青天霹靂・大転移 2
かなり遅れました。すいません
■ ???? ?/? ??:??
(俺…… 生きているのか)
目が覚めると部屋の照明が落ちているのか辺り一面薄暗くなっており、そこに場の全員が倒れ伏していた。
(電源が落ちたのか…?)
軽く茫然自失しているが次第に意識が明瞭になる。
「何、現実逃避してんだ。俺はッ とにかく」
とにかく皆を起こさないと。
と、隣の大翔や他の生徒の肩を揺さぶり「大丈夫か」と声をかけていると、あちらこちらで意識を取り戻した人が起き上がる。
「いったい、何が起こったんだ……」
ーーそんなこと、俺が知りたい。
起き上がりざまの大翔の言葉に心の中で龍斗は返した。
「とにかく、手ェ掴め」
「おう、ありがとよ」
大翔の手を引き上げ、彼を起き上がらせる。
どうやら青い粒子になって消えた彼のの左腕も何ともないらしい。
(やっぱり、さっきのことはただの幻覚だったのか?)
何もかもが青い粒子になって消えたさきの異常事態を思い返している。うん、やはりあんな出鱈目なこと起こるわけがない。
科学的な説明がつかない。人が粒子状に分解されるなぞ物理的におかしい。
恐らく近くの港に併設されている無人工場の大型ガスタンクからガス漏れが発生してそのガスと爆音でパニックが伝染し、一時的な集団幻覚に陥ったに違いない。それならば、最初の爆音も高圧ガスの噴出音だと理由が付けられる。
無理矢理なこじつけの様な考えではあったが、自分の中で適当な理由を付けて置かなければまともではいられない。
未だ頸を蛇が這うような悪寒はするが、龍斗は思考のリソースを周囲の人の救助に割くことにした。
◆◇◆
講堂にいる人の殆どが回復していた。混乱は続いてはいるが、幸いなことに大きな負傷を負う人はいなかった。
今は生徒全員が話しながらではあるものの、教職員の指示に素直に従ってクラスごとの2列縦隊に並んでいるところがある意味、相対的いい子ちゃん揃いの進学校らしいところである。
「なぁ、リュート。やっぱさっきのなんだったんろうな」
「さあ、いまはなんとも言えないな」
状況は未だ不明ではあるが、落ち着きをもって龍斗は答えた。
ただ、一言言えるのはさっきの現象はあり得ないことであり、自分たちは大丈夫だと言うことだった。しかし、それはあまりにも甘い考えだと言わざるを得なかった。
なぜなら、それは現状の考察ではなく自身の常識に基づいた憶測でしかなかったのだから。
新たな異変はすぐにすぐに始まった。
やたらと外が騒がしい、声の様子からしてその声音は動揺と受け取れるものであった。
それは校舎にいる連中が先の自体から回復している途中であるが故のものであると考えていた龍斗だが、どうも違うらしい。先から「何故」や「どうして」といった受け入れがたい現実を、今この瞬間に目の当たりにしているような絶叫のそれなのだ。
確かに自身は先の現象はありえないと断じた、そう、すでに大丈夫なはずなのだ。これ以上いったい何があるというのだ。
すでに講堂内は恐怖の声によって想起された不安と動揺が再び支配する。
先ほどから幾人かの教師が確認のために校舎へ向かっているのだが一向に帰ってこない。講堂に設置されている窓はギャラリーやキャットウォークのある二階部分にしかない為、一階で集合している龍斗等には窓を通した青空しか見えない。
不安のピークが最高潮に達した時、遂に自体が動いた。
「飯塚先生ッ! 外の…外がッ!」
講堂に駆け込んできた若手の教職員は学年主任の飯塚に対して詰め寄るように迫るそれはとまさにあらゆる意味で異常であった。その様子然り、次に出た発言の内容然り、
「街が…消えていますッ!」
言っている意味が理解できなかった。消える? 街が一体どうやって消えるのだ? 先の現象によって街が震災後の如く建物が倒壊し、がれきに埋め尽くされたとかではなく、消えた? やはりこの教職員は一旦落ち着くべきだろうと会話を尻目に龍斗は思考するが、どうやら他の生徒はそうは思わなかったらしい。
列から幾人かが抜け出し、正門前のロータリーに続く講堂のメインの出入り口に殺到した。
そして、開け放たれた引分型の扉から飛び込んできた外の光景は講堂内にいる人々の理性を今度こそ完璧に打ち砕いた。
その光景は、成程、確かに消えているという表現が正しいだろう。当に文字通りの意味で消えているのだから。
見慣れた街並みはビルどころか街中を飛び交っていた宅配輸送用などの無人機の1機すら見当たらない。そして、そこに広がるのは高明な画家が描いた風景画を切り取ってきたとしか思えないほどの草原があった。朗らかな午後の陽光に照らされ、ところどころに白い花を咲かせているその光景はまるで天上の世界の様にすら思える。
だがそれは、彼らにとっては死刑宣告の様に付きつけられた。
「....は?」
誰が発したか分からないその声はある意味その場の人々の意思を代弁していた。
全くもって意味が分からない。
講堂に居る者達は度を越した現実の前にもはやパニック状態にすらならなかった。ただただ、肉食動物を前に固まる小動物の様にオーバーフローを起こし、茫然自失となるしか無かった。
◆◇◆
教室にこれ程までの静寂が漂うことがあっただろうか。
幾人の生徒は机にうつ伏している。いまだに先程の光景が受け入れがたいのであろう。それでも、龍斗が窓の外を見渡すと変わらず草原が広がっていた。違いはやや日が傾いているぐらいだろうか?
