ラスト 「恋愛の公共化」
夜。
『王国財政再建委員会』
昼間の喧騒が嘘みたいに、
静まり返っていた。
窓の外では、
王都の灯りが揺れている。
机の上。
山積みの報告書。
その中央で、
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
一枚ずつ資料を確認していた。
『校舎修復費』
『魔力炉交換予算』
『恋愛災害発生件数』
『公共インフラ損耗率』
数字。
数字。
数字。
だが。
今回は、
以前と違った。
被害減少。
予算安定。
修復費低下。
夜間緊急工事件数、
前年比七割減。
用務員の離職率改善。
排水路閉塞ゼロ。
成果は、
確かに出ている。
レオノーラは、
静かに息を吐いた。
「……ようやく、
人間らしい会計になって参りましたわね」
その時。
机の端に置かれた魔力測定器が。
ピシ。
小さく震えた。
レオノーラの視線が止まる。
数値。
微増。
だが。
妙に嫌な揺れ方だった。
まるで。
どこか遠くで、
見えない何かが蠢いているみたいな。
窓際。
暗闇の中。
いつの間にか、
セシル・アークライト
が立っていた。
本当に気配がない。
怖い。
彼は外を見たまま、
静かに言う。
「抑え込むほど」
一拍。
「反発は大きくなる」
レオノーラは、
測定器を見つめた。
運命律。
世界そのものに染み込んだ、
恋愛イベント強制構造。
制度化。
規制。
税。
許可制。
それらは確かに効果を出している。
だが同時に。
世界の“抵抗”も、
明らかに強くなっている。
偶然はより露骨に。
演出はより強引に。
恋愛イベントは、
まるで檻へ閉じ込められるのを嫌がる生物みたいに、
暴れ始めていた。
レオノーラは、
ゆっくり椅子へ背を預ける。
理解してしまう。
これはもう。
単なる学園改革ではない。
単なる財政再建でもない。
世界そのものとの戦いだ。
恋愛を。
感情を。
物語を。
国家が管理し始めている。
そんなもの。
本来、
正常な文明ではありえない。
レオノーラは、
疲れたように笑った。
「恋愛を管理し始めた時点で」
一拍。
「もう普通の国家ではありませんわね……」




