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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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209/250

ラスト 「観客席」

 巨大魔法陣が、

 限界みたいに脈動する。


 空全体へ、

 亀裂が走った。


 最初は、

 細い線だった。


 だが。


 次の瞬間。


 世界そのものが、

 裂ける。


 轟音。


 空間断裂。


 王都全域を揺らす、

 凄まじい振動。


 人々が悲鳴を上げる。


 建物が軋む。


 塔の窓ガラスが砕け散る。


 そして。


 空の向こう側が、

 見えた。


     ◇


 “観客席”。


 無数。


 どこまでも。


 どこまでも続いている。


 巨大な段状構造。


 劇場。


 映画館。


 闘技場。


 それら全部を混ぜたみたいな、

 異様な空間。


 暗闇。


 その中に。


 影。


 無数の影。


 人型。


 輪郭だけの存在。


 そして。


 目。


 無数。


 無限。


 星空みたいに並ぶ視線。


 全部。


 こちらを見ている。


 王都を。


 人類を。


 人生を。


 まるで。


 舞台を見るみたいに。


     ◇


 恐怖が、

 遅れて世界へ落ちてくる。


 誰かが絶叫した。


「ひっ――」


 子供が泣く。


 兵士が剣を落とす。


 神官が祈りを忘れる。


 貴族が膝から崩れ落ちる。


 誰もが、

 理解してしまった。


 本当に。


 見られていた。


 最初から。


 ずっと。


 喜びも。


 恋も。


 涙も。


 絶望も。


 全部。


 “消費”されていた。


     ◇


 観客席の奥で、

 何かが動く。


 ざわめき。


 期待。


 興奮。


 無数の感情が、

 濁流みたいに押し寄せる。


『ここがクライマックス?』


『最高』


『続けて』


『もっと壊れて』


『誰が死ぬ?』


『泣ける展開まだ?』


『レオノーラ映して』


 声。


 声。


 声。


 人間的すぎる欲望。


 だからこそ、

 吐き気がする。


     ◇


 だが。


 レオノーラ・ヴァレンシュタインだけは、

 一歩も引かなかった。


 崩壊する塔の上。


 光の雨の中。


 彼女は、

 真っ直ぐ空を睨み返す。


 “観客席”そのものを。


 恐怖はある。


 理解もしている。


 相手は、

 怪物ではない。


 むしろ。


 あまりにも、

 人間的だった。


 感動したい。


 泣きたい。


 興奮したい。


 だから、

 他人の人生を物語へ変える。


 その構造そのものが。


 彼女には、

 許せなかった。


 風が吹く。


 花弁が舞う。


 終末演出。


 それでも。


 レオノーラは、

 静かに言い放つ。


「ついに世界は、

 “作者たち”へ牙を剥き始めましたのね……」

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