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第十楽章 雨だれ

 夜の京には静かな雨が降り落ちてきた。

 俺は独り、新選組の屯所がある壬生へ向かう。

 途中、長身の侍が傘を差して歩いていた。


「あれが芹沢鴨か?」


 傍らには女性が提灯で足元を照らしている。

 咄嗟に俺は、物陰に身を隠したが、


「鴨さん、刺客よ」


 その女性は俺の気配に気付いたようだ。

 そして、次の瞬間、


 ヒュン、


 女は手裏剣を投げた。俺は、


 サッ、


 と、手裏剣を避け、物陰から飛び出し、


 ババッ、


 そのまま一直線に芹沢との間合いを詰める。


「イヤアーッ」


 気合一閃。抜刀術で斬撃を放ったが、


 ガギィン。


 芹沢も刀を抜き、俺の一撃を受け止めた、刹那、


 バッヂン、

 

 と、火花が飛び、一瞬、辺りが照らされる。


「我流の殺人剣か、笑止な」


 ニヤリと不敵に笑う芹沢。

 傍らの女も匕首を構えた。


「二対一、か」


 雨は強くなってきたが、

 この状況では雨も俺の味方にはならない。


「圧倒的に不利だな」


 俺は雨に打たれながら、危険を感じ取ったが、

 逃げることはできないだろう。背を向ければ、

 即座に、斬られるに違いない。そして、芹沢は、


「新見を殺したのは、お前だな」


 と、言い、ジリッと間合いを詰める。

 だが、その時、突如、


 ズブリッ!


 ドス黒い影が、芹沢を背後から刺した。


「う、ゔぐぅ」


 呻きながら芹沢が、ふり返り、


「ひ、平山か……」


 と、言葉を漏らしたが、その間にも、


 ブスリッ。


 平山と呼ばれた男は、女も脇差で刺殺する。


「この二人は、いつか殺そうと思っていた」


 そう言葉を吐いた平山は、あの夜、

 賊に拳銃で撃たれた隻眼の新選組隊士だ。


「この女と芹沢と俺は三角関係。情事のもつれだ」


 そんな話を語る平山は、

 ゆっくりと俺との距離を縮めながら、

 右手一本で脇差を保持している。


「芹沢と女は、お前が殺したことにしよう」


 おそらく、平山は拳銃で撃たれた左肩の傷が、

 まだ完治していないのだ。


「そして、お前も殺す」


 と、言い終えないうちに平山は、


 シュパ、


 鋭い突きを放った。

 俺は後ろに跳んで攻撃から逃れる。

 それでも平山は、


 シュン、ブオン、シュゥン。


 連続技で追撃して、俺を袋小路に追い込んだ。


「もう、逃げ場はないぞ」


 そう言いながら、

 平山は平然と至近距離に迫ってくる。だが、


「死ぬのは、お前だ。平山」


 大刀と脇差、両手と片手。有利なのは俺だ。


「イヤアーッ!」


 気合一閃。俺は奴の胴を薙ぐ。

 平山も迎撃して二人の身体が交錯した。そして、


 ザバアァッ、


 大量の血飛沫が飛び、


 バシャアァン。


 夜の雨のなかに、平山は倒れた。たが、

 手負いでなければ俺が斬られていただろう。

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