72最強の駒
「もしもし?元気か」
『コアさんお久しぶりです。何とか1人でやってます』
「そうかそうか。それならよかったよ。あれから春綺とは会ったか?」
『一度も会っていません。面会の連絡が警察から来たんですけどね。毎回断っています』
俺は静かに微笑んだ。電話越しに前と変わらない、教景がいたからだ。
「実はな、お前にお願い事があって電話したんだ」
『お願い事?』
「あぁ。分かっていると思うが、もちろん春綺関係のことだ」
姉の名前を出した瞬間、彼の息が止まった。生活音も全て、この世から消えた。
『…..』
「…..」
沈黙が支配する中、両者喋り出してくれるのを待った。
ちなみに、俺から発言する気はない。
正直で純粋な、あのままの教景の意見を聞きたいだけだ。
『姉が、どうしたんだ。彼女とはもう二度と会うことはないし、会いたくもない』
やっぱり、そうだよな。完全無実の下の子を殺した人間の元に行けるわけがない。俺だって行きたいとは思わない。
だけど、俺たちが調べたところで限界がある。本人に聞くのが最も効率よくかつ正確である。唯一の肉親である教景に行って欲しいんだ。
「うん。教景は絶対にそういうと思った」
『もちろん君たちには返しきれない恩がたっくさんある。出来ることなら協力したいと思ってる。だけど俺はもう社会復帰も果たした会社員なんだ』
「そうだよな」
こればかりは教景が100%合ってる。こいつの意見を害すわけにはいかない。
でも…..
「でも、今回の件はお前にしか頼めないんだ。本当に、この通りだ」
『…..この通りって、コアさんがお辞儀したところで見えませんよ』
「あっ、そう、そうだよな!」
『コアさん、本当にお元気そうでよかったです』
「お前は本当変わらないな」
こんなゴミみたいな世界で、ただ一つの目的に必死になって、全力になって。でも自分の意思は絶対に崩さない。邪魔されようが関係ない。
「お前が変わってなくて安心したよ。今回の件は、なかったことにしてくれ」
きっと貝ちゃんは怒るだろうなー。
『すみません。何お役にも立てなくて』
「いやいや、突然連絡した俺が悪いんだ。仕事頑張れよ。ぜってぇハメ外すんじゃねぇぞ」
『———はい』
最後に挨拶をして電話を切った。
「はぁー!最後に希望がー!」
結局俺らが行くしかねぇのかよ。クララの親族役なんぞ、やりたくないよ。
「お前は、どこのどいつなんだよ」
机上に置いてある白川家の家系図の書かれてある”悠仁”を指差して呟いた。
だがどうしても突き止めたい。
事件には必ず背景がある。
なぜあの一家はあぁなってしまったのか。
何が殺す原動力となったのか。
やはり嫌でも生存者を橋にして真実を知りたい。
「はぁ…..」
ため息をつきながら、教景のメールアドレスを開いた。




