ラスト 「観客席」
巨大魔法陣が、
限界みたいに脈動する。
空全体へ、
亀裂が走った。
最初は、
細い線だった。
だが。
次の瞬間。
世界そのものが、
裂ける。
轟音。
空間断裂。
王都全域を揺らす、
凄まじい振動。
人々が悲鳴を上げる。
建物が軋む。
塔の窓ガラスが砕け散る。
そして。
空の向こう側が、
見えた。
◇
“観客席”。
無数。
どこまでも。
どこまでも続いている。
巨大な段状構造。
劇場。
映画館。
闘技場。
それら全部を混ぜたみたいな、
異様な空間。
暗闇。
その中に。
影。
無数の影。
人型。
輪郭だけの存在。
そして。
目。
無数。
無限。
星空みたいに並ぶ視線。
全部。
こちらを見ている。
王都を。
人類を。
人生を。
まるで。
舞台を見るみたいに。
◇
恐怖が、
遅れて世界へ落ちてくる。
誰かが絶叫した。
「ひっ――」
子供が泣く。
兵士が剣を落とす。
神官が祈りを忘れる。
貴族が膝から崩れ落ちる。
誰もが、
理解してしまった。
本当に。
見られていた。
最初から。
ずっと。
喜びも。
恋も。
涙も。
絶望も。
全部。
“消費”されていた。
◇
観客席の奥で、
何かが動く。
ざわめき。
期待。
興奮。
無数の感情が、
濁流みたいに押し寄せる。
『ここがクライマックス?』
『最高』
『続けて』
『もっと壊れて』
『誰が死ぬ?』
『泣ける展開まだ?』
『レオノーラ映して』
声。
声。
声。
人間的すぎる欲望。
だからこそ、
吐き気がする。
◇
だが。
レオノーラ・ヴァレンシュタインだけは、
一歩も引かなかった。
崩壊する塔の上。
光の雨の中。
彼女は、
真っ直ぐ空を睨み返す。
“観客席”そのものを。
恐怖はある。
理解もしている。
相手は、
怪物ではない。
むしろ。
あまりにも、
人間的だった。
感動したい。
泣きたい。
興奮したい。
だから、
他人の人生を物語へ変える。
その構造そのものが。
彼女には、
許せなかった。
風が吹く。
花弁が舞う。
終末演出。
それでも。
レオノーラは、
静かに言い放つ。
「ついに世界は、
“作者たち”へ牙を剥き始めましたのね……」




