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40_旅再開

「いや〜、久々で気持ち良いっすね!」

「ホントにゃ!

この開放感、堪らんニャ〜!」

リックとスノウノさんが最前列を駆けながら気持ち良さそうに話している。

まだ肌寒い日はあるが、冬は終わりゾマ祭が行われる時期なので、王都に行った時のように凍える事もない。

うん、ボクもリック達に同感だ。

きっと、他の皆もそう思ってるんじゃないかな?


セーム様のお屋敷を経ったボクらは、王都を迂回して北西へ向かっている。

久々の旅という事もあって、『重力制御』を使った移動をしている、スイスイ進んで軽快だ。


「この先はどう進む予定ですか?」

進路についてセレナさんが聞いてくる。

「えっと、帝国の侵攻が過ぎた地域を通って帝国内に侵入。

そこから突っ切って、海岸線沿いに北上しようと思ってます。」

「海ニャ?!」

「ええ、どうせなら海沿いを通って、新鮮な魚も食べつつ進もうかと思ってますよ。」


「「わぁっ!!」」


皆が歓声を上げた。

無理もない、皆、内陸の国出身なのだ。

普通に生きていたなら、国を出る事すら稀だし、一生海というものを見ずに人生を終える者が大半だろう。

だから、単純に海が見れるのが楽しみなのだ。


「内陸を進んで、帝国南部の貴族達と出会うのは御免ですからね。

海に出たら思いっきり魚を食べましょう!」

「さ・か・ニャ!!」


スノウノさんの喜び具合が半端ない。

種族的に魚が好きなのだろうか、猫獣人だから?


「実家でも偶に川魚は出ましたから。

スノウノは大好きだったわね。」

「うんっ!」

ティアナさんの言葉にスノウノさんが素直に答える。

たいへん元気がよろしくて微笑ましい。

なんか、美味しい魚をいっぱい食べさせてあげたくなるなぁ。


「クロー君も行ったことは無いんですよね、海?」

先行するスノウノさんを見てたら、横からセレナさんに聞かれた。

「はい。

それどころか、二年前までは自領から出たこともありませんでした。

だから、ボクも楽しみですよ。

海に着いたら、塩を大量に作ったり、海産物を採って食べてみたいですね。」


「塩って……、そんなに簡単に作れるものなのか?」

「海産物?!採る?!魚とか、そんなに簡単に捕まえられるニャ?!」

ヴェロニカさんとスノウノさんは興味が強いのか、いっぺんに聞いてきた。


「ええと……、順番に答えますけど、海の水は全て塩を溶かした水のようなものです。

雑に言えば、煮詰めるだけで塩が出来るので、手に入れられる時に確保しておきたいですね。」

「そうか、タダで塩が手に入るなら取っておきたいな。」


内陸の国では塩は主要な取引品の一つだ。

前世オジサンの世界では、塩分の摂り過ぎがよく問題になったりしてたらしいけど、こちらの内陸では塩分を摂らなさ過ぎて問題が生じるヒトというのが、稀に発生する。

軍に於いても塩は重要な軍需品の一つという認識だ。

一般家庭においても、調味料として高価過ぎると言う程ではないが、気軽にドバドバ使えるほど安い品でもないという位置付けである。

そりゃあ、簡単に取れるなら手に入れておきたいよね。

特にボクとヴェロニカさんは『アイテムボックス』でいくらでも持ち運びが出来るしね。


「で、海産物ですが、魚は買うのが良いと思いますけど、海岸でも美味しい貝が採れると思うんですよ。

漁師さんに怒られる可能性もあるので、なるべくヒトが踏み入れ難い所に行って、取りまくりましょう。」

「……カ、イ?」

スノウノさんが初めて耳にした単語であるかのように繰り返した。


「あ、あれ?

