シーン2 「終わってる議題
議場中央。
司会席に座る老議員が、
わざとらしく咳払いをした。
「――では」
一拍。
「本日の主要議題」
紙をめくる音。
「恋愛文化振興予算について――」
その瞬間。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
露骨に嫌な顔をした。
隣のクラリスが、
小声で囁く。
「お気持ちはわかります……」
「まだ議題名しか聞いておりませんのよ?」
「ですが、
わかってしまいますので……」
それはそう。
議会は既に、
嫌な方向へ走り出していた。
まず立ち上がったのは、
やたら声のでかい中年議員だった。
「愛は経済を活性化する!!」
ドン!!
机を叩く。
何の熱意なのか。
「花市場は恋愛によって支えられている!」
「若者たちの情熱こそ、
国家成長の原動力だ!!」
拍手。
続いて別の議員。
「舞踏会需要は国家利益!」
「ドレス産業!」
「宝飾産業!」
「飲食需要!」
「観光収入!!」
また拍手。
さらに。
若手議員が勢いよく立ち上がる。
「よって私は、
恋愛文化保護法案を提出する!!」
どよめき。
「若者たちのロマンスを守ることは、
王国の未来を守ることだ!」
拍手喝采。
終わっている。
議場全体が、
妙な熱気に包まれていた。
しかも全員、
本気だった。
真顔で。
本当に真顔で。
国家政策として語っている。
「花市場経済への影響は!」
「告白観光事業の拡大を!」
「舞踏会輸出で国際競争力を!」
「ロマンスブランド化戦略を!」
もう駄目だった。
国家が完全に狂っていた。
レオノーラは、
静かに目を閉じた。
だが。
彼女にだけは見えている。
この議論の、
“裏側”。
花吹雪の裏で徹夜する花屋。
舞踏会の後始末で倒れる用務員。
崩壊した校舎。
負傷者。
修復費。
医療費。
労災。
魔力損耗。
長時間労働。
インフラ破損。
誰もそこへ触れない。
まるで。
最初から存在しないものみたいに。
レオノーラは、
ゆっくりこめかみを押さえた。
「頭痛薬が必要ですわね……」
クラリス、
無言で頷く。
「常備しております」
慣れていた。




