デートの結末
美結と陸の初デートは、来週の土曜日の予定だった。
美結が友人達に話すと、それはそれは盛り上がり揶揄われた。
あからさま工は不機嫌になり、しばらく口を聞いてくれなかったが。
実際美結も満更ではなかった。
それに男の子との二人きりのデートは、明人と工としかしたことがない。
久しぶりのデートに緊張し、着ていく服やアクセサリーを連日友人達と選んでいた。
しかしデートは行われることはなかった。
デートの前日に陸は部活でアキレス腱を切ってしまうという大怪我をしてしまったのである。
その代わりに美結は陸の家に訪問し、お見舞いに行った。
陸の家に着くと両親は仕事で不在のようで、人懐こい小学六年生の弟の空が陸の部屋に案内してくれた。
陸の部屋に入るのは中学生の頃以来で緊張したが、空が緩和剤になってくれた。
「大丈夫?じゃないよね。まだ痛い?」
部屋に入ると、陸は横になっていたが起き上がり、ベッドサイドに座った。
まだ細かい動作で鈍そうな顔をしていた。
「ごめんね。せっかく約束してたのに。」
「大丈夫だよ。」
「おわびといってはなんだけど、空持ってきて。」
「はーい。」
そう言って早足で出て行った空は、しばらくしてフルーツの沢山載ったタルトケーキを持ってきた。
美結は綺麗なケーキを見て思わず歓声をあげた。
「美味しそう!素敵なケーキ!」
「お互いクラス優勝しただろ?二人でお祝いしたかったんだ。」
そう言うと床に体を移そうとした陸の身体を、美結が支えた。
目があった陸は照れて顔を逸らした。
美結もつい自分がしてしまったことだが、顔を赤くした。
「あれ、お兄ちゃんたちってもしかして…。」
「空!」
密接した二人の様子に、空はニヤニヤと見つめていた。
そんな空を陸は宥め、三人でタルトケーキを頬張った。
いきなりデートは緊張して敷居が高かったから、家で遊ぶくらいがちょうど良かったなと美結はどこか安心してしまった自分がいた。
そして昼前まで三人で楽しく会話をし、陸の母親が帰ってきたため美結は帰宅した。
陸は松葉杖をついて美結が支えながらなんとか玄関に出ると、帰り際陸は言うのだった。
「今日は来てくれて嬉しかった。明後日からの学校はしばらく車で行くんだよ。美結は一人で大丈夫?良かったら一緒に乗ってく?」
「いいよ、大丈夫!私まで乗ったら母さん達に気を遣わせちゃうから。」
「そっか。くれぐれも気をつけてね。」
どこまでも自分に心配症で世話好きな陸は、まるで兄のように感じた。
美結はケーキのお礼を伝えると、安心させるように笑顔で手を振って家を出て行った。
そして美結がほっこりした気分で家に帰宅すると、玄関の前には妹の紗夜が立ち塞がっていた。
「ねぇ、お姉。工から今日は陸とデートするはずだったけどなくなって家デートだったらしいけど、何かあった?」
「ちょっと待って。なぜ、あんたが工と繋がってるんだ。」
「お姉の元カレだからだよ!」
掴みかかるかのように姉の恋路を気にする紗夜を前に、美結は半分無視しながらリビングに入った。
しかし気の強い紗夜は美結に寄ってたかって、質問詰めをするため、二人は口喧嘩をしていた。
「あらあら、姉妹喧嘩はよしなさーい。お昼はグラタンよ!」
「お母さん、グラタンの季節じゃないと思うんだけど…。」
いつも天然な母に場の空気は和み、姉妹喧嘩は終わった。
美結は季節外れだけど暖かくて美味しいグラタンを頬張りながら、もしデートが本当にできていたらどうなってたかを考えた。
ーというか、デートというか陸にとっては球技大会お疲れ様会だったのでは?
平和主義の美結は、脳内で都合の良いように解釈して陸のデート事件は終わった。