64.賢者の企み 1
「これがかつて賢者と呼ばれたアクセリさま……ね。ふふふふ、ベナークと同様、弱いなりにここまで仲間を連れてたどり着いたことは、さすがと言わざるを得ませんね」
「ベナークの野郎の弱さと一緒にされては困るな。ベナークの野郎を置き去りにしてあんただけが出張って来るとは、随分と余裕ではないか。それも魔王を滅ぼした場を選ぶとは、中々酔狂だな」
「魔王を滅ぼした? そう記憶しているのは、アクセリさまだけなのでは? そこにいるハーフエルフの薬師の表情で、お分かりになられているのではありませんか?」
ハーフエルフのルシナの言葉をそのまま鵜吞みにすれば、魔王も勇者も共存している……だったか。
それともこれは、パナセの言葉だっただろうか。
「うふふ……いずれにしましても、呪われた賢者が己自身を強くすることは叶わなかったご様子。だからこそのお仲間を集め、ここに乗り込んで来られた」
「ふ……その通りだ。俺はこの通り、かつての強さは見る影もない。だが、魔戦士オハード、召喚士、アサシン……万能の薬師そして、竜人。俺が弱くとも、仲間が強ければどうにでもなるものだ。魔女デニサは、俺がここに来る過程で元の強さに戻ることを期待でもしていたか?」
「期待など出来るはずもありませんわ。わたくしの呪いは単なる黒魔法ではなく、魔族の呪縛魔法も加味しております。たとえ全知全能の智者であろうとも、呪いが容易く解けることなどあり得ませんわ」
パナセのおかしな力も含め、黒騎士の個人的試練で、呪いはあっさりと解呪されてしまったがな。
どうであれ、俺自身がデニサをどうにかするよりも先に、オハードに仕掛けてもらうとするか。
それにしてもデニサが魔族ということは、魔王の側近だったと認めたようなものだ。
大方、弱い心と女好きに現を抜かしたベナークに、魔への誘いでも囁き続けたに違いないだろう。
「アクセリさまは弱いままベナークさまに打ち消して頂くことにするとして、ここではあなた様がせっかく集めたお仲間たちを、全て呪縛の渦に取り込ませて差し上げますわ」
「やれるものならな。お前がどれほど呪縛魔法に長けていても、あいつには効かん」
「……いいでしょう。賢者が信ずる魔戦士を手始めに、手練れらしき者たちを沈めますわ」
ここでの狙いは、オハードを本気にさせることにある。
奴に呪いが効かない理由としては、すでに黒騎士に受けた傷が関係している。
「そういうわけだ。オハード! 俺に構わず、魔族の女を倒せ!」
「……ちっ、俺に嫌な役目を押し付けやがる。まぁ、てめえが因縁とする勇者が野郎だって聞いた以上、勇者はてめえに譲るけどな! 俺は女を相手にする方がいい」
「そうだろう? そういうわけだ。デニサの相手はお前に任せた」
「あぁ、面倒くせえ……こんなガキ相手に、何で俺は全く……」




