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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン6 「イベント依存経済」

議場は、

 静まり返っていた。


 さっきまで。


「愛は国家を救う!」


 などと叫んでいた議員たちが、

 今は誰一人として口を開かない。


 資料の重み。


 数字の重み。


 それがようやく、

 空気を押し潰し始めていた。


 そんな中。


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 は、

 静かに演壇へ視線を向けた。


 そして。


 淡々と。


 だが確実に。


 国家の病理を暴き始める。


「花市場は、

 イベント需要前提で価格形成されています」


 議員たちが顔を上げる。


「季節需要ではありません」


「告白イベント需要です」


 ざわっ。


「輸送業も同様」


「舞踏会特需を前提に、

 過剰輸送体制が組まれております」


「魔導産業は、

 演出魔法偏重」


「公共魔力網は、

 ロマンチック演出を優先して設計」


 クラリスが後ろで死んだ顔をしている。


「実際、

 王都停電時も」


「送電優先順位は、

 舞踏会会場が最優先でした」


「狂っておりますわね」


 議場、

 誰も否定できない。


 レオノーラは続ける。


「本来」


「経済とは、

 生活を支えるものです」


「ですが現在の王国では」


 一拍。


「恋愛イベント維持のために、

 国家機能そのものが最適化されております」


 空気が凍る。


 そして。


 彼女は、

 最後の言葉を告げた。


「既に国家経済そのものが――」


 一瞬の静寂。


「“イベント依存型”へ変質しておりますわ」


 議場。


 完全停止。


 誰も動かない。


 誰も喋らない。


 その言葉が持つ意味を、

 全員が理解してしまったからだ。


 恋愛が文化なのではない。


 国家そのものが。


 “イベント”に寄生されている。


 傍聴席。


 窓際。


 セシル・アークライト

 が、

 口元を押さえながら笑っていた。


「言ったなぁ……」


 完全に面白がっている。


 最低だった。


 だが。


 彼だけは、

 この結論へ辿り着くことを予想していた。


 そして。


 議員席の一角。


 アルベルト・ルクレール

 は、

 初めて青ざめていた。


 これまで。


 彼にとって恋愛イベントは、

 善意だった。


 人を笑顔にするもの。


 夢を与えるもの。


 盛り上がるもの。


 だが今。


 数字と現実を突きつけられ。


 ようやく理解する。


 これは。


 もう。


 “遊び”では済まない。

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