シーン4 「数字」
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
静かに壇上へ視線を向けた。
騒がしい。
実に騒がしい。
断罪。
恋愛。
責任問題。
誰も彼も、
“空気”だけで話している。
だから。
彼女は。
空気ではなく、
現実を置いた。
ドン。
机へ積まれる書類。
厚い。
異様に厚い。
鈍器として使えそうな厚さだった。
議場が静まる。
表紙。
『王立アストレア学園
恋愛イベント関連損失報告書』
沈黙。
誰かが、
ごくりと唾を飲んだ。
レオノーラは、
淡々とページを開く。
「温室修繕費」
紙をめくる。
「金貨六千八百枚」
ざわ。
「空輸事故補填」
「金貨四千二百枚」
ざわざわ。
「負傷者医療費」
「現在継続請求中」
議員たちの顔が、
少しずつ曇り始める。
レオノーラは止まらない。
「魔力炉交換費」
「校舎再建費」
「決闘被害補修費」
「噴水暴走対策費」
「花弁除去作業費」
「労務超過手当」
数字。
数字。
数字。
ロマンスを。
徹底的に現実へ引きずり下ろす数字。
最初は笑っていた議員たちも、
だんだん口数が減っていく。
一人。
また一人。
真顔になる。
傍聴席の商人など、
途中から計算を始めて青ざめていた。
「ちょっと待て……」
「これ、
普通に赤字では……?」
「普通に?」
クラリスが小声で呟く。
「壊滅的赤字です」
レオノーラは、
さらに次の資料を取り出した。
追加。
まだある。
議場の空気が死ぬ。
彼女は静かに告げる。
「なお」
一拍。
「こちらは、
学園のみの被害額ですわ」
議場。
凍結。
完全沈黙。
誰も、
次の言葉を聞きたくなかった。
だが。
レオノーラは、
容赦しなかった。




