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相笠さんは金縛りくんにイタズラしたい  作者: おりみみ


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10/19

第10話 ご奉仕タイム到来です 中編

 増野さんとパクチーが興味深々にポーチを開いたその中身。二十八枚にもなるテープで修復されたラブレターがギッシリ入っています。一枚増えてるのは昨日の帰りに貰ったラブレターです。


「ほ、本当に全部取っておいてたんですねぇ」

「そもそも笠原さんこんなにラブレター書くなんて変わってますね」

「「亀石さんが言いますか?」」


 先頭になっている古くなったラブレターを手に取る増野さん。


「これ凄いボロボロですよ、何回読み返したんですか?」

「え、ええ? 別にそんな読み返してなんかいませんよ、ラブレターを受け取る度に最初に貰ったそのラブレターを比較の為開いてはいましたが」

「少なくとも二十回以上は読み返してるのですか……」


 最初のラブレターを開いて文章を読む二人。その文章を暗記している私は脳内で思い返します。


 《好きです、付き合ってください。俺は愛ちゃんがとても好きです。好きで好きでたまりません。好きで───》


「これ好き好きしか書いてませんよぉ怖いですぅキツいですぅ」


 とラブレターを手から遠ざけ拒絶反応を起こす増野さん。


「文章が壊滅的に終わってますね、これでよく大学入れましたよ」


 と蓮をナチュラルディスる亀石さん。


「その語彙力の無さがまた良……面白いのです」


 と蓮に完璧なフォローをする私。


 不安な顔をする二人は続いて真ん中らへんのラブレターを手に取ります。その形状はラブレター十八号ですね。その文章を私は脳内で思い返します。


 《明け暮れる冬の晩、大学の帰りで貴方は笑顔で手を振り返す。その度に俺は貴方の愛らしい笑顔に励まされ───》


「誰ですかぁこの人、ラブレター職人でも雇って書いて貰ってるんじゃないですか?」

「恐らくパクチー不足で人格が変わってしまったんですね」

「全部蓮直々の執筆ですよ」


 恐怖顔な二人は手を恐る恐る最後のラブレターを手に取ります。


 その最近のラブレターはとてもいい出来でしたね、その文章を思い返しましょう。


 《「私は腹筋と共に生きていくと決めました。貴方との婚約を破棄します」そう言い放つ令嬢アイ・アイガサは腹筋と手を取り合って階段をかけて行く。ああ腹筋め、アイ様を奪い返しこの恨みでねじ伏せてやる───》


「なんかラブレターで小説書いてますよ!?」

「等々ここまで来ましたかって感じですね。あと腹筋のどこに手があるのでしょうか」

「これ蓮が可哀想な目に合う展開に目が離せなくなるんですよ、今後の展開が楽しみです」


 ラブレターを読み合う二人と蓮の手を握る私。そして救急車は病院に到着し蓮を運び入れ診察、特に異常は見られないと診断された蓮は病院のベットで寝かされることになりました。





 ◇◆◇





 病院の一室、私と蓮の他誰もいないこの部屋で機械音が一定のリズムを刻んでいます。


 増野さんと亀石さんは日も暮れて来ていることもあり、手土産のみかんと飲み物とパクチーをおいて帰宅しました。

 実家には連絡しましたし、終電までは時間があるのでそれまではここで蓮を見守ることが出来ます。


 いつもは一時間で目を覚ます蓮が、こうして何時間も目覚めずにいるのは異常事態。

 もしかしたら、明日も、明後日も、何ヶ月も目覚めずに寝ているかもしれません。


 けど私はこれまで通り講義を、大学をサボれば良いのです。私が蓮をずっと見守ってますから、目覚めた時蓮が一人でないように……


「蓮、私は怖かったんです」


 瞼を閉ざす蓮に私は話しかける。


「蓮と付き合うことを承諾してしまったら、今の関係性が変わってしまうのではないか、と」


 私の言葉に反応のない蓮は静かな呼吸を繰り返すのみ。


「私は嬉しかったんです、蓮が私に振り向いて欲しくてイタズラをしてくることが……身勝手ですよね」


 蓮を握る私の手に、涙がポトポトと落ちる。


「私のこの膨らむ感情を、金縛りでのイタズラや腹筋で無意識に誤魔化していたんです」


 私はズルい女なんです。

 蓮の言葉を拒み、己の心さえ否定し続けていた私が、何も聞こえていない蓮に一方的に言うのですから。


「私は蓮のことが好きです。好きで好きでたまらないのです。好きになる程に怖くなってしまったのです……けどもう、私は逃げません。だから、蓮……」


 私は蓮の表情を思い出す。


 ラブレターをさりげなく渡す蓮の笑顔。

 私の隣で真面目に講義を受ける蓮の横顔。

 金縛り中目を見開いた可哀想な蓮の顔。

 私が金縛りの演技をしてお弁当を取り出す必死な蓮の───


 ───白雪姫みたいにキスで起こすのはどうでしょう


 その時、不意に増野さんのあのセリフが脳裏を過ぎる。


 私が今、出来ること。

 それは手を握って傍に居ることの他に、いつもしていることがあるじゃないですか。


 私は蓮の手を握ったまま身体を寄せる。


 蓮、蓮が私にしてきたイタズラを本当の意味で返す時が来ましたよ。これが私の、今世紀最大の仕返しです。


 窓から夕日の光が照りつける中、私と蓮の顔が至近距離まで近づく。

 影でシルエットになった私と蓮が重なった。

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