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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 5章 『天下覇道』

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第244話 服部保朝

 服部保朝、彼は伊賀最強の忍者である。彼が最強たる所以はその才能だけではない。並大抵ならぬ努力により彼は百地丹波を越える強者へとなったのだ。


 彼がそれほどまでの努力をして強くなった理由は何だろうか。それは彼がまだ幼いころまで遡る。


「服部家当主・服部正種が国を捨てた。抜忍成敗の定めに従い、奴らは今後処罰対象となる。すでに百地政永が追手として発ち、行方を追っている」

「上忍家から抜忍を出すとはいったいどういう事だ!!」

「まして当主自らなど、前代未聞じゃ!!」


 父が頭を地にこすり付けているのを保朝は見た。何があったのかは保朝にはわからなかった。ただ1つ分かったことは、父は幼い自分や妹を守るために己の尊厳や恥、ましてや命すら放り捨てる覚悟で地面に這い蹲っていた。

 そしてその日の夕刻、父は広場で腹を切って死んだ。


「本来なら一族郎党全員が連座で処刑されるところであるが、兄の連座で腹を切った服部保長の嘆願により、そなたらの命は助けられる事になった。しかし以後、服部家は上忍三家から外す。これからは真剣に鍛錬に打ち込み、一族の汚名返上に努めよ」


 こうして服部保朝はわずか7歳にして服部家の当主となった。抜忍を出して上忍家から外されたことで周囲からの風当たりの強い服部家。頼るべき父親はすでにいない。保朝の苦労の日々が始まった。


 当主といえども上忍家ではない服部家、しかも忍びの任務に出れる大人が一人もいないとなればやる事などほとんどない。幼い保朝にとっては幸いな事であったが、それは伊賀国内で長年影響力のあった服部家の没落とイコールである。保朝の最初にすべき事は一人前の忍者になる事であった。


 保朝の目的は服部家の上忍三家復帰である。その為にはまず上忍なみの実力を身につける必要がある。そして大忍術体育祭で優勝し、特別上忍になる。そうすれば十二人衆も認めざるを得ない。全て保朝の母の言葉である。母は夫を亡くしばかりにも関わらず御家を守る為、一切の弱みを見せず保朝と生まれたばかりの妹の子育てと教育に取り組んでいた。その母に恩を返す為、妹さんを守る為、保朝は北の里の忍者学校で修行に取り組んだ。


 その6年後、忍者学校の7年生の時の大忍術体育祭。保朝は決勝で去年の優勝者である百地正西を破り、優勝を果たした。決勝の戦いの内容は詳しくは省略するが、保朝の圧勝であったとだけ言っておこう。保朝はこの後さらに2回の大忍術体育祭を優勝する。大忍術体育祭3連覇、前例のない偉業であった。この時、服部家の上忍三家への復帰が検討されたが、それは認められなかった。


 保朝はこれ以上伊賀国内で何かをしても上忍三家への復帰は認められないだろうと考えた。保朝の忍術の腕を認め、登用したいと言う侍がいた。その者に雇われる形で保朝は伊賀を出た。国外で研鑽を積み、いずれ伊賀に戻った時に確実に認められる様に。だが理由はそれだけではない、国を抜けた叔父の一族を探し出し、首を伊賀へ持ち帰る。一族の汚点を始末すれば、上忍三家への復帰が認められると考えたのだ。保朝は雇い主の元で自由な諜報活動を許可され、日本中の大名の情報を集めながら、叔父の一族を探した。


 保朝は任務の中で様々な忍者と出会い、倒した。信濃の田舎侍が派生した様なのから越後や武蔵の名の通る忍びまで、様々だ。彼は忍びの最高峰とまで言われることになった。各地に情報網を敷き、怪しい場所には自ら赴いた。だが叔父は見つからなかった。半ば諦めていた。そもそも生きているかすら怪しいのだ。叔父探しは進展なし、実力をつけても上忍三家に戻れる保証はない。そんな中、情報網から一つの重大な情報を得た。母が危篤であると。


