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41_目撃

ローエンタール領を経って数日が経った。

ボクらはまだまだカダー王国内を北西へ移動している。


途中の町の冒険者ギルドでは、都度、帝国軍の侵攻状況について聞くようにしている。

話に聞く感じ、ボクらは帝国軍の侵攻が過ぎた区域を抜ける事が出来そうだ。


帝国軍はコラペ王国との接点であるシルバラード領から離れた地域を南下して侵攻している。

理由は、カダー王国との交戦中にコラペ王国から横槍が入らないようにするためだ。

侵攻されている地域は比較的に拓けた場所が多いため、ソダ宰相をトップとするカダー王国軍は、その少し先の起伏のある地域に防衛陣を張っている。


「じゃあ、カダー王国はその拓けた地域は見捨てたんすか?」

リックが聞いてきた。

移動中のボクらの会話は、もっぱらジサンジ帝国とカダー王国の戦争の話が主になっている。

「見捨てたと言うか、貴族だけ退避させて、民衆はそのまま残して来た、それだけの事だよ。」

「え?……でも、それって……、ん?」

ボクの言葉の意図が分からず、リックが混乱する。

ちょっと意地悪な言い方だったかな。


「あのね、例えば帝国が土地を奪ったとして、それだけだとあまり意味は無いんだ。

土地を奪って、その土地で収穫される作物、作られる加工品とかが奪う前と同様に作られて、それが税として納められて初めて、その土地を奪ったメリットが現実化するんだよ。」

「ああ、なるほど。

じゃあそれに必要な民衆は、危害を加えられる訳じゃないんすね?」

ボクの補足にリックは納得してくれたようだ。

でも、もうちょっとだけボクは補足する。


**********


──そう。

だって、例えば農地だけ手に入れても、そこに手入れして収穫する農民が居ないと、税なんて納められないでしょ。

仮に、何の落ち度も無い農家さんを帝国軍が殺したとして、その農地はどうする?

軍人が耕す?

そんな事はしない、わざわざお金を掛けて戦闘用に鍛えた人材を、そんな事の為に無駄遣いしたりしない。


じゃあ、新たに農民を連れて来る?

何処から?

確かに、帝国ほど広い国土のある国なら、兄弟が多くて余っている農家の男子というのが居るかも知れない。

だとしても、彼等にいちいち声を掛けて、お金を掛けさせて移動させるの?

その旅費は誰が持つの?

そうやって連れて来たとして、元居た土地と気候も土壌の条件も違って、伝手も無い土地でまともに農業なんて出来るの?


とまあ、諸々考えれば、元居た農家をそのまま使い続けるのが一番簡単で確実なんだよ。

それに、仮に帝国の侵攻がある程度上手く行ったとしても、彼等の指揮を執る貴族は何処かのタイミングで一度本国に帰るでしょ。

そんな中、自分達に恨みを持った者達が居る中を安心して帰れると思う?

