67.影残しと
『ア、アクセリィィィ~!! てめぇぇぇ覚えてやがれ~~!』
ストレは竜化をした直後すぐに、デニサとオハードの側面から翼を広げ暴風を起こした。
オハードは目の前の骸どもに意識を集中しすぎていた結果、横から意図しない風に対抗する術がなく、この場にいる誰よりも先に吹き飛ばされていた。
「あぁっ、オハードくんが~~」
「油断しすぎでしょ……」
「おっさんが飛ばされた~」
オハードを心配するよりも、飛ばされてしまったことが当然かのような反応を見せる彼女たちを見ると、奴は思いのほか愛されていたのだなと、何となく笑みがこぼれてしまった。
「……くくっ、あの分なら問題なく戻って来るだろう」
「ですです! オハードくんは頑丈ですから」
しかし問題は残った。
ストレの竜としての力は、確かにオハードを吹き飛ばすほどの威力を示した。
だがデニサなる影は、この場にしぶとく残っている。
「ほ、本体はどこに?」
「あぁ、ルシナから見てどう思う?」
「ストレさんの風は確かに凄かったけど、それでいなくなるなんてことはあり得ないと思う」
「あぁ……アレは影残しだ。俺が勇者と組んでいた時は人間だったかもしれないが、今や魔の気配しか感じられない。あの女の肉体は、勇者の所に戻っているのだろうな」
「アクセリさま! 影は生きていないのです~?」
「待て、迂闊に近付くな!」
「パナ! アクセリの傍を離れたら駄目でしょ! もう!」
無数の骸は吹き飛び、デニサの影だけが残されている。
危険性は減ったと言えるが、油断しては足下をすくわれるかもしれない。
無邪気なパナセと子供のアミナスは、影の周りを何の警戒も無しに、面白おかしく眺め歩いている。
「おい、パナセ! 影から何が飛び出て来るか分からん。今すぐ離れろ!」
「……」
「分かったのだ、おっさん」
「パナセ、どうした?」
「ほえっ? な、何でもないです~アクセリさま! いよいよ行くのです~?」
「本当か?」
「ですですっ!」
残像を残すくらいの頷きを見せるパナセだったが、影に近付き過ぎたのはいい予感がしない。
「あれ、ところでエルフのロサさんはどこにいるの? 最初からここにはいなかったけど」
「あぁ、あいつには先回りをしてもらっている。表立って戦うタイプではないからな。アサシンの本領発揮は、今ここで見せるものではない。それよりも、ルシナとパナセは回復薬やら何やらを整えておいてくれ」
「それもそうだね。うん、任せて!」
ここでパナセのことを深く考えすぎても良くないと分かっているが、ベナークの野郎の前に行ったことで、どうなるのか見当もつかない。
少なくとも、今ここでルシナと話をしている姿を見る限りでは、異常さは見られない。
「ヌシ……さま、移動?」
「いや、ストレは平気か? 力を相当消耗しただろう?」
「翼を……動かしただけ……でも、パナセが心配」
「――! そうか、勇者の所で何か異常を感じたら、ストレ……頼んでいいか?」
「……理解」
子供の姿だった時に出会ったストレは、パナセの危うさに気付いている。
今は面影を残すだけの成人した姿のストレではあるが、竜人として全体的に長けた能力に加え、探り能力も得られているようだ。
恐らく俺以外で、パナセの異変に気付いているのはストレと、この場にいないロサだけのはず。
『パナセ! ここへ来い!!』
『ほへっ? ル、ルシナちゃんと整理整頓中だったです~』
『いや、俺の傍に来てくれ!』
『はひゃうっ! 行くです行くです~~!』
トドメを刺せず、影を残してしまったが、とうとうベナークの野郎の所に向かうことになる。
その先でたとえパナセに何らかの異変が起きたとしても、愛すると決めた女を最後まで信じるしかない。
「き、きききき、来ました~~!」
「あぁ……もっと近くに」




