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17、僕がパンチラで誘惑を。ー始まりの物語 前編ー

「いってらっしゃいませ、ご主人様 」

 放課後のメイド喫茶でのバイト。僕をご贔屓にしてくださる岩尾さんが僕に会えたのかご機嫌な様子で帰っていく。


 店の入りはというと岩尾さんが帰ってしまって誰もいなくなってしまった。平日のこの時間帯なら仕方がない。サラリーマンはもう少し遅い時間帯で学生などの若者ははたまにこの時間帯にも来るが多くは休日の昼間だ。

 岩尾さんの座っていたテーブルはコトが片付けてしまい必然的に暇になる。


「おーいみんなぁ、暇ならちょっと来ぉい! 」

 奥のほうからさなえさんの呼ぶ声。客がいなくなった途端声質もぶっきらぼうで猫メイドとは対照的になる。この瞬間客が入ってきたらどうするのだろう。あるいはあれほどの大きな声、外に漏れている可能性だって十分にあるのに。



「何ですか? 」

 呼ばれたからには休憩室に行く。もちろんながら他の従業員も集まる。現在この時間帯に働いているのは僕とさなえさんを除けばコト、芽衣、麻衣ちゃん、椎名さん、菊さん、児子さんの6人。

ただし菊さんだけは客が来た時の対応のために表で待機している。


「明日は営業開始5周年ってことで特別イベントをやる。何か提案しろ 」

ずいぶんと投げやりな店長だこと。イベントで何をやるか決めることなんてもっと何日も前から決めておくことだよね。それに従業員に決めさせることではなくて店長あるいはそれに順ずる偉い人が決めるものな気もする。


「はいはーいお化け屋敷デーはどうだ? お化けに扮装して驚かすんだぞ。うらめしやぁーってさ 」

「メイド喫茶ってのは可愛さで和ませる場所なの。それを恐がらしてどうするんだよ。完全にメイド喫茶のメリットを失っているからね 」

「名案だと思ったんだけどなぁ、難しい 」

 勢いよく芽衣が手を挙げたかと思えば出てきたのはお化け屋敷。どこが名案なんだろう。芽衣は僕の反対の声を聞いてもう一度考え始めた。


「定番なら妹デーとか・・眼鏡っこデーもありね 」

「妹なら私は被っちゃうし眼鏡なら金井さんが被ってるよね。それでもいいと思うし、っていうか私はキャラを変えなくてもいいから楽でいいんだけど・・それじゃあやっぱりイベントとしてはどうなのかなぁって・・ 」


 コトが回りくどく児子さんの意見を否定する。年上の人が出した意見を否定するというのはどうしても遠慮してしまうところがある。

 だがいくら回りくどくてもコトの反対も一理ある。イベントはいつもと違ってこそイベントなのだから。

 結果一度は児子さんの意見に同意しかけた周りもコトに納得して妹デーと眼鏡っ子デーは却下となった。


「それやったら執事喫茶なんてどうやろうかなぁ? いつもとまったく違う一面っていうのでは抜群やと思うんやけど 」

「執事って私は男だってばれない? 」

 僕の当然の疑問だ。もともと男の僕が女装によってなんとか女の子に見せているのに男の格好をすればバレル可能性が一気に高まる。


「大丈夫よぉ~、スバルちゃんは可愛いんだから 」

「スバスバ可愛いよ。世界一可愛いよ 」

「そうそう、スバスバ。スバスバは誰がどう見ても女の子にしか見えないよ。逆にいつもの男の姿のほうが違和感というか気持ち悪いし 」

 凄く褒められるなぁ女の僕、そして凄くけなされるなぁ男の僕。はっきりいって女の僕がどう言われてもどうでもいいが、男のほうがけなされると傷つく以上に死にたくなる。芽衣に気持ち悪いまで言われちゃったし。


