第参話:神代家の人々
登場人物的な……
神代家の家格は『寄合』である。
寄合を簡単にいえば『無職』のことを指す。幕府からなんの役(仕事)も与えられておらず、『家禄』つまり給与が三千石以上の家が組み込まれる。
幕府からの役は数多くあるのだがそれを求める旗本・御家人の数に追いついておらず、ほとんどの者が無職の状態を強いられていた。
無職なのにどうやって生活しているのか疑問に思うだろうが、主持ちの武家である彼らは働かなくとも幕府から米や金を支給されていたので食うに困ることは無い。しかしながら、それでも生活に困るような家では侍といえど内職に励むことになる。
支給の仕方は『知行取り・蔵米取り・現金払い』の三つの方式で行われる。
神代家は知行取りであり安房国安房郡に八村、現代で言うところの南房総市に所領が与えられている。
代官所を建てて家臣の中から計数に明るいものが派遣され領内の政務を行っている。
――神代 忠時 四十歳
そんなわけで幕府にも所領にも忠時がしなくてはならない仕事は何一つ無いのが実情であり、日がな一日隠居した父親とともに庭を潰して作った畑をイジることが彼の唯一の楽しみである。
――神代 伊代 二十四歳
忠時の後妻として神代家に嫁入りした。
実家は神代家と長く付き合いのある旗本松平家で伊代の父親は目付を務めており、質実剛健という言葉が当てはまる人物である。
伊代は琴の演奏がなによりも好きな人物で、実家からついて来た侍女と共に毎日楽しんでいる。
胸が大きいのが特徴的。
母親から指南された薙刀術を得意気にひけらかすが、実際のところは満足に扱えない。
――神代 忠之助 二十歳
神代家の次期当主となる嫡男である。
剣術や学問が嫌いで、町をぶらぶらしては面倒事に巻き込まれることが多い。
最近は町で出会った儒学者の林家の者と知り合いになり、林家の私塾に通うようになったのだが実は林家の孫娘に会えるのだけを楽しみに通っている。
両親や親戚からしきりに嫁取りの話が持ちだされるが、友人が嫁を貰ってから遊んでくれなくなったので、自分の自由な時間が取れなくなると思っていて避けている。
ちなみに結構な巨漢である。
――神代 忠頼 十六歳
神代家の次男坊。
道場の先輩から吉原に連れて行かれた時から極度の女好きになった。
しかしながら、冗談でも男前な面相をしていないのでモテることは無い。
吉原に行くまでは馬術の稽古が好きな少年だったのだが、今は女の知りを追いかけ回すことが日常。
一度は伊代に薙刀で切りつけられる所まで……。
最近やっとのことで養子に行けそうな気配がある。
――神代 早苗 十八歳
神代家の長女。
十五歳の時に神代家と同じく寄合席の赤井家に嫁いだ。
いつものほほんとして縁側に座っている。
赤井家では『隠居嫁』と言われるほどゆったりとしている。
あらあら、うふふ。
――神代 忠彰 五十九歳
神代家の前当主。
隠居する前から色々な趣味に手を出したがどれも中途半端に投げ出している。そのころの思い出が蔵の一つを埋めている。
最近の趣味は息子と共に畑仕事をすること。
還暦を迎えるのを楽しみにしているのでが、最近すこしボケてきた。
――神代 忠則 四十九歳
前当主忠彰の弟。
神代家の領地を治める代官を務め家老職にあたる。
――里田 庄三郎 五十四歳
神代家の家老兼用人。爺と呼ばれている。
神代家の私事に関する諸々を任されている。
子供は双子の娘『加代・紗代』がおり、神代家の奥向き女中頭をしている。
――間辺 善次郎 三十七歳
神代家の番頭。
屋敷の警備責任者。
一刀流の目録を持つが、血が苦手で見ると貧血を起こす。
――飯尾 佐平次 二十一歳
神代家の若党。
忠之助の付き添いが主な役目で、そのために色々な災難に遭うことが多い。
一刀流の切り紙。
――熊次郎・八兵衛 四十代
神代家の門番。
共に白髪まじりで剥げているが、なんとか髷を結っている。
いつもどうでもいいことで言い争いをするが、棒術の達者で……。
――権作 年齢不詳
神代家の厩舎を任されている中間。
いつから神代家に仕えているのか誰も知らないが、馬の扱いにかけては右に出るものがいない。
――為吉 十八歳
神代家の領地から来た中間。
身長が2メートルあり、見る人誰もが驚かされる。
武家が出掛ける際には行列を作る必要があるので、威容を誇るために連れて来られた。
筋骨隆々だが、心優しい好青年。
動物にはあまり好かれないのが悩み。
――よね 十七歳
天使丸の乳母。
転生してきた天使丸に乳を与え、身の回りの世話をするのが役目。
鳶職の男に嫁入りしたが旦那は屋根から落ちて死んでしまい、衝撃のあまり流産する。
鳶の頭に紹介されて神代家に奉公している。