73五里霧中は敵を誘う
望みの可能性はほぼゼロに等しい。
だが行動するしかない。それが俺たち殺し屋という複雑な職業だ。
「いい返信が来れば勝ち」
来なければ俺たちでどうにかするしかない。今はその方向性で動いていこう。アルチュールにもこの案件は相談済みだ。
「うっし!」
一見白川家のことのようだけに思えるが、実は他にも大量の依頼が届いている。極力簡単な依頼は部下たちに任せて、優先順位が高いものから片付けていこう。今まで3人でやってたことを1人でこなさなくてはいけない。ロルバンは死亡。セレナは意識不明。もうどうしたものか。
ki殺し屋はいまが一番弱くて脆い。助け合える仲間もいなけりゃ、求める相手もいない。こちらから歩み寄らなくてはいけないことは分かってる。でもいまはそれどころじゃなくて。目の前の仕事で手一杯。
もう何日も寝てない。目の下にはくまがたんまり出来ていた。
「あぁ...もう!」
情けない。仕事をこなせない自分がクズみたいだ。他の部署の人間は各自やることがある。
「やらきゃ」
机を叩いた振動で何枚か資料が落ちた。一度立ち上がり、大きく背伸びをした。気分を切り替えていつもの仮面被りな自分に戻ろう。
トントントン
再び席につき仕事を始めようとしたとき、部屋の扉がたたかれた。こんなときに来客?誰だ。
「ほーい」
「.....おー!ニクラス見ろよ!あいつの言ってたことは本当だったぞ!」
「うぅ...あぁ.....」
「えっ———?」
そこには、元ラビットアサシン幹部、ヨナスとニクラスがいた。
ヨナスがニクラスの腕を引っ張り部屋に入れようとした。
「おい、お前らなんで」
「おぉ!コア久しぶり!」
ヨナスは弾けた笑顔を浮かべて机の上に座ってきた。続いてニクラスも部屋に入ってきた。部屋の床が軋む音がした。
「.....」
「なんか暗くなーい?」
いや、だって。
まさかこの2人がここに来るなんて、思ってなかったから。久しぶりすぎて、随分前には顔も見慣れたはずなのに、初めて会ったような気分になった。
「よく、ここが分かったな」
「うん。実は、ある人から連絡があってな」
「ある人?」
「このボイスメッセージ聞けよ」
ヨナスはスマホの画面を見せてきた。
『おいヨナス。理由は伏せておく。時間があるときにコアの元に行ってやってくれ』
この声って.....
「お前らが大好きなアルチュールだよ。なんかよくわかんねぇけど、来てやったぞ。何か役に立ったか?」
なんで、なんでいつもお前はそうなんだ。俺の中身全部把握してんのか?
「あぁ...お前らをいま、必要としていた———!」
「てめぇ泣いてんのかぁ!?子供かよ!」
「黙ってろよな。ニクラスも、来てくれて本当にありがとう」
ヨナスの真横に立っていたニクラスにもハグをした。
相変わらずまともな返事はないけど。手の感じでなんとなく前と変わらないな、って分かる。
「なんかあったのか?」
「.....荷が、重くて」
するとニクラスが大きな声で言った。
「手伝...うぅ!」
「ははっ」
なぜ敵だった相手がこんなにも頼もしく見えるのか。その答えはもうすでに出ていた。




