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14、僕たちがメイド喫茶でくじ引きを。

「で、スバスバ。もう行く場所は決めたのか? 明日だろ 」

「えーっと・・まだかなぁ 」

「スバルちゃん、男の優柔不断は駄目よ。女の子に一番嫌われるタイプなんだから 」


 いつも恒例のメイド喫茶「ゆーりん」の社員用休憩室。僕がいて、そこに向かうようにして座るのが丹沢双子の芽衣と麻衣、そして菊さん。


 今日の話しのテーマは僕が明日の日曜日に雪前さんとのお礼を兼ねたお出かけ(雪前さんてきにはデート)についてだ。さなえさんに休みを取ると言ったらその理由を追究され、嘘が苦手な僕は思わず本当のことを言ってしまったのである。

 ここで働く人は皆若くてちょうどお年頃と呼ばれる時期。特に女性なんかは恋の話には敏感だ。そのせいでこのお出かけを知られてからずっと興味を持たれ続けて今もこうして無駄にお節介を焼かれてるのだ。


 そういえば、1人だけ興味を示すばかりか不機嫌になってまともに口も利かない人物がいる。ずばり、コトなのだがその理由が分からない。どうも僕は女の子っぽい特徴を持ち合わせていても女の子の気持ちだけはどうしても理解できないようだ。


「動物園なんてどう? 可愛い動物たちに囲まれて過ごす二人の時間は魅力的だよ 」

「うーん、確かに魅力的だなぁ 」


「映画館なんてのもいいわよ。 静かで暗い中でイチャイチャするのは魅力的よ 」

「うーん、イチャイチャはしないけど確かに魅力的だなぁ 」


「麻衣はどうかな、スバスバ。胸はまだ小さいけど魅力的だよ 」

「うーん、確かに小さいけどそういう胸も魅力的・・って何を言わせるんだよっ! 」


 芽衣が動物園、菊さんが映画館と提案して勢いに乗って麻衣ちゃんの謎の提案にも同調してしまうところだった。既に同調していたなんて気のせいだよ。

 まあ仮にもそんなことはないと思うけれど同調していたのならば、小さい胸でも大きい胸でも構わず胸で判断はしないという意味で言ったとだけいっておこう。ロリコンじゃないことは今後の僕の人生のためにも強調しておかなければならない。


「あーっめんどくさいわね。もうこうなったらクジでいいんじゃない? みんなが言った候補の中から適当に一つ選ぶってことにしよ 」

 このままでは一生決まらないからクジにする点では現実的であっても雪前さんなりのデートの行き先をそんないい加減でいいのかと疑問も残る提案だ。

 だが、その芽衣の提案に菊さんも麻衣ちゃんも賛同した結果クジは作られた。


 紙の切れ端が3枚入ったティッシュの空き箱。3枚の紙には芽衣の動物園、菊さんの映画館、麻衣ちゃんの麻衣ちゃん自身。

 麻衣ちゃんの提案が消去されずに残ってるのには異を唱えずにはいられないが、いくら聞いても全員無視。芽衣はこういう悪戯っぽいことをやっても違和感はないし、麻衣ちゃんはもともと自分の提案だから逆に入らなかったら不機嫌になるかもだが、菊さんってこんなキャラだっただろうか。

 僕の記憶さえ正しければ真面目でここの従業員のまとめ役だったのだが。


「じゃあ、引くよ。大丈夫、スバスバの心配するような麻衣のなんて絶対に引かないから 」

 芽衣がティッシュ箱に小さな手を入れる。どれを選ぶか迷っているらしく約10秒以上もの時間をかけてやっと一枚の紙を取り出す。4つ折に畳まれていてこの段階ではまだ結果を知ることはできない。


「開っけまーす! 」

 芽衣が紙を開いていく。僕はすごく緊張してその行方を見守る。動物園や映画館ならいいが、麻衣ちゃんなら最悪だからだ。絶対に麻衣ちゃんなんて引かないよね?