「じゃあ問題無いし執事喫茶な、はい仕事にもどれ 」

「はーい 」

 机の上に足を乗せながらファッション誌を読んでいたさなえさんが話がまとまったかと思うと顔を上げてそう言う。

 その声に従ってもう一度皆は表へと出て行った。



『カランカラン』

 表に戻って間も無く入り口の扉が開いて客が入ってくる。


 背は小さいクセして胸はメロンのように大きい、髪は長めの茶髪で今日の服装は花柄のキャミソールに白っぽいパンツ。

 なぜか彼女ーほのかーがいた。


「いらっしゃいませお嬢様 」

「来ちゃったよすばっち。久しぶりというか今日ぶりだね 」


 席に案内すると芽衣に腕を引っ張られて小さな声で僕に尋問を始めた。

「誰なのあの子? 彼女? 」

「ただの幼馴染っていうわけでもないけど、彼女ではないし友達も違う気がするし・・ 」

 正直なところほのかがどういう存在かといわれて答えづらい。前途したように幼馴染というにはたった一日遊んだだけ、彼女でも友達でも違う。正しく表現するなら告白されて答えずに保留している関係が適切だが残念なことにそれをここで暴露したら僕の精神HPがやばい。


「じゃああれだ、奥さんだ。もうスバスバは大人の階段をのぼったんだなぁ 」

「さも事実かのように感慨深く言うのはやめてね。違うから。奥さんじゃないし大人の階段ものぼってないから 」

「ほぅーじゃあスバスバは童貞だ 」

 墓穴を掘るとはまさにこういうことか。たった一つの失言で僕の大切な童貞情報が流布されることになろうとは。

「とにかくクラスメートだ、クラスメート 」


 いぶかしげになおも僕をじっと見つめてくるがこれ以上墓穴を掘らないように早々に退散しよう。ほのかのオーダーが決まったらしいので退散と同時にほのかの座る席に行く。

「このふわトロお絵描きオムライスとスバルちゃんのパンチラをください 」


「申し訳ございませんがお嬢様、当店ではそのようなサービスは行っておりませんので 」

「ねぇそこの・・えーっと菊さんかな? 本当にそんなサービスは行ってないの? 」

 ほのかは脇のほうで立っている菊さんに声をかける。名前が分かったのはここの従業員はニックネームをかいたカードを首からぶら下げているからだ。


「はい、お嬢様。残念ですが当店ではそのようなサービスは行っておりません。ただ・・ 」

「ただ、何なの? 」

「ただちょっとした偶然で見ることはできるかもしれません 」

 なぜだろう、菊さんはものすごく真面目なはずなんだけど疑ってしまう。言い方が裏がありそうで怪しい。内容自体は正論でそりゃあ偶然、例えば風でめくれて見られるかもしれないけれどわざわざそれを付け足す必要はなかった。


「ちょっち失礼するね 」

 広々とスペースはあったはずなのに芽衣が僕のすぐ後ろを通ってゆく。話の流れで芽衣のその行動の理由を察するのはいとも容易いことだった。


ーしまった! -


 だが理由に気づいたときには手遅れだった。

 手でスカートをつかみガードするが後ろから迫る芽衣の手が早くスカートをめくり上げられる。中から水色のパンティーが姿を見せた。


「おぉーすばっちのパンチラ。下着も女の子なんだね 」

 メイド服の生地は透けやすいし比較的丈も短いのでいつ見えるか気が気でない。だからこそこの前からいつ見られてもいいように下着も女の子のをつけるようにした。

 よりにもよってほのかに目撃されるなんて。とことん運がない。



「こちらがふわトロお絵描きオムライスでございます。お・じょ・う・さ・ま!! 」

 いつものコトからは想像もできないような乱雑な置き方をする。ここのところコトの機嫌が悪い、というよりは何かに焦っている印象。具体的な日はほのかがやってきた日から。

 特にほのかに対しては冷たく僕に対しては・・よく分からない。前のほのかとのお出かけ前みたいに急に話しかけてくれなくなったかと思えばことあるごとにコトからの視線を感じる。


「お絵描きはスバルちゃんに愛してるって書いて欲しいな 」

「残念ですがお嬢様、当店では指名サービスはやっておりませんので 」

「でも他に客はいないし・・だめでしょうか? 」


 またしても菊さんに同意を求める。菊さんはしばらく考えて

「すばるくんに選んでもらいましょう。彼女にお絵描きをしてあげるかしないかを 」


 否定でも肯定でもなくそう提案する。しかも「スバルちゃん」ではなく「すばるくん」と言った。

 まさか菊さんが言い間違えたわけでもなかろう。だからこそこれは究極の選択肢だった。

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