20灰の証明4
『眩しっ、ここ、あれ?』
俺はふかふかのベッドで目を覚ました。脇腹に痛みが走った。
そっか、俺、セレナの仲間のアジトで警官に撃たれたんだ。俺は全ての状況を理解した。
コンコンコン
扉が叩かれた。
『つるぎ〜。』
そこには、コアがいた。
『あれ?!剣城!目覚したのか!痛くないか?』
コアは大きな声で喜んだ。
『いまさっきだ。今の状況を、教えてくれ。』
『ゆっくり休めよ。今の状況?簡潔にいうと俺は今から多田総と話をしてくる。』
俺は驚愕した。多田総?!捕まったのか?
『多田と話すのか?!今、この建物に、多田が?!』
コアは俺を宥めた。
『まぁ落ち着け。もし俺に危険が生じたらお前に合図を送る。このライトが光ったら第三盗聴室に来い。』
コアは俺に命令をした。きっとこれは、コアが助かるための策略なんだろう。
『‥いいぞ。俺が第三盗聴室に行くメリットは?』
『いっぱいあるさ。その内教えるよ。』
そう言ってコアは部屋を出ていってしまった。
これは、【ターゲットを捕えたから俺のいうことも聞け】と言いたいのだろう。
最後にあいつと話すチャンスが出来るなんて。さすがki殺し屋だな。
俺はベッドから起き上がり、軽くストレッチをした。
『最後に決着つけようや。多田、総。』
俺は勝手な独り言を言った。そして、妻に電話をかけた。
『先生のいうことは間違ってない。着いていきますよ。』
多田は上田の顔を見てポカーンとした。まさか上田が了承するとは思っていなかったからだ。多田は瞬く間に涙を流した。
『いいのか、ありがとう。ありがとう。』
上田は多田の肩を一回叩いた。
2015.12.24
多田と少年がki殺し屋を設立してから四年の月日が経った。初めは慣れていなかったものの、日に日に技術を上げていくたびに依頼が殺到した。
『今日のホシはこいつだ。』
多田はジョセフという偽名を使ってki殺し屋のトップに君臨していた。
最初は多田、上田で殺し屋を経営していたが、二人だけでは人手が足りず、各自メンバーの勧誘をした。
上田は現在でいう緊急事態収束部隊のヘッド、セカンドヘッドのオーディン、アルチュールを勧誘した。
多田は現在でいう殺害部隊のヘッド、コアを勧誘した。
『徐々に人手が集まってきたな。』
多田は加藤に向かって呟いた。
加藤とは、コアの本名である。
『そうだなー。』
多田と加藤は先生と生徒という関係から、ヘッドとセカンドヘッドという関係になった。加藤はセカンドヘッドではあるものの、多田よりも技術は優れていた。
『もう俺上がっていい?』
加藤は溜めてあるドラマや映画がある。加藤は生粋のNetflix信者だ。
『業務が終わったなら帰っていいよ。』
多田は許可を出した。加藤はスタスタと部屋を出た。
『ふぅ。あと少しか。』
多田は思い詰めたような表情をした。
そして、ある人に電話をかけた。
プルルルル
『もしもし?勝地か。』
『どうしたんすか?』
『あいつの情報は集まったか?』
多田が電話をかけた相手は多田の右腕的な存在である勝地洋輔だった。
『本当に色々集まってるけど実家だけは特定できねぇよ。』
『そうか。また連絡する。』
多田は電話を切った。
彼らは富美子を誤射した男の実家を特定のしようとしていた。
多田は企んでいたのだ。自分と同じように男の母親を殺そうと。そのために何年もの間、男の尻尾を掴もうと勝地と共に情報収集をしていたのだ。
何年も何年も。地味な情報から有力な情報まで入手しその度に一喜一憂していた。
しかし、唯一手に入らない情報があった。それは、男の実家だった。
多田たちの戦略としては、男の実家に行き、男の母親を殺すという戦略だった。
そのために、毎日の情報集めを欠かさなかった。
2017.12.5
この日、多田と勝地はいつも通り情報集めをしていた。多田が机に向かい、情報を集めていると勝地から電話が入った。
『J!あいつの実家が分かったぞ!金沢だ!』
『おぉ!よくやった!』
『あとで詳細を送る。』
多田は了解、と言って電話を切った。
何年も判明しなかった富美子を誤射した男の実家。師走の日に遂に判明したのだ。
多田は小さく叫んだ。
『よし、よし、よくやった。』
多田は男の母親を殺す決行日を決めた。多田はカレンダーに印をつけた。十二月二十四日に。
多田は引き出しから殺害用の包丁を選び出した。
2017.12.24
遂にこの日がやってきた。多田が男の母親を殺す日。多田は前日から金沢市内のホテルに宿泊していた。
準備万端な状態でこの日を迎えたのだ。
『もしもし?あいつが駅を出たら連絡しろ。』
勝地も同様に、ホテルに泊まっていた。
『了解。』
多田はとても緊張していた。何度も立ち止まりそうになった。でも、ここまで来たんだ、という思いだった。仕事柄とはいえ、自分の母親を殺したことは間違いなかった。
『待ってろよ。今にも痛い目を見るぞ。』
『ターゲット金沢駅から出た。移動開始。』
多田は勝地からの合図で男の実家に向かった。
この日は晴れていた。地面は真っ白に染まり、いくつもの足跡ができていた。
多田はついに男の家までたどり着いた。多田は表札に目を向けた。その書体を見るだけで虫唾が走った。
【剣城】
『クソが、クソが。』
多田は剣城の家に侵入した。鍵は壊れており、意味をなしていなかった。
『こちらの商品、今日限定で…!』
遠くからテレビの音がした。多田は剣城の母親がいることを確認した。
プルルルル!
