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15、僕がお出かけで手を繋いだりーほのかとのデート(仮) 前編ー

「ごめん待たせちゃったかな? 」

「いや、今来たとこだよ 」


 雪前さんとのお出かけの日の日曜日で空には雲ひとつなくまさにお出かけ日和だ。

 場所は家からの最寄り駅「塚本駅」の前の噴水。思い返せば宅哉のご両親に挨拶に行ったときにもこの噴水のところで待ち合わせをしたっけ。さらにあの時と同じく「今来たとこ」と言ったのだが、今日こそは男の僕として言えたので満足だ。


 次に僕たちの服装についての紹介。

 とはいえ僕の服装なんて上は白のTシャツに数字がプリントされたもの、下はジーパンとごくありふれた平素な格好。

 メインはなんといっても雪前さん。レース生地でひらひらの服に丈がひざ上ほどのピンクのスカート、やや長めの茶髪を留めるのは蝶々の髪留め。その服装は彼女によく似合っていて彼女の可愛らしさを引き立たせている。


「今日は動物園に行くんだよね。ありがとね、一生懸命考えてくれたんだよね 」

「あ、うん 」


 もちろんあのクジに従わなくてもいいことは百も承知だが、芽衣たちが一応にも考えてくれたのだし他に考えようとしても案すら出てこなかったので動物園にした。

 だからといってクジで選んだことに変わりは無くこんなにも喜んでくれているのにまさか芽衣たちがクジで選んだだけなんて口が裂けても言えやしない。


「とりあえず、時間も惜しいし早く電車に乗って動物園に行こうよ 」

「そうね 」

 


 日曜日でありながら朝早い時間帯が功を奏して空席が目立つ車内だった。必然的に2人隣り合うことになるが動物園前はちょうど終点でここから30分はかかる。それだけかかるのならば座れたことは大変よかった。


「ね、ねぇ。私可愛いかな? 変じゃないかな? 」

 隣の雪前さんは僕のほうに体を寄せて心配そうな顔でこちらを見つめる。僕と彼女の顔の距離は10センチほどしかなく、背丈の違いから起こる上目遣いに僕の心臓がばくばくする。

 思わず黙って見つめ合ってしまったが雪前さんは可愛いと一言をもらえないせいでどんどん心配そうな顔になる。この心配そうな顔も含めて今日の雪前さんはいつもに増して可愛い。可愛すぎる。


「可愛いよ 」

 これ以上言葉が出てこなかった。僕の語彙力が無いのは事実ではあるがそのせいではなくて緊張のせいで声にならないのだ。

 それでも僕の気持ちはしっかり伝わったみたいで雪前さんは顔を赤くさせながら縮こまってしまった。可愛いと言われたのが照れくさいのだろう。拓哉に言われて経験済みなのでよく分かる。

  

 お互い無言のまま電車の時間は過ぎてゆく。10分ほど経ったとき、駅数で表すのならば2駅を通り過ぎたところだ。

 2人でこうして出かけているのに長い無言の間は気まずい。それが気がおけない相手ならそこまで問題はないのだが、相手がそこそこの面識しかない相手なら余計だ。


 普段の雪前さんならもっと話しかけてきてくれる。しかし当然のことなのか普段とは違う。先ほどから手をモジモジさせて数十秒に1回の割合でチラチラと僕のほうを見る。

 何度か目が合ってしまうと咄嗟に真正面を向いて知らないフリをするのだ。その後に彼女の横顔はほんのり赤くなっているのもまた可愛らしい。


「雪前さん、あそこの動物園には行ったことある? 」

 雪前さん観察を続けるのも一手であるが、折角のお出かけなので黙り続けておくのは反則事項だろう。とはいえ話題もないので定番な質問をぶつけた。


「ほのか。デートなんだし下の名前で呼んで欲しいな 」

「えっ? 」


 思わず聞き返したが聞き取れなかったのではない。返ってきた答えがあまりにも予想外だったのだ。

 まさか下の名前で呼んで欲しいと言われるとは。嫌ではなくとも恥ずかしい。長年の付き合いのコトを呼ぶのには支障はないが雪前さんとなると話は違う。

 それでも女の子の要望にはできる限り応えてあげるべきだ。男なら勇気をだせ! 