「えーっと・・公平な抽選の結果麻衣が選ばれました。パチパチパチ 」

 自分のが選ばれなかったため残念そうにテンションの低い声でそう言う。ほんの一瞬どこか作り物のテンションにも見えたのは考えすぎか。


 フラグが回収されて麻衣ちゃんが選ばれてしまった。今更なんだが麻衣ちゃんってどうすればいいの? お出かけで麻衣ちゃんに行くなんて日本語大丈夫ですかレベルのことだ。なら麻衣ちゃんも連れて行くってことかな。それとも麻衣ちゃんにあんなことやこんなことの嫌らしいことでもしていいのかな。


「あのさぁ・・ 」

 その素朴な疑問を芽衣に尋ねようと思い、必然的に芽衣のほうを向く。すると、芽衣の顔には笑みが浮かんでいるように見えた。悪の入った笑み。

 これまた考えすぎという奴だろうか。否、そんなわけあるまい。

 このクジを引いたのも作ったのも芽衣であのいかにも作戦成功とでも言いたげな笑み。結論は一つだ。芽衣が仕組んで麻衣ちゃんの書かれたクジを引いた。あの10秒ほど迷って引いたのもすべて不正などしていないのを印象づけるためのものだったのだ。

 なぜ麻衣ちゃんを引かせたかったのかは分からないがどうせ面白そうとかでしょう。


「どうした? スバスバ 」

「芽衣、クジは公平に引こうか 」

「な、何言ってるんだよぉ。ま、まさか私がクジを引くのに不正したって言うの? そんなはずないよ。私は決して一つだけ箱の端に引っかかるように入れてそれを引いたなんてしてないよ。それが麻衣のだったなんてこともないよ 」


 笑って尋問をしてあげると芽衣は動揺し始めた。分かりやすい。僕も嘘はつけない性格でどうしても嘘をつかないといけなくなってもすぐにばれてしまうが、それ以上に芽衣は分かりやすい。不正をどんな方法でやったのかまで丁寧に教えてくれるなんて大変親切だ。


「とりあえず、もう1回引こうか 」

「・・・・はい 」

 終始爽やかスマイルで押し通しクジは再度行われることになった。


 今回も同じく3枚の紙を4つ折りにしてティッシュ箱の中に入れる。次は不正がないように中身をしっかりかき混ぜていよいよクジを引く。

「僕が引くね。う~ん 」

 1番始めに手に取れたのを引き上げようとしてその手を止める。手から1番始めに取った紙を手放し今度は奥のほうに入っていた1枚を手に取り今度こそ引き上げた。


 1番始めに取ったのにしなかったのに深い理由はない。紙の折り目や大きさで分かるとかそういうことは一切なくもしかしたら1番始めに取ったのが当たりで実際に取ったのはハズレかもしれない。

 一言で言えば人間の心理っていうやつで手前にあるのよりかは奥のほうにあるのが当たりっぽいと思ってしまったということだ。ほら、よくある例として店の棚に並んだジュースとか弁当。どうしてか分からないけれど奥の商品から取っちゃう事例はよく耳にする。


「で、結果はどうだった? あ! もしかしてまた麻衣だったとか! 」

 芽衣はよっぽど麻衣ちゃんであって欲しいのか嬉しそうに言うがまだ僕は広げてすらいない。4つ折に畳まれていた紙をゆっくりと広げていく。周りも僕の一挙手一投足を黙って物音も立てずかたずをのんで見守る。

 いよいよ完全に開かれ結果が公開された。


「えーっと・・動物園? 面白くな~い 」

 芽衣が言ったとおり紙に書かれていたのは動物園の3字。これを提案したのは芽衣であったが、それなのに自分でそれを面白くないと言うとは。それなら自分で面白いのを提案すればよかったのに。

 いや、それはそれで雪前さんとのお出かけの行き先が3分の2の確率でネタなのになりかねないのでやられては困るが。


「まぁ定番な感じだけどが、よかったのではないかしら。えぇきっとよかったのよ 」

 菊さんは言葉では「よかった」と場を収めるようなことを言っているが、唇を強く噛み悔しい気持ちがにじみ出ている。


 いつからこれは運試しとか面白さを求めるゲームになったのだろう。元はといえば僕たちの行く場所を決めるクジであった。というよりこのクジで選ばれても僕に行く義務はなかったのだ。

 ものすごく単純なことに今更気がついた。

次話以降デートです。たぶん3話になると思います。

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