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メガミレニアム  作者: グランダイ
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青天霹靂・大転移 1

■ 共歴C.E.2047年 10/22 P.M.14:02

   州立清河東高等学校 


 三時間目の授業が終了し、休み時間の教室はとても()ぎやかだ。一部、やかましいと思うほどに。


「おい、次の授業なんだっけ。リュート知ってるか」


「んぁ? たしか、講堂で学年集会じゃなかったか」


「マジかよ。面倒くさ」


 唐突(とうとつ)に話しかけられ、龍斗は少し戸惑ったが大翔にこたえた。

 小野田 (オノダ)大翔(タイト)。入学のときに出席番号の関係で席が龍斗の前であり、今ではよい友達である。外見は髪をキッチリ切りそろえ眼鏡をかけているために一見、真面目な優等生に見えるが、根っからの体育会系で野球部員だ。


「ずっと座ってると、腰が痛くなるだよなァ」


「そんぐらい我慢しろよ、それを言うなら文化部の俺の方が辛いんだから」


「体力テストの順位が最上位(オレら)ほどではないにしろ、B+評価の奴が言うセリフかよ」


 A評価に届かなかった原因はシャトルランである。


「黙らっしゃい、2番のおまえに言われたくはないわ。メンタルの問題だ。メンタルの」


「メンタルね、おまえまだ引きずってんのかよ優勝できなかったこと」


 龍斗の所属する部活は自然科学研究部の化学・物理・生物・地学のうちの物理班だ。

 物理版は長年、光についての研究が先輩から後輩へ受け継がれており、毎年全国大会に出場し、多くの賞をとってきたが、龍斗の学年は全国大会出場までは果たしたが肝心の賞が取れなかったのだ。そしてそのまま、研究の主体が2年へ移っており、今や、龍斗達3年部はほとんどいるだけの空気なのである。


「うるせぇ、優勝じゃなくて最優秀賞だ。そもそも俺が好きなのは量子力学や天体物理とかなんだよ。そろそろ時間だ、講堂行くぞ」


「ハイハイ、分かりましたよ」


 龍斗は席を立ち、既に移動をしている生徒と呆れる大翔と共に講堂へ向かった。


■ P.M.14:13

   州立清河東高等学校 講堂


「――つまり君たちは受験生の自覚をもち、より一層勉学に励み――」


講堂には生徒達がクラスごと二列縦隊で整列しており、壇上(だんじょう)設置(セット)されたマイクの前で学年主任の50代ほどの女性の教師が話している。


 なんてことはない、普通の集会である。龍斗は完全に話を右から左へ受け流している。


「なぁ、話長くね?」


 同じく話を聞いていない大翔が隣の龍斗に小声で話しかける。


「受験生になった俺たちに先生達が張り切っているんだろ」


「面倒くせェ」


 話は普段の授業の受け方と生活の態度についての言及し始めた。

 

「なァ… おかしくないか」


「…? なにがおかしいんだ。話長いだけだろ」


 龍斗が不思議に思い、言葉を返す。


「違う、 先生の話じゃない。音だ」


 言われて、龍斗は気がつく。この高校の施設の配置で、今いる講堂は敷地の端にあり外のフェンスを挟んだ先には大きな幹線道路がある。


普段から交通量が多く、自動車やバイクの走る音がする。それなのに、今は何も聞こえない。それだけではなく、講堂のすぐ傍に植えてある椿の葉擦れの音、鳥のさえずりなど、講堂に入り話を聞き始めていたときは聞こえていた音が消えている。とても()()なのだ。唯一聞こえるのは、長ったらしい教師の話だけだ。


 他の生徒達も僅かながら異変に気づき始め、ざわめきだす。


「おい、話に集中しなさい」


 周りに立っていた教師のうち、ひとりの男性教師が注意をする。しかし、集団と言うものは一度騒ぎ出すとなかなか静かにならない。ましてや学生などは尚更だ。


「いいかげんにしなさい! 自覚を持てと言われたばかりだろう!!」


 とうとう教師は怒声を挙げ生徒を叱る。だが、その反応は全く思いもしない形となった。


ギイイィィィィーーーーーィィィンーー


 ーー!?


