46話
街へ戻ると、俺たちはそのまま冒険者ギルドへ向かった。
男は道中ずっと黙ったままだった。
何を聞いても、ほとんど答えない。
地下施設で何をしていたのか。
あの黒い人物は何者なのか。
どちらも、まだ分からない。
ギルドに入ると、受付へ向かった。
「昨日から続いている行方不明事件について、少し話があります」
「はい」
俺は男を見る。
「森でこの人を見つけました」
受付嬢が驚いた顔をする。
「この方は……?」
「地下にある施設にいました」
「地下施設?」
「ああ」
受付嬢の表情が変わる。
「場所は分かりますか?」
「分かる。ただ、詳しい話は本人から聞いたほうがいい」
男が俯く。
「……」
「話せることだけでいい」
俺がそう言うと、男はしばらく黙っていた。
やがて、小さく口を開く。
「俺は……あそこに行けと言われた」
「誰に?」
「分からない」
「分からない?」
「顔を見たことがない」
俺は男を見つめる。
「じゃあ、どうやって呼ばれた?」
「手紙だ」
「手紙?」
「ああ」
男は懐から小さく折り畳まれた紙を取り出した。
受付嬢がそれを受け取る。
紙には短い文章しか書かれていない。
指定された場所。
指定された時間。
それだけだった。
「これで呼び出されたのか?」
「ああ」
「何のために?」
「……分からない」
男は首を振る。
「最初は仕事だと思った。金ももらえるって書いてあったから」
「地下では何をしていた?」
「石を加工していた」
俺の視線が男の手に移る。
さっき地下で見た黒い石の欠片。
「黒い石か?」
「ああ」
「何のために?」
「それは知らない」
また知らない。
だが、今回は少し違った。
男が何かを隠しているようには見えない。
本当に何も知らされていないのかもしれない。
「他に作業している人間は?」
「いた」
「何人?」
「俺が見たときは……四人」
「全員、人間?」
「たぶん」
たぶん。
その言葉が気になった。
「どういう意味だ?」
「顔を隠していた奴もいた」
俺は黙った。
地下施設にいた人間。
黒い石。
そして、森を夜に歩いていた冒険者たち。
少しずつ繋がってきている。
だが、まだ決定的なものはない。
「その手紙は誰から?」
「分からない」
「じゃあ、どうやって報酬を受け取る?」
「作業が終わったら、指定された場所に置いておけばいいと言われた」
「……一方的だな」
俺が呟く。
男は頷いた。
「俺もおかしいとは思ってた」
「それでも行ったのか?」
「金が必要だったんだ」
それ以上は聞かなかった。
受付嬢が衛兵を呼ぶ。
男は事件の関係者として、事情を詳しく聞かれることになった。
俺たちは少し離れた場所で、その様子を見ていた。
「これで少し進みましたね」
リナが言う。
「ああ」
「ですが、まだ分からないことが多いです」
「そうだな」
俺は地下施設のことを考える。
あそこでは黒い石が加工されていた。
でも、それが何なのかは分からない。
俺の能力と関係しているのかも、まだ判断できない。
ただ――。
「一つだけ、気になることがある」
「何でしょう?」
「昨日の黒い人物だ」
あいつは地下施設を気にしていた。
そして、俺たちが施設を出た直後に現れた。
「偶然とは思えない」
「私もそう思います」
リナが頷く。
「ただ、今のところ追跡する手段がありません」
「そうだな」
俺はギルドの外を見る。
夕方の街は、いつもと変わらない。
人が歩き、店が並び、冒険者たちが行き交っている。
その中に、事件の関係者が紛れているかもしれない。
そう考えると、少しだけ警戒する必要がある。
「しばらくは、普段通りにしておこう」
「はい」
「森のことも、俺たちから余計な情報は出さない」
「分かりました」
俺たちはギルドを出た。
宿へ向かって歩く。
その途中。
ポケットの中の黒い石に、ほんの少しだけ違和感を覚えた。
俺は立ち止まる。
「……?」
取り出してみる。
何も変わっていない。
ただの黒い石。
それでも、昨日とは何かが違う気がした。
俺は石を握り、意識を集中する。
――ピッ。
また音が鳴った。
今度は、文字は現れなかった。
「……まだ何も分からないな」
石をしまう。
今は焦る必要はない。
事件も、能力のことも。
少しずつ調べていけばいい。
そう思って歩き出した。




