熱く燃える夢
二月十日。炎がゆらりと踊っている。
辺り一面を、熱い炎がゆらりゆらりと揺れていた。
愛しいあなたは目の前で愛おしそうに笑う。
その視線に、冷たい殺意を混ぜながら…
「柚様、お時間です
あなたの精神は一年も持ちません」
寂しげに、でもとても嬉しそうに、あなたは言った。
きっとそれは、やっと私を殺せる日が来たからだろう。
でもね、私だって死に場所は選びたいのよ?
「このままでは、あなたは壊れてしまう
僕の愛した柚様ではなくなってしまいます
そうなる前に、僕は…あなたを殺したいのです」
にっこりと笑うと、深海は懐から何かの瓶を取り出す。
今までの殺害方法とは、違う殺し方だった。
だって今までは、刃物で私の首をはねようと…
「今度は一緒に死にます
あの世に一人は寂しいでしょうから」
ああ、それはきっと毒薬で、
私を毒殺した後に、自分も飲むつもりなのだ。
でもその前に、私は…
「ねえ、深海」
「何でしょうか柚様」
「私ね、最後は桜の綺麗な所で死にたいわ」
「…………………」
深海は少しの時間考え込んでいる素振りを見せた後、
ふっと優しく微笑んだ。
「………………柚様がそう望まれるのであれば」
「それなら、戻っても良い?」
「はい、僕が死ぬ前に戻れば、記憶も継続されます
その代わり、柚様の記憶に影響があるかもしれませんが…
それでも、自らの死に場所選びの為に戻りますか?」
「ええ、戻るわ
だって最後くらいは、綺麗な場所で死にたいもの」
私は何度目かの戻る力を使った。
今までは時間を代償にしていたが、
きっと今回は、私の記憶が代償になるだろう。
「だから私の願い、きちんと覚えていてね、深海」
「お任せ下さい
柚様の願い、必ずや叶えてみせます」
二月七日。柚様がお目覚めになった。
今までのようなお転婆ぶりは消え失せ、
大人しい性格となってしまった。
多少落ち着きが出てきたが、態度は今までとさほど変わらない。
少し寂しいが、特に問題はないだろう。
柚様に、願いは必ず叶えると話した所、
「え?深海と何か約束した?」
なんて、返されてしまった。
詳しく話してみると、柚様はほとんどの人物を忘れていた。
と言っても、特に忘れても支障のない
連中ばかりだったから大丈夫だろう。
ちなみに赤月もその一人だったので、
彼はただの知り合いだと伝えておいた。
その中で、僕だけを鮮明に覚えている。
柚様が唯一頼れるのは今、僕しかいない。
ああ、何て喜ばしいことだろう。
このまま僕以外の人間を忘れてしまえば良いのに。
そうすれば、もっと、もっと、独占出来るのに。
いっそのこと、どこにも逃げられないように、
閉じ込めてしまった方が…
……………いや、それだと彼女は僕を恐れてしまう。
それは僕の求める柚様ではない。
そうしてしまえば、柚様は僕を愛してくれなくなる。
それだけは困る。やめておこう。
……………………………………………………柚様。
僕は、あなたを殺したいのです。
決してこの愛を受け入れてほしいわけでもなく、
決して僕の歪んだ愛を理解して欲しいわけでもない。
だって両想いになってしまえば、
きっと僕はあなたを独占しようとして、
閉じ込めようとして、嫌がっても逃がさないから。
そうしてしまえば、あなたは僕を嫌うのだ。
だけど、僕から逃げるのは許さない。
嫌だと言っても、今更手放す気などない。
僕を置いて死ぬのも許さない。
だから柚様、お願いです。
あなたと一緒に、死なせてください。
ひたすら狂った仕上がりになった。
どうしてこうなった?
あ、元から深海がヤバかったのか。