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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン2 「民衆選択」

 王都中央広場は、もはや避難所ではなかった。


 巨大魔法陣に覆われた空の下。

 崩れかけた噴水。

 燃える街路。

 裂けた石畳。


 その中心で。


 人々は、争っていた。


「せめて意味ある終わり方を……!」


「こんな終末なら、英雄譚になれる……!」


「語り継がれるなら……!」


 終末受容派。


 恐怖に怯えながら。

 それでも。

 “価値ある滅び”を求める者たち。


 一方。


「ふざけるな!!」


「勝手に感動的に殺すな!!」


「物語なんか要らない!!」


「生きたいんだよ!!」


 自由意志派。


 泥だらけ。

 醜い。

 取り乱している。


 だが。

 必死だった。


 空では、

 巨大魔法陣が脈動している。


 まるで。

 人類同士の対立すら、

 “盛り上がる展開”として楽しんでいるみたいに。


 王都の端では、

 海面上昇によって家々が呑まれていく。


 空には、

 隕石の尾が流れる。


 なのに。


 夕焼けみたいに、

 美しかった。


 最悪だった。


     ◇


 ミレイユは、

 広場の中心で立ち尽くしていた。


 泣いている子供。


 怒鳴り合う大人。


 祈る老人。


 抱き合う恋人。


 全部が、

 同時に視界へ飛び込んでくる。


「どうして……」


 震える声。


「どうして、

 こんなことになるの……」


 誰も、

 完全には間違っていなかった。


 意味が欲しい。


 それは、

 人間の本能だった。


 苦しみに。


 死に。


 喪失に。


 何か理由が欲しい。


 そうでなければ、

 耐えられない。


 だから。


 “感動的な終末”へ救われそうになる人々を、

 ミレイユは否定できなかった。


 その横で。


 セシルが、

 崩れた石柱へ寄りかかる。


「物語ってのは、

 便利なんだよ」


 乾いた声。


 彼は空を見上げる。


 巨大な“目”。


 観客席みたいな闇。


 無数の視線。


「痛みへ意味を付けられるからな」


 皮肉っぽく笑う。


「だから、

 人類は簡単に酔う」


 ミレイユが、

 唇を噛む。


「でも……」


「それでも、

 意味が欲しいって思うの、

 間違いじゃないよ……」


「……ああ」


 セシルは、

 珍しく否定しなかった。


「間違いじゃねぇ」


「だから厄介なんだ」


     ◇


 広場中央。


 ついに、

 終末受容派と自由意志派が衝突を始める。


「英雄として死ねるなら幸福だろ!」


「幸福なわけあるか!!」


「醜く生きるくらいなら――!」


「勝手に綺麗に終わらせるな!!」


 怒号。


 涙。


 絶叫。


 拳。


 祈り。


 世界崩壊直前だというのに。


 人類はまだ、

 「どんな終わり方が美しいか」

 を議論していた。


 その様子へ。


 空の巨大魔法陣が、

 歓喜するように脈動する。


 観測者たちは、

 熱狂していた。


『うわ、最高の対立構造』


『ここで思想衝突入るの熱い』


『終末前の群像劇、好き』


『どっちも正しいのが良い』


『泣ける』


 感情の奔流。


 歓声。


 期待。


 熱狂。


 世界そのものが、

 “クライマックス”として消費されていく。


 レオノーラは、

 その光景を静かに見つめていた。


 拳を握る。


 爪が、

 皮膚へ食い込む。


 だが。


 彼女の瞳は、

 まだ折れていなかった。

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