 それはあまりにも唐突だった。


 何百、何千もの硝子を引っ掻く様な不快感きわまりない音。或いは、暴徒鎮圧用(ぼうとちんあつよう)の高周波音響兵器を至近で受けているような耐え難い音波。

 普通ならば耳を塞ぐなりして少しでも聞こえないようにするが、低下した判断能力ではそれすらままならない。これは異常だ、あまりにも。


 辛うじて分かるのは、これが聴覚器官(ちょうかくきかん)や脳がダメージを負うレベルの音の大きさであること。

 そして、音の発信源が分からないーーつまりは全方位からこの音は来ていることだけだ。


 ーー痛い痛イイタイ、辛い辛イツライ、気持ち悪い気持チ悪イキモチワルイ。


 平衡感覚どころかまともな思考すら狂わせる、まるで自身の体ごと空間そのものが歪んで軋んでいるような不快な感覚。


(なん…なんだよ、コレはぁああああーーッ!!)


 手足を動かすのも覚束ない。それでも眼だけであたりを見る。

 見渡せる範囲のなかでもうすでに大翔を含めた何十人もの人がその意識を手放し倒れて伏している。その中で龍斗はそれに耐えていた。しかし、もう限界だった。


 思考に強烈なノイズが走り、もはや四肢の感覚はない。

 奇跡的にこの異常事態のなかでまだ立ってはいたが、それが仇になった。

 

「ぐあッ!?」


 立っていることも出来なくなり、そのまま地面に倒れ伏した鈍い衝撃(しょうげき)

 それが暗転する思考の中で感じた龍斗の最期の記憶だった。


 

ーーーーーーーーー



「ーーーおい! 大丈夫か! 起きろ、起きろって!」


 ゆさゆさと体をゆすられ、龍斗は目を覚ました。

 まだ重い体を起こすと、隣に大翔が立っていた。どうやら自分は気絶していて、大翔に起こされたらしい。

 あやふやな思考を必死にめぐらせつつあたりを見まわす。

 大半の生徒や教師は先の自体から回復していた。大丈夫そうな人達がが周囲の倒れている人に駆け寄って介抱している。

 何人かの教師も目覚めてきたらしい。壇上にいた女性教師が頭を抱えつつ起き上がる。


「み…皆さん。大丈夫で…」


 全く以って大丈夫ではないその弱々しい声は生徒たちの耳に届くことはなかった。 代わりに飛び込んできたのはある女生徒の悲鳴。否、絶叫だった。


 その声は極限のあまりヒトの心が壊れるときに出る“音”であった。

 その声にある生徒は理解できない恐怖に身をすくませ、ある教師は状況を認識できず混乱し、そして龍斗を含むその女生徒を見た者は... 目を見開き絶句(ぜっく)した。


(腕が…… 消えている!?)


 そう()()()()()のだ。


 現在進行でその女生徒の右肘からまるで分解されるように青い粒子となり虚空へと消えている。


 そして、それは絶叫をあげるその口や友に助けを求めるために駆け出した両足へと広がり、さらにはその女生徒の着る制服も共に青い粒子となり消滅した。


 静寂がその場を包む。


 時間にして15秒にも満たない間に人が一人呆気なく消えた。ーー目の前で、冒涜的(ぼうとくてき)に、よくある創作物(フィクション)のように、だがそれは現実で起こった受け入れがたい事実であった。

 そのふざけた現実に見た者の理性は失せ、恐怖に心は支配され、恐怖はその消失を見ていない者にも伝播し、生徒も教師も等しく狂乱(パニック)に陥った。


 ある者は出入り口へ無我夢中に走り、またある者はその場で悲鳴をあげた。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 そして、


「おいッ、お前その足ッ!」


「…え、あ、うわぁあああああーー!! 足が消えッ、お、俺の足がぁあああああーー!!」


「ぁぁあああ、私のッ、私の手がぁああああ!!」


「先生ぇ、どういうことなんですか、これは、何も見えないよぉおおおおお!」


「嫌ッ、やめて、こっ…こっちに来ないでッ!!」


 一人、また一人と消えてゆく。何処に消えるのか分からないそれは見る物達に死のイメージを植え付ける。それが、さらなる恐怖を呼ぶ。


「おいッ! 上を見ろッ!! 天井がッ…!」


 その声は、比較的理性を保っていたゆえか、死にたくない一心による本能か。

 その者が指し示す指の先にあるはずの天井が虫喰いの如く青い粒子と化して消えているのだ。そして、その空いた穴から龍斗が見えたものは。


(なんだアレは? 膜か? いや、ガラスか?)