 保朝は大急ぎで忍者学校卒業以来の伊賀へ戻った。


「兄さん! 早く!」

「さくら! 母上は?」


 さくらは「もう助からないと思う」と言うと、保朝を部屋に案内する。部屋に入り、布団で横になる母上を見て保朝は言葉が出なかった。昔は物静かだけど確かな圧のあった母上が。


「保朝」

「母上!」

「あなたには苦労をかけました……」

「そんな事!」

「私の願いを押し付けてしまい、申し訳なく思っています。殿とのお約も遂に果たせず、あの世で殿に合わせる顔がありません」


 殿との約束、それは家を守る為に腹を切った父上の願い。その願いは父から母へ、母から保朝に引き継がれた。


「さくらにも、迷惑をかけました」

「? さくら……」

「兄さん、わたし、上忍になったの」

「そうか、おめで……」


 そこで保朝は思い至る。大忍術体育祭はまだ先だ。去年の大会にはまださくらは出られない。つまり、さくらは何か違うルートで上忍になったと言う事。そしてその方法は……


「まさか……」

「うん。でもこれでいい。服部家の上忍三家復帰が母様と父様の望み。その望みはわたしと兄様、2人で成し遂げよう」


 すべて自分一人でやるつもりだった。母のため、妹のため、亡くなった父の願いを一人で叶えるつもりだった。だが妹は守られる側ではなく、保朝と同じく戦う道を選んだのだ。

 自分の力不足のせいで妹にも保朝と同じ過酷な道を歩むことになる。申し訳ない。だがそんな気持ちより仲間が出来た心強さとこれからもっと頑張らないと、と気持ちが引き締められた。


「まずわたしは次の大忍術体育祭で優勝する。実力も上忍って認められなくちゃ」

「そうだな。でも出場者の中で最年少だろう? 勝てるのか? 確か今の6年には藤林保正がいる……それに南の里の百地家の長男も6年だったような……」

「それだけじゃない。噂だけど南に百地丹波といい勝負できる中忍が1人いるんだって。でも、勝つよ。勝たなきゃ、母さんのためにも」

 

 さくらはそうはっきりと述べた。兄としてはそれを応援するのみだ。


「わかった、僕は大忍術体育祭までに出来る限り国外で叔父の一族を探す。3月になったら今の主君の元を離れて伊賀に戻ってくるよ。さくらが特別上忍になって、もう一度十二人衆に掛け合おう」


 2人のやる事は決まった。保朝とさくらは布団で横になる母に向きなおる。


「「だから(わたし)たちに任せて。母上(母さん)」」


 母が穏やかな笑みを浮かべる。その日の夜、母は静かに息を引き取った。


 そこから約半年、やはり叔父一家についての情報は何一つ得られなかった。叔父は上忍、名が通ってるわけもない。

 数年使えた主君の元から去り、伊賀国へ。大忍術体育祭開催の2日前のことだった。


 体育祭前日、保朝はさくらの練習につき合っていた。福喜多将監に鍛えられたさくらの戦闘スタイルは高速移動からの体術。保朝から見ても高い技術を持っており、十分体育祭で優勝を狙えるレベルだと思った。


 そして迎える翌日、大忍術体育祭。さくらは順調に1回戦・2回戦を突破する。そして迎えた3回戦。3回戦の相手はさくらが以前話していた、百地丹波と互角の勝負が出来る中忍・坂井千代松。そして彼の力は参加者の中でも突出していた。正確には彼の所有する南蛮銃は。

 

 だが保朝から見て、さくらは坂井千代松に対して相性は悪くなかった。さくらの速度は参加者の中で2番目、銃を当てるのは難しいだろう。接近戦ではさくらと千代松では圧倒的にさくらの方が上だ。


 試合は保朝の予想と大きく外れた方向へ動き出す。試合会場のおよそ半分が坂井大助の放った煙に包まれる。さくらも煙に呑まれた。だが坂井大助は煙に入らず、木に登る。そこから銃を構える。あの位置なら煙のどこからさくらが出てきても狙える。大助が居ない側から煙の外には出られない、反対側は場外。


