第一楽章(前奏曲)狼の舞曲
幕末、動乱の世。
時代は濁流のように激しく流れていた。
この時世に下級藩士の家に生まれた俺は、
幼い頃に養子出された後、
「茶坊主として召し抱えられていたのだが」
今は、宮部鼎蔵と共に、
「京で尊王攘夷派の志士として活動している」
俺の役目は人斬りだ。そして、その日も、
夕暮れ時に茶店に呼び出だされ、
「仕事を頼む」
と、宮部が夕焼けを眺めながら言葉を発した。
俺は間髪入れずに、
「暗殺ですね」
そう応じて、宮部に問う。
「狙うのは誰ですか?」
「壬生の狼、新選組だ」
即答した宮部は、こう言葉を続けた。
「その局長の一人、新見錦を暗殺してもらいたい」
新選組は京の治安維持のために、
結成された組織だが、
浪士の集まりである彼らは素行が悪く、
そのなかでも、
「新見は商人に押し借りして遊興しているらしい」
と、宮部は苦々しい表情で吐き捨てる。
「それは殺されても当然ですね」
俺の立場では宮部の命令には従うしかない。
だから、俺は、
「承知しました」
ただ一言、短く返答して立ち上がった。
その俺に向かって宮部が、
「奴は毎晩、祇園新地に入り浸っているらしい」
との情報を付け足す。その言葉を聞き、
俺は宮部の顔をチラリと見て、質問した。
「その店は?」
「料亭の山緒」
こうして西の地平に太陽が沈もうとする頃、
俺は一人、祇園新地に向かう。
「この店か」
料亭・山緒に着く頃には、辺りも、
すっかり暗くなり、
綺羅びやかな享楽の街には人が行き交っていた。
「新見先生は、ご来店していますか?」
俺は山緒の店先で、礼儀正しく振る舞い、
応対した店の者は、
「今、ご案内致します」
と、疑いもせず、俺を新見の座敷へと通した。
新見は独りで遊んでいるようで、
傍らには芸妓を侍らかしている。
「お連れ様が、お見えになりました」
店の者が声をかけると、
酒を呑んでいた新見は俺を見上げて、
「誰、かな?」
疑いの眼差しで声を発する。
俺は一歩、座敷に足を踏み入れながら、
「嫌だな、新見先生、私ですよ、お忘れですか?」
などと、トボケたことを言いながら、
ザシュン。
抜刀して、刃を浴びせるように斬りつけた。
ズバンッ。
初撃必殺。
俺の剣は我流。殺害だけに特化した邪道の剣だ。
ブジャアァーッ。
座したまま首筋を斬られた新見は、
激しく血飛沫を噴き上げ、
「う、ゔがぁ」
短い断末魔の後、
バタリと倒れて血の海に沈んだ。
それを見た店の者と芸妓が、
「う、うあーっ」
「きゃあぁーっ」
叫び声を上げながら、血相を変えて逃げる。
その後、料亭が騒然となるなか、
俺は騒ぎに紛れて、この場から立ち去った。




