第三話『悪役令嬢、インフラを救う』 シーン1 「都市機能」
王都中央広場の噴水が爆発してから、
三時間後。
『王国財政再建委員会』
その会議室は、
完全に戦場になっていた。
机の上を埋め尽くす報告書。
飛び交う怒号。
走り回る伝令。
壁際では、
魔力通信機が鳴りっぱなし。
誰かが叫ぶ。
「東区水圧さらに低下!」
「医療区画、
冷却魔法停止しました!」
「下水逆流発生!」
「公衆浴場営業不能!」
地獄だった。
しかも原因。
恋愛イベント。
終わっている。
会議机の中央。
巨大な王都地図へ、
次々と赤印が追加されていく。
断水区域。
冠水区域。
魔力停止区域。
インフラ障害範囲。
もはや戦災マップである。
副委員長、
クラリス・エヴァレット
は、
報告書を抱えたまま震えていた。
「飲料水不足……」
「魔力冷却停止……」
「公衆浴場閉鎖……」
「医療区画断水……」
「下町衛生環境悪化……」
一つ読むたび、
顔色が悪くなる。
そして。
とうとう限界を迎えた。
「恋愛イベントが……」
震える声。
「ついにライフラインへ……」
室内沈黙。
誰も否定できない。
今までは、
まだ“学園の騒動”だった。
校舎が吹き飛ぶ。
壁が壊れる。
噴水が爆発する。
馬鹿みたいだが、
局地的だった。
だが今回は違う。
王都の水道網。
つまり。
国家機能そのものへ、
恋愛イベントが干渉し始めた。
会議室中央。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
静かに地図を見つめていた。
赤印が、
じわじわ増えていく。
インフラ。
物流。
衛生。
医療。
全部、
繋がっている。
そして運命律は、
その“繋がり”へ手を伸ばし始めている。
レオノーラは、
ゆっくり呟く。
「……もう、
学園だけの問題ではありませんのね」
その声には、
珍しく疲労が滲んでいた。
窓際。
暗い外を見ていた
セシル・アークライト
が、
ぽつりと口を開く。
「世界が」
一拍。
「演出規模を拡張し始めてる」
会議室の空気が冷える。
誰も喋らない。
理解してしまったから。
今までは、
二人の恋愛イベントだった。
だが。
もし世界そのものが、
“よりドラマチックな演出”
を求め始めたなら。
舞台装置は、
どこまで巨大化する?
学園。
王都。
国家。
次は?
レオノーラは、
赤く染まった王都地図を見ながら、
静かに思う。
この世界は。
本気で。
現実より、
ロマンスを優先し始めている。




