無職が同窓会に行ったら
こっち
同窓会のメールが転送されて来た。
『久しぶり~。30歳にやろうと思ったけど待てませんでした(笑)
29歳の今、僕らはあの頃になりたい大人になれただろうか?
そんな堅苦しい事どうでもいいや。取りあえず飲もう!懐かしもう!
出席、欠席は○月○日までに→のメアドまで送ってな~。
送って来なかったら欠席扱いなぁ~。(初田)』
中学の同窓会か。初田ってリーダータイプの奴やったな。不良でも成績が良かった訳でも無いけど、明るいからリーダータイプやったな。中3の時クラス一緒でよく発言してた。
成人式の時にも同窓会はあったが参加しなかった。友達4人でこじんまりやろうと言う事で行かなかったのだ。一応友達3人にアポ取ってみた。
「無理、無理、行ける」との事だ。森田ってお笑い好きの友達が行けるらしい。
彼とは中学の時にシュールな笑いが好きって事で意気投合し友達になった。物静かな奴で不良やイケてる奴とは関わりを持ってなかった。僕はたまに不良にちょっかいをかけられてた。だからなのか芸能人で「元ヤン」って言う奴が嫌いだ。学生時代好き勝手やってそれを自慢気に話して大金稼ぐ。嫌いだ。
それはさておき、森田は来れるらしい。そんな彼に
『俺も行くわ』
と返信した。中学の時の人に会うのは14年振りだ。0歳の子が中2になる振りだ。
初田にも
『出席します。木村大吉』
と返信した。
母親に
「○月○日晩飯いらんわ」
「何で」
「中学の同窓会行くねん」
「お~、懐かしいな。色んな子に会えるから行ってきぃ。社長になってる子に仕事紹介してもらいや~」
自分で言うのも何だが、中学の時は友人が多かった。色んな奴を家に連れて来てた。卒業してからは3人としかメールしてないが、当時は友人が多かったのだ。
久しぶりにホームで戦えるようで気分がワクワクした。
~3日後~
初田からメールが届いた。
『○月○日、翔太って居酒屋で予約取りました。19時集合。予算は3000円で飲み放題でお願いします!』
翔太か!
運が向いて来ている。家の近所にある居酒屋で森田とよく行く居酒屋だ。森田に
『翔太で同窓会やな!』とメールすると
『行き慣れた店やな!チキン南蛮と刺身がセットメニューに入ってるはずやから有難いわ!』
と返って来た。
一旦森田に俺の家に来てもらって一緒に居酒屋に向かった。そこには懐かしの面々がいた。元ヤン、勉強もスポーツも出来るモテモテやった奴。かわいかった女子、まぁまぁイケてた奴。全部で30人程いただろうか。
「おう、森田久しぶり~」
初田は森田にだけ挨拶した。
「おう、元気そうやんけ」森田も返した。
「中学ん時あんま喋ってなかったやん」
「いや、仕事でたまに一緒なるねん」
「同じ会社?」
「違うよ。俺の取引先にあいつ働いててん」
「ふーん」
俺は内心焦っていた。そうだ、こいつらは就職してるんだ。もう学生じゃない。もう同じ括り(くくり)じゃない・・・
みんなで店に入った。女の子が赤ちゃん抱いてた。そうか、あの子結婚してるんや。
元ヤン男子の角田がその子に話しかけた。
「めっちゃかわいいやんけ。俺んとこのはヤンチャでなぁ。悪さばっかしよるわ」
「へぇ、何歳の子?」
「もう、5歳やで」
「もう、そんな子おるん!この子なんてまだちゃんと喋られへんのに」
そんな会話をしながら同じテーブルに向かった。テーブルは6つあった。5人ずつだ。俺は森田の横にすがる様に座った。俺が誘ったのに情けない・・・
俺ら2人以外は寿司屋の息子池田、主婦の池沢、OLの高田、ケーキ屋で働く鮎川。
