63.深淵の魔窟で
竜と化したストレのおかげで、俺たちはいとも簡単に、目的地にたどり着くことが出来た。
もちろん、ただ飛んでもらうだけじゃなく、敵に対してもらう為にPTに加わってもらった。
「ヌシさまの為に動く」
「頼むぞ、ストレ」
これも懐かしい響きだが、俺のことをヌシと呼ぶのを途中で思い出したらしく、そう呼ぶことにしたようだ。
これについてすぐ引っ掛かりを覚えたのは、オハードとロサだった。
「てめえなんぞにヌシさまだぁ? 全くよぉ……パナちゃんがいながら、竜人だの、エルフだの……やってられねえぜ」
「……それはわたくしのこと? その身、その心臓を強制的に止めてもいいのですね?」
「エ、エルフってのはアレだ! あんたじゃねえよ! そ、そこにいるルシナちゃんもエルフ……」
「今何と……?」
「す、すまん……すみません」
もはやオハードなるかつての狂暴男は、PTの女たちには逆らえなくなったようだ。
唯一俺だけには、強気な口調で話せるということで、屈強精神を保っているということらしい。
かつて俺と勇者が倒した魔王が棲む魔窟。
そこに突入した俺たちだったが、気配を感じるはずが無いのに、どこからか覗かれているような気配をずっと感じている。
それにいち早く反応……というよりは、いつもの愉快な娘が俺にしがみついて来ただけだった。
「ほ、ほえほえほえ……な、何なんでしょう!? ねえ、アクセリさま」
「何がだ?」
「またまたぁ! と、ととととととっくにお分かり頂けていますでしょう?」
「落ち着け」
「す、すごくすごく注目を集めておられます。さすがアクセリさまなのです」
震えまくるパナセを遠慮なく抱きしめながら、全神経を研ぎ澄ませた。
一、二……いや、三十くらいか。
確かに悪意が満ちた視線と力の注ぎを感じているが、あえて力を潜ませている俺に、そこまでするのかと思いたくなる。
パナセとルシナの二人だけは、未だに俺の力が戻ったことに気付いていない。
明かす機会を持てなかったといえば聞こえがいいが、パナセの真意を確かめるまでは己の中に封印しておくことにした。
「ど、どど、ドラゴンがこの先にいるような気がするです!」
「ストレの妹か?」
「ち、違いますよぉ! アクセリさま、今は冗談を言っている時と場合じゃないんですよ? プンプン!」
「はははっ! 可愛いな、本当に」
「し、知らないですよ!」
などとふざけていたが、どうやら本当らしい。
その時点で分かったのは、パナセには魔となる者の気配を読む能力も、備わっていたことだ。
「色々とお持ちのようですわね……くれぐれも油断なきよう」
「疑うことが全て通じるとは限らん。ロサもここでは弱者を装え」
「すでにしておりますわ。していない……というより、何も考えていないのは子供だけですわ」
「それはパナセも……か?」
「フフ、どうでしょうね」
パナセの言った言葉をどこまで信じ、ロサの警戒心をどれくらい思えばいいのか、ベナークの野郎に会うまでは判断のしようがない。
だがこれまでパナセには、そうした思いを抱いたことが無いだけに、いつも通りにするしか無いのが現状だ。
「おい、アクセリ……全部まとめてやりゃあいいんだよな?」
「勇者はここにはいない。目に見える獣、何なら神と崇められているモノも、全てぶっ潰して構わん」
「了解だ、リーダー」
「ほぅ? 俺を認めたのか?」
「ふざけたこと抜かしてんじゃねえ! だが、てめえについたおかげで、俺にも華やかな未来が見えて来た気がしているだけだ。じゃあ、ちょっくら行ってくらあ」
「一人で行くのはやめて、召喚士を後方に控えさせておけ」
「へっ! ガキを手懐ける能力なんざ、持ち合わせてねえな」
強気な態度で突っ込みをかけようとしていたオハードだったが、パナセに睨まれたことで渋々アミナスに声をかけ、その足で奥へと進んで行った。
奥に潜んでいたのは獣と竜族が数体、悪魔族が多数いたようだが、駆け足で駆け付けた時には、ほとんどが死に体となっていた。
その中には言葉を有しない獣だけが、間もなく息絶えようとしているだけだった。
「アクセリさま、敵はいなくなったです?」
「敵というより、王のいない魔窟なぞ、獣の棲み処となるだけだ。だが……」
「はい……気配を感じるですよ」
「私だって気配を感じているんだからね? パナセが感じているんだから、妹にだって!」
「ああ、頼るぞ、ルシナ」
「ふ、ふん」
パナセに何かの疑いがあろうとも、俺とルシナはそう思わない……それでいい。
『とうとう戻られましたか? 劣弱賢者のアクセリさま……せっかく呪いをかけて差し上げたのに、どうしてそこまでして、ベナークを倒すつもりなのでしょうね』
やはり出やがった……雑魚獣など、見せかけに過ぎなかった。
気配を最初から気付かせていたのは、デニサという女黒魔導士、ただ一人だったらしい。
『ベナークの野郎よりも、まずはあなたを消そうと思っている。なぁ、魔女さんよ?』




