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65.賢者の企み 2


「あぁ~っくそっ!! 何でこんな小娘ごときにこの俺が!」

「……予想以下の弱さを露呈されていますけど、いつになったら本気を出してくれるというのです?」

「うるせえな……」


 オハードの強さの本領は昔から認めているが、女によって国を追われ滅亡された負い目が自身の中にあるせいか、女に対し苦手と悲哀の意識が奴の中に根強く残っているようだ。


 魔女デニサの見た目は確かに小娘で、全身黒衣のパナセに近い格好だが、紅く光る瞳と口調と雰囲気は小娘のそれではない。


 しかし魔族は人間の常識と一緒に出来ない。それにもかかわらず、外見による”幼さ”を気にしてか、オハードはまともな一撃を入れられずにいる。 


 オハードの弱みをあえて敵に突き出すことで、奴に眠る潜在的な本気を期待しているのだが……


「がっかりですね……何の面白味の無い勇者をあそこまで成長させてくれた賢者さまだからこそ、ここまで連れて来たお仲間さんを相当な強さにまで引き上げてくれていたのかと思えば、弱き者は成長すらも望めずタダの捨て駒扱いなんて」


 デニサは俺やパナセたちを一通り見回した後、眼前に対峙しているオハードをあざ笑うかのようにして、首を何度も傾げている。


「あのあのあの、アクセリさま……オハードくんはお強いのでしょうか? 何だか見ていて心配なのです……」

「……ふ、パナセが奴を心配か?」

「し、心配になるですよ。オハードくんの瞳の奥はとっても優しくて、守ってあげたくなっ……へぎゃっ!?」

「調子に乗るな。確かに奴は女の前では嘘のような弱さを見せるが、敵と認めればオハードくんとは呼べなくなるぞ」

「アクセリさま、ひどいです~でも、愛情表現を一身に受けているわたしは幸せなのですよ」

「……愛されていることを身をもって感じているなら、何よりだな」


 しばらく言葉を発していなかったパナセだが、頭を軽く小突いたことでいつもの彼女に戻ったようだ。


 ロサの言葉を受けてからここに来るまでに、俺の中にパナセへの何らかの疑いをかけていただけに、微小な雰囲気を感じていたのかもしれない。


「あなた様は魔戦士でしたか……? 何故、魔法をお使いにならないのです?」

「……使って通用するのかよ? 俺は剣を振り回した方が性に合っているんでな」


 体格差に関係なくオハードは一通りの精霊魔法を唱えられるが、奴の言う通り腰に帯びた剣を今か今かと抜こうとしているのが見えるが、この魔女には通じないことを危惧しているのだろう。


「……試しで悪いが、俺が備えている魔法をぶっ放させてもらう」

「いつでもどうぞ……」


 予想に反して、魔法による試みをするつもりらしい。


「あぁ、くそっ……魔窟を漂う意思なき大気! 烈風乱れの、死弾(デッドショット)!!」

「死を呼ぶ魔法弾ですか。こんなもの、避けるに値しませんね……受け止めて差し上げます」


 奴にしては珍しく、付加ありの魔法弾を放った。


 何かを試すつもりで放ったようだが、至近距離で戦っているオハードは、デニサの存在が本当にそこにあるのかを確かめたかのようだ。


「……き、効かないのか? ……やはりそうかよ、アクセリ」

「フフフ……今さら賢者に泣きつくおつもりですか?」


 剣を手に取り、デニサに向けて突っ込むつもりのようだが、正攻法では効かないことが分かってしまったのか、その場から動く気配を見せなくなった。


「はひゃう~やっぱりオハードくんでは敵わないのでは~?」

「普通の魔法ではどの道、敵わないだろうからな。可能性を確かめたんだろう」

「ほえ?」

「ど、どういうことなの、アクセリ」

「ルシナはデニサを間近に感じて、可能性を探さなかったのか?」

「……それは。アクセリは最初から知っていて、彼を?」

「あくまで可能性だ。少なくとも、俺が受けた呪いは限られた術者しか放てない魔法だからな」

「え、じゃあ……アクセリのPTにいた時から彼女はそうだったと?」

「デニサは死霊魔術師だろうな。魔王の側近と聞いて、そう思った」

「そ、それじゃあ、魔王を再びって……」


 俺を追放した上、劣弱賢者にしたデニサは禁呪を使って、騙せる勇者の傍にいた。


 知力と気力、膨大な魔力を備えた俺が近くにいるだけで、魔族、魔王を復活させることは邪魔となったということなのだろう。


「アクさま、このままではオハードは危ないのでは?」

「……どうだろうな」

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