シーン4 「人生の作者」
王都中央塔。
崩れゆく世界の中心で、
レオノーラ・ヴァレンシュタインは立っていた。
空は、
まだ裂けている。
その向こうには、
崩壊しかけた観客席。
無数の影。
無数の目。
無数の視線。
最後まで、
こちらを見下ろしていた。
期待。
熱狂。
欲望。
「もっと感動を」
「もっと悲劇を」
「最高のラストを」
その感情が、
まだ空気へ残響みたいに漂っている。
だが。
もう。
レオノーラは、
一歩も引かなかった。
恐れていない。
怒鳴りもしない。
ただ、
まっすぐ空を見上げる。
裂けた観客席を。
“作者たち”を。
静かに、
口を開く。
「人生の作者は――」
その瞬間。
世界から、
音が消えた。
風も。
崩壊音も。
歓声も。
全部。
静寂。
レオノーラの声だけが、
世界へ響く。
「観客ではありません」
空が、
震えた。
観測層全体へ、
巨大な亀裂が走る。
無数の視線が揺らぐ。
『……』
『違』
『それは』
『観測対象が』
声にならないノイズが、
空から漏れる。
レオノーラは、
止まらない。
「神でも」
巨大魔法陣が、
軋む。
「運命でも」
空間が割れる。
「脚本でもない」
その瞬間。
空を覆っていた巨大魔法陣へ、
決定的な亀裂が入った。
光が砕ける。
無数の術式文字が、
崩壊しながら落ちていく。
観測構造そのものが、
耐え切れず瓦解を始める。
なぜなら。
それは、
存在理由そのものを否定する言葉だった。
人生とは、
誰かに与えられる物語ではない。
評価されるための舞台でもない。
人気を獲得するゲームでもない。
レオノーラは、
崩れゆく空を睨みながら、
最後に断言する。
「生きた人間自身ですわ」
瞬間。
世界が、
解放された。
空を覆っていた観測文字列が、
一斉に砕け散る。
拍手が止む。
歓声が消える。
期待が霧散する。
“見られるための世界”が、
終わっていく。
レオノーラは、
静かに息を吐いた。
人間は、
物語のキャラクターではない。
誰かに定義される存在でもない。
自分で選び。
失敗し。
悩み。
迷い。
それでも、
前へ進む存在。
つまり。
人生の作者。