結局、集会は中断され講堂の生徒達は教室に戻り待機を命じられていた。そうして教師たちは2時間ほどたった今も教員室で延々と会議を行っている。
・・・それでどうにかなる問題とは思えないのだが。
改めて龍斗は状況の確認をする。現状の正しい把握こそ的確な行動を促し、最終的に最良とは言えないかもしれないがそれでもまだマシな結果を手繰り寄せることができるからだ。
14時15分前後、正体不明の高周波が発生。そこからおよそ5分後同様に正体不明の無差別な青色粒子分解化、気が付いた時には学校施設外は軒並み草原になっていた。
つくづく、人の理解を拒む事象だと実感する。その当事者である以上たまったものではないが。
考えられる可能性はいくつかあるが、大別して二つ。
人が異常になったか、周りが狂ったかだ。
正直言って、自分だけがトチ狂って変な夢を見ていると思いたいが、幸か不幸かしっかり痛覚はあるし、過去にここまではっきりした明晰夢を見たこともなかった。
だとすれば、狂ったのは人以外ということになるが これに関してはさっぱり理解不能だった。
推理小説で言うところのフーダニットもホワイダニットも分からない。
ハウダニットにいたってはまともな考察や分析もできる気がしない。それこそ、どこかの謎の組織が睡眠ガスか何かで生徒教職員全員を眠らせて、どこかの草原にそっくりの施設を作り上げてそこに放り込んだなんて妄想まがいのことも考えられる。
正直、お手上げだった。さらにいえば、理解不能なことはさらに増えていた。
「なぁ、やっぱリュートのスマホも使えねぇのか?」
顔を歪めた大翔がスマホを片手に話しかける。
スマホが使えない。正確にはネット接続ができないとあるのだ。この7Gの情報通信ネットワーク時代においてにも関わらずだ。軌道上にある無数の衛星間の量子通信ネットワークを介することで文字通り世界中のどこでも自由にネット接続が可能な現代においてにも関わらずだ。
「そうみたいだな。ったく、今日日ネットが使えない場所なんて北氷海域とか南氷大陸ぐらいなのにな」
仮にここが7Gネットワークの圏外? な場所であるならば7Gの存在を前提とした現代の情報通信機器は軒並み役にたたくなる。このスマホも文鎮ぐらいにしかならない。当然、ラップトップだって大して変わらない。
そしてその事実が龍斗ら現代人が取れる行動の大半を喪失したと行ってよかった。今後は暗闇を手探りで進む様な行動しか取れないだろう。
気が滅入ることこの上ないが、事実として受け入れるしかないだろう。
気がつくと周囲の生徒もちらほらと会話を始めている。日常の会話に努めているようだが、それでも日々の喧騒があることに心の何処かで安心する龍斗ではあったがその喧騒もすぐにかき消さされた。
教室の戸を開け入ってきた担任の顔が少しやつれているように見えるのは龍斗だけではないだろう。察するにこの異常事態に対して職員会議においても建設的な会議が出来なかったと見える。
その鉛のように思い空気はゆっくりと教室を覆った。
■ 推定共歴C.E.2047年 10/22 P.M.16:53
州立清河東高等学校 Ⅰ号棟三階第三教室
結局、会議で決まったことはたった一つだった。