このテーブルはビール5つと梅酒のソーダ割りを頼んだ。僕はビールが飲めない。チューハイしか飲めず、酒は2杯までと決めている。梅酒ソーダ割りは絶対頼む。
「おい、ここはビールやろ(笑)」と森田に言われ、このグループから「プッ」と言う嘲笑の笑い声が聞こえた。元ヤングループは全員が元ヤンだった。イケてた奴にはモテてた女子が一緒に座っていた。周りを見回しているとビールと梅酒ソーダ割りが届いた。みんなより少し早くに届いた。角田が
「梅酒なんて置きに行ってんちゃうぞ。池沢やろ、頼んだん(笑)」
「いや、違うよ木下君やって頼んだん」
森田は笑いを堪えている。角田は気付かないのか。俺は木村だ。
「おい、木下!酒飲めんでも1杯目は統一せえよ(笑)」
「さーせん」と返すとシーンとした。
・・・母さん。僕は友達一杯おる頃の僕じゃないや。30人もいるのに孤独を感じる。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
僕はトイレに行った。池田から
「飲む前に行くって(笑)」と笑われたが無視した。トイレで
「赤いアメンボ!」と叫んでも当然事態は解決されず、孤独感は継続された。
6人、いや、実質5人で喋ってるのを僕は黒子に徹して聞いていた。僕に発言権が無いと悟ってた。
「家が寿司屋でさぁ!髪短くしなあかんのツラいわぁ!」
「取引先が偉そうにしてくると殴りたくなる」
「あっちのケーキ屋のがおいしいって言われると腹立つ。そっちで買ったらええやんけ。文句言いたいだけやろ」
「オッサンの上司でキモい奴おるねん。頑張れよって言って腰とお尻の間撫でてくる」
「木下君は何かあるん?」
まず、木村やねんけどなぁ・・・
「お客さんで小指の無い人が来て、小指ないの見せびらかしてくんねん」
「そんなん警察呼んだらいいやん」
池田に話を封殺された。
「ところで、主婦って大変なん?」
「うん、朝から晩までやで。ほんで土、日もご飯作らなあかんやろ。休み無しなんがツラいわ」
「息抜きする日ぐらい欲しいよな。森田は彼女おるん?」
池田が回し始めた。
「一応・・・」
「へぇ、写真見せてや」
女性陣が群がる。僕は席を立った。森田は女性に囲まれた。
「結構かわいいやん!」
「どこで知り合ったん?」
「へぇ、職場なんや~」
「どれどれ、おいっ。めっちゃかわいいやんけ」池田がハイテンションになる。
僕も写真見せてもらおかなと思ったが封殺される気がして突っ立ってる事しか出来なかった。するとセットメニューが届いたので店員さんから立ってる僕が受け取って手伝った。
「ここの刺身鮮度わっる~」池田が文句を垂れた。森田は怒るかと思ったが笑いながら
「そりゃ、寿司屋には負けるやろ」と返した。上手いなぁ。
「けど、俺と木村はここの刺身好きやねん」
おっ、返した。さりげなく木村って言って返した。
「こんな刺身食って満足やったらウチの食ったらビビるで」
「ビビり過ぎて腹壊しそうやけどな」俺も返した。
「あ?」めっちゃ睨んできたので「ごめん」と言った。一瞬変な空気になった。すぐに池田が
「子供欲しいわぁ」と話を変えた。
「何人欲しいん?」女の子が聞く。
「そりゃ男と女1人ずつで2人でしょう」
「へぇ」
「バランスやってバランス」
僕は今日来たのが間違いだった。
しばらく、この5人が盛り上がってるのを木下として聞いていた。僕は殻に閉じこもった。さっきの「あ?」から萎縮したのだ。みんな酔っ払い始めた。
「フリーターとは絶対結婚したくないわぁ」と女子3人が言い出した。池田も
「29なってフリーターとかクソやん。まぁ、生活保護でサボらんだけマシやからクソは言い過ぎたな。小便や小便。ハハハ」
