シーン1 「被害一覧」
会議室。
沈痛。
あまりにも沈痛。
空気が、
完全に事故調査委員会だった。
長机中央。
クラリス・エヴァレット
が、
分厚い資料束を抱えている。
目の下の隈が深い。
この少女。
たぶん恋愛イベントのたびに寿命を削っている。
クラリスは、
感情を殺した声で読み上げ始めた。
「では、
王立アストレア学園、
過去一年間の主要被害報告です」
嫌な会議が始まった。
「温室全壊」
「第二校舎半壊」
「中央噴水爆発」
「王都東部水道管破裂」
「広域魔力停電」
「群衆事故十三件」
「修繕費高騰による予算赤字拡大」
淡々。
淡々としている。
だから怖い。
攻略対象たちの顔色が、
少しずつ悪くなっていく。
特に。
ガイウス・ベルンハルト
。
途中から、
明らかに様子がおかしい。
「……待て」
「校舎半壊って、
あの時のか?」
「はい」
「噴水爆発って……」
「告白イベント時です」
「水道管破裂……?」
「噴水演出過負荷です」
ガイウス、
青ざめる。
彼は脳筋だが善人である。
つまり。
こういう数字に弱い。
クラリスは、
さらに次の資料を取り出した。
ドン。
重い音。
ガイウス、
嫌な顔になる。
「……何だそれ」
クラリス。
無表情。
「こちら、
ガイウス様関連壁ドン事故一覧です」
分厚い。
異常に分厚い。
辞書みたいだった。
ガイウス、
固まる。
「そんなに?」
「そんなにです」
即答。
重い。
クラリスは、
ページをめくる。
「第四回廊壁面亀裂」
「北棟柱損傷」
「壁面貫通事故」
「石材粉砕」
「魔力反射暴走」
「廊下通行不能」
「避難誘導案件二件」
ガイウスの顔から、
どんどん血の気が消える。
「……俺、
そんなに壊してたのか」
「はい」
容赦がない。
さらに。
クラリスは、
資料端を指差した。
「なお、
ガイウス様案件は現在、
独立分類されています」
「分類?」
「はい」
一拍。
『壁接触型高出力恋愛事故』
沈黙。
ガイウス、
完全停止。
「…………」
嫌すぎる。
事故名がもう兵器。
隣で。
セシル・アークライト
が、
肩を震わせている。
「っ……はは……」
「お前、
災害カテゴリ持ちか」
「笑うな!!」
ガイウス、
本気で叫ぶ。
しかし。
クラリスは真顔だった。
「ちなみに」
「現在、
壁材ごとの危険度データも蓄積中です」
「やめろ」
「石壁は特級危険指定です」
「やめてくれ」
ガイウス、
本気で落ち込む。
彼は今。
自分の壁ドンに、
災害分類番号が存在する事実を知ってしまった。
その頃。
会議室の隅。
アルベルトは、
静かに別資料を読んでいる。
『舞踏会関連負傷者一覧』
その枚数を見て。
彼もまた、
少しずつ現実を理解し始めていた。




