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18、僕が寝落ちで風邪を引いてー始まりの物語 中編ー

「すばるくんに選んでもらいましょう。彼女にお絵描きをしてあげるかしないかを 」


 菊さんなりの僕をからかう冗談だったのかもしれない。場を流そうとすれば「どうして僕が決めるんですか。もう休憩なんで後はよろしくお願いしますね 」と笑って言えばよかったことだ。

 頭では理解していた。口でも同じく言おうとしていた。でも視界に入ってきたほのかがあまりにも僕を真剣に見ていて口は心にもあらぬ言葉を言ってしまった。否、正しくは言おうとしていた偽りの心の中にはなかった言葉を言ってしまった。


「僕が書くよ。空いているんですからいいですよね、菊さん 」

「え、えぇ 」

 菊さんにとって予想外の返答だったのだろう。戸惑いの表情を隠しきれないまま頷く。


 僕は周りからのなんとも微妙な視線を浴びながらほのかの席の前まで行って元からテーブルに置かれてあるケチャップを手に取る。

 いつものペースより遅めで丁寧に「愛」の文字を書いていく。周りからの視線が、コトからの視線が気になって何度もやってきた作業のはずなのに手の震えが止まらない。

 10秒で書けるものに30秒、下手をすると1分はかかった気がする。書き終わってみると文字は手の震えのせいでぐちゃぐちゃで頑張って「愛してる」と読めるほどの汚さ。


 それでもほのかは喜んでくれたみたいで何よりだ。ホッと一息ついて後ろを振り返ると書き始めより気まずそうな顔でこちらを見ている。そういえばコトの姿がない。


「あの・・コトは・・コトはどこですか? 」

 声を振り絞って尋ねる。自覚はしている。今の僕は不恰好だ。

「休憩室だと思うよ。休憩の時間だからって。スバルちゃんもちょうど休憩だったよね。休んできたらどうかしら? 」

 単純に疲れているから休憩しなさい、というわけでもなかろう。おそらくはコトと話しをしてこいという暗示。ここで行ってなんて言えばいいかなんて分からないけれども男ならいくべきだ。素直に菊さんの助言を受け入れ休憩室へ向かった。



 休憩室に入ると窓からぼんやり外を眺めるコトがいた。もう外は暗くなっている。


「ねぇスバくん 」

 顔はそのままで僕に話しかけてくる。


「私はずっとずっと小学校のときからずっと・・一緒にいて、ときどき心配になっちゃうほど危なっかしくて楽しくて。とてもいい幼馴染だと思っていたの。でもねこの前雪前さんが転入してきてスバくんとずっといちゃついてデートもして今日は雪前さんを選んでどうすればいいか分からなくなった。あれで愛してるって書いても何の意味もないのにね。でも雪前さんのスバくんになっていくのが怖かった。そこまで感じて一つ分かったことがあるの 」

 コトはこちらを振り向き大きく深呼吸して続ける。


「私はずっと前からスバくんのことが好きだったみたい 」

 開いた窓からスーッと風が通り抜けた気がした。


 それは長年待ち望んでいたはずのコトからの言葉。ただ、今聞いてなんと言えばいいのか分からない。

 つい1週間ほど前まではこんな迷いはなかった。でもほのかと過ごして、ほのかとデートしてとても楽しかった。ほのかを何度も可愛いと感じた。

 これを恋と呼ぶのか、本気で分からない。コトに抱いていたのは何だったのか。よく一緒にいたいと思うなら好きということみたいなセリフはあるけれどコトとだってほのかとだって一緒にいたい。

 あぁ! もう何もかもが分からない。


「ごめん考えさせて。すぐにできるだけ早く答えを出すから 」

 逃げたんじゃない。もしも僕がいい加減に「はい」なり「いいえ」なりの答えを出して間違っていたら一生後悔すると思った。正解だったとしても本当に正解だったのか悩んで結局後悔しそうだ。