貝って、一般的に知られてないものですかね?」

確かにボクも前世オジサンの知識を聞きかじっただけではあるのだけど、「貝」という単語自体に聞き馴染みが無いというのは想定外だった。


「稀に綺麗な貝殻の加工品を見たりはしますが……。

あと、真珠が貝から出来る、という知識だけはあります。

でも、食べるという発想は無かったですね。

あんなに硬そうなものを食べるのですか?」


……よく考えれば貝なんてナマモノが、流通システムの発達していない中、内陸に出回る事なんて絶対に無いな。

前世オジサンの世界では割と好かれる食材だったっぽいし、前世オジサンも好きだったようだから、味は大丈夫だと思って話してたけど、盲点だった。

こっちでは、漁師さんが漁のついでに獲る程度の食材なのかもね。


「う〜ん。

確かに海に面した国でないと、そんな形でしか知らなくて当然ですね。

皆が見た事のある貝とは、貝殻、貝が自分の身を守る為の殻の部分なんです。

その中に本体というか、身が入っていて美味しい……、らしいですよ?」

「クロー君も食べた事は無いんですね?」

フラウノさんも気になったらしく、質問してきた。

今世のボクは、勿論、食べた事などない。

ま、だから楽しみでもあるんだけど。

「そうですね。

……良く考えたら、意外と見た目がグロテスクだとも聞きますから、あまり期待させるのも悪いかもです。」


ここで、ヴェロニカさんが何か気付いたように言ってきた。

「なぁ、クロー。」

「はい?」

「その「貝」って、海では一般的な生物なのか?」

「そうだと思いますね。」

「……だとしたら、魔物種も居ると思うから気を付けないとな。」

「えっ、魔物?!」

「個体数の多い生物というのには、大抵は魔物種が存在するんだ。

ボアの魔物種である「エビル・ボア」が存在するようにな。」


あ……!

そ、そうか、何故かボクは前世オジサンのイメージにある「平和な海岸」をイメージしていた。

けれど、こちらの世界では海や、ヒトの寄り付かない海岸には、平気な顔して魔物が跋扈しててもおかしくないんだった。


「う、う〜ん……、考えて無かったですね。

言われてみれば、当然有り得ることですよね。

海に行った際は気を付けるようにします。」


最後はちょっと心配な話にもなったが、久々の旅の初日は皆とワイワイ話しつつ、以前の様に楽しく始める事ができたのだった。


**********


その夕方。

丁度良いタイミングで宿を見付けたボクらは、そこに泊まることにした。


「四人部屋と三人部屋が取れましたね。

ティアナさん達は──」

「あ、あの、クロー様。」

と、ここでティアナさんが手を挙げて発言する。


「はい、なんです?」

「……リックはこちらの部屋で泊めても良いと思うのですが?」

「はい?!」

語られた言葉は、ちょっと驚く内容だった。


「……えっと、リックも一応男性ですから、色々と気を遣いませんか?」

「それはそちらも同じだと思いますわ。

それと、やはりそちらは三人で居たいと思うでしょうし……。

私達も、シオンさんの時の一件で一緒に宿を取っていましたし、今更気にしませんので。」

ティアナさんはそう言うが、同室となれば他の二人の意見も聞かないといけない。


「……えっと、それで良いです?

スノウノさん、フラウノさん。」

「……まぁ、リックならいろいろ便利だし、構わない。」

「そうですね。

私達も、リックの事は信用してますから、大丈夫ですよ。」

意外な事に、スノウノさんもフラウノさんも、そこまで気にしていない様子だ。


「……あの、でも未婚の貴族令嬢であるティアナさんは、体面的な問題がありませんか?」

「わたくしは騎士団員から冒険者になった身です、それこそ今更でしょう。

……それでも今後、それが原因で実家から勘当されたら仕方ありません、リックにでも責任を取ってもらえれば良いです。」

「……へ?」

ティアナさんの言葉に、リックは呆けた様な声を上げた。


おっとぉ?

これはこれは……。


「──だそうだけど、リックはそれで良い?」

「えっ?!あ、あのっ……。」

「ティアナさん達が迷惑にならないと言ってるんだから、あとはリックが嫌じゃないか、ってだけの話になるんだけど、どう?」

ボクはやんわりと押す感じでリックに聞いてみる。


「……あ、の……、オレも嫌とかは無いっす。」

「うん、じゃあそれで。

……でも、何か問題あったら、いつでもこっちに戻すし、嫌でも何でもないから言ってね。

ティアナさん達も、リックも。」

「「はい。」」

ティアナさんとリックは、声を合わせるようにハッキリと答えた。


……なんか、前にリックから聞いた気になるヒトというのが、ちょっと現実味を帯びてきたかもね。

うん、なんかワクワクしている自分が居る。


しっかし、リックは社会的な立場が上の女性に好かれる縁でもあるのだろうか?

リグレット様や、シオンさんも気に入ってたみたいだし……。

いや、単純にリックが一人の男性として魅力があるって事だよね、きっと。


「さて、じゃあ夕食を食べたら今夜は、昼間話した「海」の話でもしましょうか。」

「ほう、海か。

ワタシもあまり知らない事が多いから楽しみだな。」

「魚の事とかニャ?!」

「いや、魚に対してそこまで詳しい訳ではないですよ。

純粋に「海」についてです。

魚については、海に着いてから本職である漁師さん達に聞きましょう。」


数ヶ月ぶりとなる旅の初日は、以前と変わらないようであり、それでいて変わる事もある一日となった。

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