のバカップルですぅ!」
「「増野さん!?」」
何故増野さんがここにいるんですか。偶然にしても偶然すぎないですか。亀石さんとこぞって、私達の水族館デートを妨害しようとしているのではと疑ってしまいます。
「お姉の知り合い?」
「近づいてはダメですよ、バカが移ってしまいます」
「でもクラゲ貰ったよ」
お姉にクラゲを見せびらかしながら、私達の方を指さして言います。
「クラゲはどうもありがとうですよ」
妹を私達からバカが移らないように、身体に寄せながら吐き捨てます。増野さんも私と同じくらいのアホウだと思いますけど。
「増野さんは姉と言うより妹だと思ってました」
「俺も同じく」
「れっきとした姉ですよぉ!」
そんな通常運転なプンスカお姉は、妹の手を繋ぎながら私にサッと近づき。
「地下一階の端は誰も来ないお楽しみスポットなので、さっさと行って彼氏に襲われるがいいですよ」
「なあ!? れ、蓮に聞こえてますって!」
「じゃあまた大学で会いましょう~!」
爪痕を残して去る台風二号こと増野さんは、妹さんを連れて行ってしまいました。全く困ったもんですね。
「……行きます?」
「行くの!?」
「持ってますから」
「何を!?」
「パクチー」
「どう使うんだ!?」
「物理的に」
「物理!?」
蓮をおちょくった私は、ふふっと笑いながら物理パクチーをバックにしまいます。その時、バックに入っていたポーチに付いたクラゲが手に触れフリフリ揺れます。
……私はこれも、蓮に正直に謝らなければなりません。
「蓮、私のことを幻滅しないでください」
「ええ、いきなり何を、別にパクチーしても幻滅しないよ?」
「そうではないのです……これ」
私はポーチのチャックを開けて、中に入っていた、テープで補強されたラブレターを取り出します。
「……! これって全部……!」
「……ゆ、許してもらわなくていいんです。私、ただ蓮の反応を見たいが為につい破いてしまっていたので、全て内緒で修復して持ってたんです。いつか言おうとして入れていましたが、タイミングを失ってまい……って蓮!? ごめんなさい、な、泣かないでください!」
「いや、嬉しくてつい」
ポロポロする蓮は先程の女の子同様に手で涙を拭っています。
そういえば、私がモールスした時もポロポロしてましたね……腹筋付き合う宣言をした私も、ヤブレターを隠し持っていた私も許してくれる蓮。増野さんの塩湖のように広い心よりも広い、カスピ海ですね。
「これ全部一人でくっつけてたの?」
「さっ左様でございます」
「おわ~凄いなこれ、損害なく全文読めるぞ」
かつて書き留めたであろうラブレターの文章を確認する蓮。文章力がまだ備わっていなかった好き好き怪文を読んだ蓮は、自分の文に引いています。
「私のことについては引かないんですね」
「そりゃそうだろ。でも、これからはラブレターを破られずに渡せるな」
「ラブレターはこれからも破りますよ?」
「え?」
「寧ろ、隠さず堂々と蓮の前で破いて、即修復出来るんですから、しないなんて選択肢は無いんですよ?」
イタズラ笑顔な私は、蓮の手を引っ張りながら、ライトアップしているクラゲの大きな水槽に進みます。
「蓮、覚えていますか? 私達、ここで初めて出会ったんですよ」
「え……あッここの水族館ってあの時の!?」
かつて、迷子の私の手を引いて元気ハツラツに歩く男の子。お礼を言いに家まで行ったはずなのに、照れくさくて言えずにいた私。そのまま友達として過ごしてきた幼馴染二人は、こうして初めて出会った場所に辿り着いたのです。
「ここで初めて出会った時に贈るはずだった言葉。その《《初めて》》を今、蓮に贈ります」
私は蓮の顔を見上げる。水槽ライトアップの鮮やかな光が反射する、蓮の綺麗な瞳と視線を交わします。
……今この思い出の場所で、あの時言えなかったことを。
「蓮、私を見つけてくれて、ありがとう! これからもよろしくね!」
「……! こちらこそ、俺に出会わせてくれて、ありがとう」
蓮が私の手を引っ張ってくれたように、蓮が私に好きと言ってくれたように、私はこれから少しずつでも、蓮がしてきた行いを仕返ししていくのです。
たとえそれが、講義中だとしても、ね。
完