 さくらが煙から飛び出した。焙烙火矢で煙を吹き飛ばすつもりのようだ。


「ダメだ!!」


 坂井千代松が引き金を引いた。決着がついた。

 大忍術体育祭は坂井千代松の優勝で幕を閉じた。上忍3人を倒し、圧倒的な力を見せた、文句なしの優勝だった。


「ごめん、兄さん」


 さくらは大会が終わった後、保朝に謝った。保朝はさくらを責める気なんてなかった。だがさくらは自分を責めていた。


「ごめん、兄さん。ごめん、父さん、母さん……」


 これはマズいと思った。こうなるのも当然だ、わずか10歳の女の子に亡き父母の願いは重すぎた。

 さくらが次に特別上忍になる機会は1年後。それまでさくらは今まで以上に厳しい鍛錬を積むに違いない。なんとしても父母の願いにこたえるために。それはよくない、兄として妹にそんな苦しい思いはしてほしくない。


 翌日、保朝は北の里長・藤林長門宅へ出向いた。


「何の用だ? 保長の倅」

「里長の座を譲ってもらう」

「何?」

「服部家は確かに上忍三家ではなくなった。でも北の里長を継承する権利を失ったとはなっていない。これは正当な申し出だ」

「……そうか、だがただ譲れって言われて、はいどうぞって訳にはいかねぇよなァ」


 藤林長門は刀を持ち、保朝を見る。まるで本気でやる気か? と問うように。保朝も縄を取り出し、構える。里長の座を争う、本気の戦いが始まった。


 保朝の実力は圧倒的だった。体育祭を三連覇したことからわかる通り伊賀国内では群を抜く。そして2年間の国外活動の中で伊賀国以外の忍者や侍とも戦い、勝ちぬいた。里長と言えど、その保朝を倒すのは簡単ではない。いや、むしろ……


「ちっ、マジで強くなりやがって! 数年前とは段違いだぜ!」


 藤林長門は手裏剣を操る当時の北の里最強の忍者である。その藤林長門が押されていた。そしてついに……


「く……そォッ!!」

「終わりだ!!」


 保朝の縄が藤林長門を捕らえた。瞬く間に何重にも縛り上げられ、身動き一つとれなくなる。


「俺の、負けだ……」


 この日、北の里の里長は交代した。藤林長門が引退を表明し、その後を服部保朝が継いだ。服部保朝は里長の座につくと一つの命令を下した。


「服部家を上忍家に復帰させる。これは里長命令だ」


 同日、服部家は10年ぶりに上忍家への復帰を果たしたのだ。


 里長となった保朝は十二人衆の入れ替えを行った。里長となった保朝を認めない、服部家の上忍家復帰を認めない連中と植田光次ら高い実力を持つ人間を入れ替えた。北の里と伊賀国はすぐに新体制として動き出した。


 上忍家に戻ったとはいえ、一度地に落ちた服部家の評判は簡単に元に戻るものではなかった。だがさくらと協力し、少しずつだが服部家は元の立場を取り戻し始めた。里の統治体制の評判も良かった。それから20年、平和な日々が続いた。一度戻ってきた坂井大助に敗れはしたが、それからさらに鍛錬を積んだ。もう誰にも負けない自信があった。

 


「……伊賀を、頼む」


 地面に倒れる自分を見下ろす坂井大助にかすれた声でそう言った。三度戦い、三度敗れた。複数人で挑んでも。言い訳はできない、完敗だ。悔しいが、出来る限りのこと、やらないといけない事はやった。父母の願いは叶えた、服部家の立ち位置も抜忍事件の前と同じくらいにはなった。僕が死んでも服部家にはさくらがいる。

 国はきっと織田に取られる。それでも坂井大助が居るなら、きっと大丈夫。彼は敵だけど、伊賀を軽んじることはない。


 体から力が抜けていく。もう少しで自分が死ぬのがわかる。


「任せろ。伊賀国は俺が守る」


 坂井大助のその声を最後に、僕の意識は途絶えた。


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