「ほ、ほのか? 」

「何で疑問形だし 」

「いや、まぁ・・ 」

 つい疑問形にしてしまった以外はほのかは満足そうだった。


「それでほのかはあの動物園に行ったことはあるの? 」

「ないよ。ここに住んでいた期間は短かったからね。小学校入学してからちょうどすばっちに出会ったときぐらいまでだったから2年もいなかったよ。すばっちはあるんだよね 」

「うん。小学校の遠足で2回いったかな。あ、でも今日は十分楽しみだよ。今まで行った中で一番 」


 自分で聞いた質問のくせして自分に聞かれたら聞くべきでなかったと後悔した。今までに2回も行ったのなら僕が退屈で面白くないと思っているととられるかもしれない。もちろん言ったことは嘘ではなく今までで1番楽しみにしている。


『まもなく動物園前、動物園前終点です 』

 話しているうちにいつの間にか目的の駅に到着していた。



「順番に回ろうか。始めはゾウからだね 」

「ゾウかぁ、どのくらい大きいのか楽しみ 」


 動物園に1人500円の入場料を払って入場した。入ってすぐのところにゾウがいてこれは小学校で来たときも変わらない。この巨体はやはり印象的で最後に来た時から何年も経っているが忘れられない。


「うわぁ! やっぱゾウって大きいね。他の動物園で見たことあるけどこんなに大きかったかしら! 」

 ほのかのリアクションはややオーバーでまるで初めて動物園に来た小学校低学年か幼稚園ぐらいの子みたいだ。だが楽しんでくれているのなら結構。動物園に誘っておいて面白くなかったらどうしようかと心配していたのだ。


「次は鳥さんのコーナーらしいわね。早く行きましょっ 」

「うわっ、ちょっと待ってよぉ 」

 ゾウを見たかと思えば鳥のコーナーを目指してほのかは僕の腕を引っ張りながら駆け出す。急に引っ張られたものだからこけてしまいそうになる。なんとか体勢を取り戻してほのかについていった。


「見て、あの鳥カラフルでとても綺麗だね 」

「あ、うん 」


 彼女が右の人差し指で指差すのはボタンインコ。確かに見た目もカラフルで綺麗で、表情も面白い。だが、問題なのは僕の右手とほのかの左手。ここに来る時に腕を引っ張られてからずっと離されないでいる。 鳥たちに夢中のほのかはそのことに気づいていないのかまったく恥じる様子はない。気づかれる前にこっそり離しておくか。

 そう思ってそーっと手を離していこうとするが、僕の右手はギュッと力強く握られる。


「どうして離そうとするかなぁ 」

「いや、これは、その・・ 」

 にっこりと笑ってこちらを見るほのか。笑顔の裏には絶対悪が潜んでる。無理矢理離そうとすればどんな目に合わされることやら。

 まったくもってほのかは隙がない。どうやら気づいていないというのはただの勘違いだったようで自然に手を繋ぐ作戦だったようだ。


「分かったよ 」

「よろしい 」

 観念して手を繋ぐことにした。



「そろそろお昼ご飯にしようか。中央エリアにレストランがあったはずだけど 」

 時刻は12時前。朝の9時から見始めて見れたのは全体の半分ぐらい。小学校のときですら2時間ほどの自由時間ですべてを見終わったのでこんなにじっくり見たことは無かった。それでも退屈ではなく楽しそうにはしゃぐほのかと一緒にいると余計に楽しくなる。

 そのせいで気がつけばお腹が空いてきた頃合い。僕はレストランの確認をしようとパンフレットを広げて確認をしようとする。


「弁当なら私が作ってきたよ。といってもただのサンドイッチだけど 」

 そうしてほのかは青の風呂敷に包まれた弁当箱をカバンから取り出した。

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