シーン3 「現場」
王都東区。
断水被害区域。
通りには、
まだ水が残っていた。
崩れた石畳。
破裂した水道管。
応急処置の魔法杭。
行き交う作業員たち。
怒鳴り声。
金属音。
蒸気。
完全に災害復旧現場だった。
そしてその中央に。
いた。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
が。
貴族令嬢なのに。
本当に普通に。
工事現場にいた。
ドレス姿の上から簡易作業外套。
頭上には、
ヘルメット代わりの安全結界。
透明な魔法膜が、
落下物を弾いている。
見た目だけなら、
優雅。
だがやってることは、
完全に現場監督だった。
「第三水路、
圧力低下!」
「分岐炉、
魔力飽和します!」
「西側、
また逆流!」
報告が飛ぶ。
レオノーラは即答。
「そちら補強!」
「水圧調整を優先!」
「魔力流、
ここで分岐してくださいまし!」
図面へ次々書き込み。
判断が早い。
迷わない。
しかも全部、
ちゃんと合っている。
現場職人たちが、
逆に困惑していた。
「……なんで分かるんだ?」
「令嬢様だろ?」
「視察じゃないのか?」
「いや、
本当に指示出してる……」
しかも。
的確。
老技師が恐る恐る聞く。
「こちらの水圧、
まだ不安定ですが……」
「南側噴水路が
魔力逆流しておりますもの」
即答。
「そこを切れば安定しますわ」
技師、
実際確認。
顔色変わる。
「……本当だ」
周囲ざわつく。
何なんだこの令嬢。
その時。
ガガン!!
配管が軋む音。
作業員が叫ぶ。
「危ねぇ!」
魔力管が外れかける。
だが。
「固定」
レオノーラ、
即座に魔法起動。
補助結界展開。
崩れかけた配管を支える。
「今のうちに接続を!」
「は、はい!!」
現場が一斉に動く。
数秒後。
接続成功。
水流安定。
蒸気が静まる。
一瞬。
工事区域が、
しんとした。
そして。
「……通ったぞ!」
「水戻った!」
「東路線復旧!」
歓声。
拍手。
職人たちの顔に、
ようやく安堵が浮かぶ。
その隅で。
老用務員、
トーマ
が。
泣いていた。
ぼろぼろ泣いていた。
「本当に……」
鼻をすすりながら。
「本当に働く貴族を、
初めて見た……」
重い。
周囲の職人たちも、
なんとも言えない顔になる。
否定できない。
この国の貴族は、
今まで“指示する側”だった。
だが。
レオノーラは違う。
現場へ来る。
汚れる。
怒鳴る。
働く。
そして。
ちゃんと結果を出す。
レオノーラ本人は、
そんな視線に気づきもしない。
図面を睨みながら、
次の指示を飛ばす。
「第四路線!」
「そこ、
感情魔力干渉が残っております!」
「耐イベント補強を追加!」
作業員たち、
もう普通に従っていた。
「了解!」
「補強材持って来い!」
「分岐炉再調整!」
工事現場が回り始める。
その様子を見ながら。
遠くの露店商人が、
ぽつりと呟いた。
「……あの悪役令嬢」
一拍。
「めちゃくちゃ仕事するな……」