 物質なのか、(ある)いはある種の力場なのかは分からないが二次元に広がる磨りガラスのようなもの...いや違う、学校の施設を覆い尽くすほどの大きさの半透明の半球に空が閉ざされているのだ。

 おそらく、穴から見えるのはその一部だ。


「おい、龍斗…」


「なんだよ大翔…ッ!? おい、お前それはッ!?」


 横に立つ大翔を見ると首から下の右半身が消えていた。龍斗は慌て友の元へ駆け寄るが。


「こっちに来なくていい龍斗。まぁ…なんだ、先に消えちまうみてェだ」


 大翔は左手で龍斗に来るなとジェスチャーをし、龍斗は一瞬だけ足を緩めた。


「なにふざけたことを言ってんだッ!! 仲間を見捨てるわけねぇだろうが!!」


 左肩を掴んだが脆い結晶のようにバラバラになって青い粒子になって消え、龍斗はたじろぐ。


「おいおい、どーしてくれんだよ俺の肩。まぁ、いいや。つーことであっちで待ってるぞリュート」


「おい、マジでふざけんじゃねぇぞ。シャレにならねえこと言ってんじゃねぇぞ!、オイッッ!!」


「ははっ、それじゃあな…」


 そう言い残して――消えた。大翔だった青い粒子が閉ざされた空へと舞う。


「う…あ、あぁあああああああーーッ!!」


 いったいなんだというのだ、仲間が、恩師が、親友が消えてゆく。力が入らなくなった足が膝をつき、虚しい声をあげて親友がいたところに手を伸ばす。

 自分ではどうしようもない、だがそうせずにはいられなかった。

 ふと見ると足首から先が消えている。ーー道理で立てないわけだ。たぶん自分もすぐに消える。それでも叫んでいる。

 意味はない。しかし、極限まで追い詰められた彼の思考はそうするしかなかった。そしてーーー


「ーは、ハはッ、は派ははハ葉ッッ!!」


 ーー遂に限界を迎えた。

 狂ったように...笑う、笑う、笑う。そして閉ざされたあの空を睨むように見上げて、倒れ伏した時に負った額の傷から血が流れる。

 浅い流血は右目の目尻に溜まり、血涙(けつるい)の如く流れ落ちる。もはや顔の左半分は青い光に消えている。

 その有様は悪鬼羅刹の慟哭。気がふれたかのように嗤うそれは己が理解できないものすべてに振り撒かれる呪詛の様である。


 そして、それが最後であった...。


 そしてこの日、清河東高等学校の教職員43名と生徒742名がその施設ごとーー正確には施設周辺の道路の一部が消失したり、逆に高校の土地の一部が残ったりしてはいたが...、世界から消えた。当時、近隣住民も異常事態を認識されず、監視カメラにも数分のノイズの後に校舎が消失した映像のみであり、大規模な警察の捜査も難航した。

 数少ない判明したことは二つ。

 地質調査によって、消失...否、()()範囲が地下の電力ケーブルや水管、貯水槽を含む地下丸ごとの真球状に消えたのであろうということ。

 そして入れ替わるように出現した草原らしき場所。そこに分布している植生らしき()()らが形態・生物学的に類似する植物はあるものの遺伝子調査の結果、大和はおろか地球上の植物とは僅かに異なる遺伝子を有することから、既存の植物ではないまったくの未知のモノであることであることだった。


 この異常さから、すぐさま捜査権は警察機構から、政府の元で各方面の専門家を集められて設置された専用の研究捜査機関に移譲された。

 海外の研究機関をも巻き込んだそれは国際機関の様相を呈し、その莫大なリソースをもってその異常現象を研究・捜査したが、その異常に対して得られる情報の少なさから停滞。

 世界にいまだ人知を超えることがあるという結果だけををもたらし、研究捜査機関は設立後十年目に解体。後世に“21世紀の大神隠(おおかみかく)し”という名を遺すことになった。

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