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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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第24話 『作者殺し』Opening 「世界最終演出」

Opening

「世界最終演出」


 レオノーラ・ヴァレンシュタインが、“主人公権”を拒絶した夜。


 世界は、一瞬だけ静止した。


 巨大魔法陣。


 空を覆う“目”。


 観測者たち。


 その全てが、理解不能へ陥った。


 “選ばれること”を拒否する。


 “人気”を拒否する。


 “主人公”を拒否する。


 それは、観測構造そのものへの反逆だった。


 だが。


 観測者たちは、諦めなかった。


 むしろ。


 だからこそ、熱狂した。


     ◆


 翌朝。


 王都の空が、裂けた。


 轟音。


 いや。


 違う。


 それは妙に、“演出的”だった。


 空そのものが、

 左右へゆっくり開いていく。


 まるで舞台の幕みたいに。


 裂け目の向こう。


 そこには宇宙などなかった。


 闇。


 巨大な観客席みたいな暗黒。


 無数の段差。


 無数の影。


 そして。


 視線。


 見られている。


 世界そのものが。


     ◆


 海が上昇する。


 津波。


 普通なら恐怖でしかないはずだった。


 なのに。


 波が美しい。


 朝焼けみたいな橙色を反射しながら、

 ゆっくり都市へ迫ってくる。


 あまりにも、

 “絵になる”。


 炎が街を焼く。


 けれど火災の色彩は、

 まるで夕景画だった。


 崩れる塔。


 降り注ぐ光。


 大地を貫く巨大な光柱。


 空間全体へ流れる、

 滅亡寸前の劇伴みたいな低音共鳴。


 完全に。


 終末映画。


     ◆


 さらに。


 世界各地で、

 異常が同時発生する。


 重力反転。


 空へ落ちる瓦礫。


 大陸断裂予兆。


 空中へ現れる“伝説の剣”。


 遥か古代の英雄たちの幻影召喚。


 世界樹発光。


 隕石群。


 全部。


 “盛り上がるため”。


 合理性がない。


 生存率も、

 被害規模も、

 どうでもいい。


 ただ。


 映える。


 感動的。


 壮大。


 それだけを優先して、

 世界法則が組み替えられていた。


     ◆


 地下観測室。


 術式盤が悲鳴を上げていた。


 火花。


 焦げ臭い煙。


 無数の数式が高速で暴走し、

 観測結晶が次々ひび割れていく。


 ベアトリクスが、

 震える指で術式を押さえ込む。


「駄目です……

 観測出力、

 桁が合わない……!」


 セシルは顔面蒼白だった。


 乾いた唇で、

 小さく呟く。


「……始めやがった」


 誰も返事できない。


 ベアトリクスが、

 術式盤を見つめたまま言う。


「観測者側、

 “最終シナリオ”へ移行しています」


 沈黙。


 その言葉が意味するものを、

 全員が理解してしまった。


 これは、

 世界崩壊ではない。


 “最終章”。


 しかも。


 誰かにとって、

 最高に感動的な終わり方。


     ◆


 レオノーラは、

 静かに空を見上げていた。


 巨大魔法陣。


 裂けた空。


 観客席の闇。


 理解する。


 観測者たちは、

 もう隠さない。


 自分たちは、

 物語を見ていたのだと。


 世界は、

 作品だったのだと。


 そして。


 今から彼らは、

 “最高の最終回”を作るつもりなのだと。


     ◆


 その瞬間。


 空全体へ、

 巨大な魔法文字が浮かび上がる。


 発光。


 脈動。


 世界中の誰もが、

 それを見てしまう。


『最高の最終回を』


 王都が、

 完全に静まり返る。


 泣き声も。


 悲鳴も。


 消える。


 ただ。


 終末だけが、

 美しく空を覆っていた。


 第四部。


 最終局面が、

 静かに幕を開ける。

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