「分かった。期限は1週間後のバイト終了後。いい? 」

「うん、分かったよ 」



 部屋の電灯の豆電球だけ点いた薄暗い部屋。ベットに横たわって上を見つめるとただただ白い天井だけが広がる。

 ここは僕の部屋。バイトから帰ってきてご飯と風呂だけ済ませるともう何かしようという考えさえ起こらず寝ることにした。とはいってもコトからの告白のことで頭がいっぱいになり眠気など一切ないのだが。


 もしも僕がコトと付き合うことにあるいは結婚することになったら。

 どっちが好きか考えていても埒があかないのでまずは2人と生活したらどんな風になるのかを想像することにした。


 例えばコトと付き合えば毎日手料理をご馳走してくれるだろう。そこには一度食べたあの卵焼きもある。それからえーっと・・えーっと・・・・。

 必死に未来を予想しようとするが手料理以外に具体的な想像ができない。思い出そうと時間が経つにつれてどうしてか焦りを覚える。分からない。やっぱり分からない。


 それじゃあ、ほのかならどうだろう。例えば毎週デートをして。そのときに手を繋いだり一緒に何かを見て笑ったり、またあーんをして、膝枕もありだ。そしてキ、キス・・とかも。

 毎朝腕を組みながら登校、放課後では勉強を教えあって夏休みはプールに行って水をかけあって・・。きりがない。さらにはあわよくばキスよりももっとエッチなことをしてみたりだって。


 ほのかとの日常なら限りなく多く鮮明に思いつく。コトでは出てこなかった具体的な映像が恥ずかしいほどにほのかなら出てくるのだ。

 これは僕が本当に好きなのがほのかだから? 


『プルルルル、プルルルル・・・・・・』


 はっきりとではないが一応にも結論がでたところで机の上に置いた電話がなった。誰がこんな時間にと思ったがよくよく考えれば早かったのは僕のほうで今の時間はまだ9時30分。電話してくるのには適正だ。 携帯電話には純の表示。


「どうしたの? 純 」

「いやぁ数学の宿題の範囲が分からなくて。すまんが教えてくれ 」

「ちょっと待って。今確認する 」


 帰ってきてから一度もチャックを開けずに置かれていたカバンから数学のノートを取り出し宿題の範囲が書かれたページを広げる。

「えーっと・・問題集の36ページと37ページの全問だよ。結構量は多いけど間に合うの? 」

「ふ・ふ・ふ。お前は答え写しの術をしらないのか。あれを使えば宿題なんて10分もあれば終わるぜ 」

「くれぐれも全問正解なんて純の学力に合わない真似はしないでよ。一発でバレルから 」

「何回もやってるうちにそれぐらいは理解している。15問中12問は間違える予定だ 」

 馬鹿なことの自覚はあるみたいだが、5分の4も間違えようとは。もっともテストで10点台の常連、特に数学では一桁のほうが多い純にとっては全問間違いでも妥当かもしれない。


「じゃあな 」

「うん、また明日 」

 電話を切って机と向かい合う。宿題・・どうしようかな?



 次の日の朝、目の前の時計は6時30分。机に突っ伏すように椅子に座っていた。机の上には数学のノートと問題集が広げてあって5問解いたところで終わっている。

 どうやら宿題をやっていたところで寝落ちしていたようだ。よだれがノートのうえに染みを作っている。


「うぅっ、寒くないか今日 」

 もうそろそろ本格的な夏になろうとしている時期なのに寒い。寒気がする。


「ふぇっくしょん! 」

 何だか頭も痛い気がするし喉も痛い。

 布団を被らずに寝落ちしてしまったせいで風邪を引いたようだ。体温計を取り熱を計ることにした。


『ピピピピピ、ピピピピピ』

「38度1分。完全に風邪を引いたなぁ、うぅっ寒い 」

 身震いをして布団にもぐりこんだ。

 次話はスバルの恋事情に決着を着けれたらと思っております。あっさりといえばまさしくその通りですが、もともとこの作品自体ここに重点を置くつもりは無かったので。

 これが終われば????とのデートだったり、そろそろスバルの借金もどうにかしたいし、姉さんなどの出場機会の少ないキャラも出していきたいです。

 今後もお読みいただければ幸いです。

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