侵攻の最中で余計な恨みを買えば、そういったリスクが生まれてしまう。


だからまともな軍は、侵攻中であっても民衆に手を出す事はしない。

部下が暴走するようなら、上官や更に上の者が厳しく取り締まって範を示す。

後々の事を考えるなら、新たに占領した土地の民衆には、本国よりも気を付けて優しく対応するくらいが正解だよ。

相手国の軍隊や、捉えれば身代金が取れる可能性のある貴族は、その限りじゃないんだけどね。

あと、民衆でも相手国の軍を積極的に助けたりする者は容赦出来ない、これは仕方のない事だと思う。


**********


「──でも、それ以外の民衆は特段危険なんて無い筈なんだよ。

ま、不安を感じさせてしまうのは、仕方ないけどね。」

「なるほど、つまり今は自分達の有利な所で戦うために、帝国軍を誘い入れてる状態なんすね?」

「そういう事。

……とまぁ、これがボクの認識ですけど、ティアナさんは何か考えが違うとこありませんか?」

こういう軍事系の話は、ボクよりも貴族令嬢で騎士団長経験のあるティアナさんの方が詳しいだろう。


「そうですわね……。

概ねクロー様の仰った通りかと思いますわ。

ただ……。」

「ただ、何かあります?」

「……ヒトは必ず正しい行動をする訳ではありませんわ。

理屈は分かっていても、その理屈に従えない、従わない事も多々あります。

帝国軍が理屈通りに行動してくれるか、ちょっと不安ですわね。」

そう言ってティアナさんは微かに顔をしかめた。


「うん……。

ティアナさんの言う通りですね。

そう言われると、ボクも不安になっちゃいました。

あと、良く考えたら敗走中の軍にも、理屈は通じませんよね。

カダー王国軍の策に嵌って敗走する事になった帝国軍がどう動くか、怖いですね。

逃げるのに精一杯で、他に構う余裕が無い状態ならよいのですが……。」

ティアナさんの言葉に、ボクも納得し不安が湧いてきてしまった。

この先、せめてカダー王国を出るまでは気を付けていよう。


**********


その日の夕方、冒険者ギルドのある町に着いたボクらは、帝国軍の侵攻具合について、ギルド職員のお姉さんに聞いてみた。


「帝国軍は、ここから西の山二つ越えた先を南下して、王国軍と睨み合っているらしいわよ。」

「睨み合ってる?」

「やっぱり王国の方が地の利はあるから、帝国軍も作戦が立てられず、膠着状態らしいわ。

かと言って、まさか進路を変えてこちら側に来るのも、敵に横っ腹を向ける事になるし、山越えだってキツいし、現実的でないしね。

……でも、そこで戦いを躊躇するくらいなら、始めっから攻めて来るなってのよ、まったく。」

そう説明しながら、職員さんはプリプリ怒っていた。


「そこまで詳しいって事は、ギルドからも状況把握のために斥候を出してるんですか?」

「そうよ。

万が一、帝国軍の進路が変わったら、すぐに対処するため。

あと、この町の兵士達にも情報共有しているわ。」

冒険者の中には傭兵を兼ねるヒトも居るし、祖国の危機に何かしたいという者も居るだろう。

普段から規律を守る訓練を行っている軍人と、日雇労働者である冒険者が一緒に行動するのは現実的ではないけれど、そういう協力の仕方もあるのだろう。


「では、この先を行っても、帝国軍にかち合う事は無さそうですね。」

「え、まさかあんた達、そっちに向かうつもり?

止めときな!

今から行って、敗走したり方針変更した帝国軍とかち合ったらどうするのさ?!」

「大丈夫です。

向かう先はちゃんと警戒しますし、ウチのパーティは機動力が他とはダンチですから。

勿論、鈍重な軍に追いつかれる程、遅くはないですからね。」

心配してくれる職員さんには申し訳ないけれど、自分達のスキルを明かすのも面倒臭いので、ボクは会話をそこで打ち切らせてもらった。


**********


「……………なんだ、これ。」

ボクは呆然として呟く。

ボクらの目の前には、……何も無かった。


ボクらはギルドのあった町で一泊した翌日、山二つを越えた。

そしてその先に気になる場所を見付けたのでやって来てみたのであった。

二つ目の山を下る際に気になったのは、やけに黒い点が目立つ土地。

しかも、その地の辺りは高い木が少なくて、拓けた様子だった。

元は村があったであろうそこは……、全てが燃やし尽くされていた。

かつて家が建っていたであろう場所は、黒い炭と灰だけが残り、田畑は踏み荒らされている。

匂いはあまり無い、焦げた木の香りが仄かに漂うだけだ。


「酷い……。」

誰かのそんな呟きが、焼け落ちた家屋に響いた。


「……誰が、生き残って──」

「──いない。」

セレナさんの言葉を、ヴェロニカさんが制す。


「……え?」

「生きている者は、我々以外ここには居ないよ。

今、村中を探ってみた。」

「……っ?!」

ヴェロニカさんの言葉に、セレナさんだけでなく皆が絶句した。


「……なんで。

ここは明らかに農村じゃないすか?!

前にクローに聞いた話だと、まともな軍なら農家さんを手に掛けたりしないって……。」

「まともな軍じゃなかった、そういう事だよ……。」

声を荒げるリックに対して、ボクは声を抑えて返した。

声を荒らげたい気持ちは、ボクも同じなのだけれど。


「以前の戦争から四十年以上が経って、その時従軍した貴族家も世代交代して、戦場経験の無い若造達が指揮を執る。

その中で、悪ノリか考え無しか、一般兵が暴走してしまった、そんな所でしょうか?」

「……違いますね。」

フラウノさんが努めて冷静に考察を語るのだけど、ボクにはそうは思えなかった。


「え……?」

「あっちの方角、ここからちょっと北に行った場所でも、同じように黒くなった場所があるのを見ました。」

「……っ?!」

ボクの指差す方向、北を向いてフラウノさんが絶句する。


……うん、山を下る時、小さくだけど確かに見えたんだ、同じ様に黒くなった場所が他にもあるのを。


「帝国は北から南に侵攻して来ています。

……多分やつら、ここに来るまで全ての村を焼いて来たんですよ。

そしてそんな事は、指揮を執る者の指示無くしては出来ない。

指揮官の意に背いてそんな事を行った兵が居れば、規律を乱すとしてその場で処分される筈です。

それが何回も繰り返される筈が無い。」


「……じゃあ、帝国軍は意図的にこんな事を?」

フラウノさんが、信じられないといった雰囲気で尋ねてくる。

「……そうとしか考えられません。

だけどボクには、そこに合理的な意味も見い出せません。

……あえて言うなら、「見せしめ」くらいですかね。

それにしたって、そんな事を何回も繰り返す必要なんて無いんですけど。」


「……では、やはり。」

ティアナさんがボクの言葉を促す。

そういえば、このような事態を一番危惧していたのはティアナさんだった。


「はい。

単純に、弱い者を嬲るのを楽しんだ、という事なんだと思います。」

「「──っ?!?!」」

ボクの語る無慈悲な推測に、全員が声も無く驚いた。


こんな事をする集団を野放しにしておく事に、メリットなんて何一つ考えつかない。

ここがボクの祖国である事と関係無く、こんな集団が存在するということ自体、ヒトにとってデメリットでしかないとボクは確信する。


「…………。」

皆は、しばらく無言で周りを見渡していた。


そんな皆に、ボクは告げた。

「ねぇ、ちょっと寄り道して行って良いかな?」

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