お前、家が寿司屋やから就活してへんやんけ。と言いたかったがビビりやから止めた。
「まぁ、フリーターでも夢追ってる奴とかもおるから一概に小便とは・・・」森田がフォローする。と言うか俺無職やけども・・・
「夢は仕事の中で見つけるもんやろ。目標って言い換えてもいいけど。夢追うって仕事したくない奴が逃げてるだけやろ。夢追ってる奴のほとんどがサラ金に手付けてヤバい事なってるやん。そんな奴に貢ぐ女もおかしいけどな」
「寿司屋はそんなに偉いんか?」
俺の中で何かがキレた。
「あ?」また睨んできたが
「フリーターが寿司食いに来たらどうすんだよ?」
「それは客として扱うよ。ってか客が何の仕事してるかなんて分からんよ」
「常連やったら分かる時もあるやろ。向こうから漫画家目指してるとか言って来たら内心小馬鹿にするんか?」
「・・・ええ歳やったらな」
「何歳?」
「30超えてそんな事言ってたらこいつアホやなって思うよ」
「・・・そうか」
「ってかお前とこんなしょ~もない話したないねんけど」
「・・・」
変な空気になった。池田と女子は別の席に移動した。池田はイケイケ軍団の席。女子は元ヤンと赤ちゃんの席。
僕と森田は取り残されたが森田が
「ごめん。初田の席行って来ていい?」と聞いてきたので
「・・・うん」
と返した。僕はテーブルに1人残された。社会の縮図を見ているようだ。無職は1人ぼっち。目の前には残飯。
取りあえず僕はお冷やを頼んだ。1人で水を飲みながら周りを眺めた。みんなゲラゲラ笑ってた。
この光景を見て色んな事が頭に浮かんできた。
プロ野球選手と女子アナ
アイドルとイケメン
女優と金持ち
勉強もスポーツも出来る奴とモテる奴。
成功者と美人。
結果残して金持った奴と美人。
ボロ勝ち同士がつるむんだな。
俺が1人で水飲む姿を見て笑う者もいた。
「木下君。1人やん(笑)」
「誰か相手したれよ(笑)」
「今日はいいわ(笑)」
そんなヒソヒソ会話を聞こえないフリした。
地獄のような時間は終わりお開きかと思ったら
「2次会のカラオケ行く人、手挙げて~」と初田が聞くと僕以外の全員が手を挙げた。
僕は森田に3000円渡して
「これ初田に払っといて」と頼んだ。もう、あいつの手も握りに行きたくなかった。
僕だけが早退した。おかんから
「早かったねぇ」
と言われたので
「みんな家族持ったり仕事で忙しいらしいわ」とウソ付いた。そんな奴らは2次会へ。無職は早退。
俺は泣きそうになった。
親父から
「おい、お前も仕事早く探せよ!宴会経験しとかなシンドイぞ!俺の前のボーリング大会の写真や。お前も早くこんな会呼ばれるようになれ!同窓会だけじゃなく職場でも誘われるような人間になれ!」
親父の写真を何気なく覗いたら6人くらいで映ってる写真。親父がストライクを取ったのか真ん中で花飾りを首に巻いてた。右の方に見覚えのある顔がいた。
老けた柴君だった。
「えっ!」
「何やでっかい声出して」
「いや、別に」
「ええやろ。俺が花飾り付けても」
そこじゃねぇよ。
何となくやけど、駅員の自分の正体が分かった。
多分親父をやってるんや。俺の正体は親父だ。柴君の老け具合からかなり前やぞ。
何年前の話なんだ。
しばらくするとメールが来た。森田からだった。
「今度同窓会あったらもっと楽しんだらいいで」と来た。
もう同窓会に行く事は無い。
めずらしく夢に老婆が出て来なかった。
僕は近所のコンビニで店員に何も言わずにトイレを借りた。無断で借りても注意はされなかった。いつの時代か突き止めてみせる。すんげぇ、気になる。