『はいはい、もしもし?忠信?もう着くって?分かったわ。』
ガチャ
多田はタイミングを見計らった。今なら殺せると思い、剣城の母親の背後に立った。
『動くな。』
『きゃぁぁぁぁぁ!』
グサッ!
多田が包丁を振り下ろした。
グチャ、ベチャ、グチャ!
『死ね、死ね、しねえぇぇぇぇ!!!』
多田は我を忘れて剣城の母親を殺した。
しばらくして、剣城の母親は動かなくなった。計二十回刺された末生き絶えた。
『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!』
多田は動悸が収まらなかった。心の中では止まれと思っていても体が言うことを聞かなかった。
多田は天井を見つめた。
『母さん、やったよ、僕、殺したよ。』
人が人を殺した直後、人は平常心というものを忘れる。自分がこの世で一番偉く、一番強い者と思う。
多田はハッと我に返った。包丁を投げ捨て、急いで剣城の母親をお風呂場まで運んだ。
『よし、やったぞ。』
多田は剣城宅から出ようとした。しかし、遠くから扉が開く音がした。
『クソッ。』
多田は近くの押し入れに隠れた。押入れの隙間から部屋の様子を窺った。そこには、息子である剣城忠信がいた。
多田はこのまま隠れていても埒が開かないと判断したのか、静かに扉を開けて剣城の背後に近づいた。
『動くな。両手を挙げろ。』
多田はかつての友人である、剣城を脅した。この時多田は完全装備をしており、何者か分からない見た目だった。
バン!
多田が油断している隙に、多田は剣城に押し倒されてしまった。しかし、多田は次の瞬間を見逃さなかった。
バン!
多田は剣城を押さえつけた。剣城は叫んだ。
『お前、何者だ!』
多田は複雑な感情に駆られた。目の前にいる人の母親を殺し、目の前の人を殺そうとしている。そして、目の前の人はかつての友人だ。
『東政宗』
東政宗は、その場でとっさに思いついた偽名だった。決して多田総とは言わなかったのだ。
多田は包丁を剣城の頬に近づけ、少し傷をつけた。
剣城は少し嘆いた。その様子を見た多田はこれ以上剣城を傷つけることはできないと思った。
『もう、やめろ。』
多田は一言そう言って家を出た。
遠くからシャッター音が聞こえたがそんなのどうでもよかった。
「ここまでが、僕のことだ。」
コアは話を聞いている途中から、開いた方が塞がらなかった。
「あんたの母親を殺したのが剣城でその逆恨みであんたは剣城の母親殺した。お互いの復讐だったってわけか。そんなやつに、俺らは踊らされていたのかよ。」
多田は深く頷いた。
「もう全部話した。だから、話すことはない。」
カチ
「お前の命、さよならだ。」
コアは多田の頭に銃口を突きつけた。
「殺せるのか?」
多田の目は鋭かった。
ガチャン!
「死ぬのはお前だ。」多田はコアのトカレフをあっさり奪ってしまった。
「ゴミカス野郎が。」
部屋には盗聴器が仕掛けられていた。もちろん、セレナ達は部屋の会話を全て聞いていた。
「コア!」
セレナは盗聴室から飛び出した。
コアと多田が話している部屋の前まで来た。そして、叫んだ。
「ジョセフ!コアを解放をしろ!」
「お前ら、よく見とけ。今からコイツの頭が吹き飛ぶぞ。」
セレナは息を荒げながら扉をこじ開けようとした。しかし、すでに多田が鍵を施錠していた。
「開けよ、開けよ!クソがっ!」
セレナは扉を何度も叩いた。もう、終わりだ。その時だった。
「多田総!よく聞け!」
セレナが声のする方に目を向けると、そこには松葉杖をついた剣城がいた。




