62.魔王城への寄り道 3
「……あのぅ、お願いを聞いてもらってもよろしいでしょうか?」
「何だ? かしこまるなんて、パナセらしくないな。言ってみろ」
パナセの挙動不審は今に始まったことじゃないが、さっきの妙な勘ぐりといい、何かを伝えようと考えているのがミエミエだ。
「で、出来ればそっとお話をゴニョニョ……」
「お前に近付けばいいのか?」
「はひゃっ! そっと、そっとですよ?」
何かを企み、実行しようとしているのは、誰の目から見ても明らかではあるが……。
近付いた途端の口づけをされる可能性を否定出来ないが、それでもいいと思えてパナセの顔に近付いた。
「ア、アクセリさまが接近中……!」
「近付いているな」
「えいやぁ~~! 隙あり!!」
「――っ!? よ、止せ! 息が……」
「離しませんよぉ~むぎゅ~」
「わ、分かった……分かったから、落ち着け」
息を一つ二つ吐いたパナセは、またしても人が変わったように話し出した。
「パナセは実は奴隷だったのです。それをあなた、賢者さまは察していながらわたしを導いて下さりました。わたしのおかしな力は、アクセリさまの為にお使いします。あなたの為にわたしは、いるのです」
これは驚いた。
パナセの意表を突いた覆いかぶさりで、甘えまくって来ると思い込んでいたが、誰にも聞こえない至近距離で、奴隷のことを含めた言葉をかけて来たのだ。
普段の愉快なパナセの中にも、ルシナの姉であることを証明するかのような人格が入っているようで、彼女の言葉には耳を傾けるしか出来なくなる。
尤も、俺が草むらに無様に寝転がっていた時の口調はこんな感じではあったが、それとはまた雰囲気が異なるだけに、上手く言葉を出せないのが現状だ。
「パナセ……お前――」
「何があってもお守り致します。アクセリさまを弱くしたのは、わたしのせいなのですから……」
「なにっ? どういう意味……」
「えいっ!」
「ぬあっ!? にぁにをする!」
「アクセリさま、愛しておりますよ~」
いつもパナセの顔で遊んでいたことを、まんまとやり返されてしまった。
一通り俺の頬を、両手でこねまくったパナセは俺から離れ、ルシナの元へと走って行く。
まさかと思うが、勇者側の人間だったんじゃないだろうな。
しかし黒騎士の言葉を信じれば、奴隷としてパディンの町に隠していたと聞いた。
金色の長い髪を揺らしながら無邪気に駆けて来たパナセが、ベナークの所にいたなんて、考えたくないことだ。
「わたくしは最初からネギ女のことを、油断しておりませんわ」
「ロサか。何故そういうことを言う?」
「万能の薬師かもしれませんけれど、あの女がこれまで傷を負ったことがありますか?」
「だからそれは俺に移したからだろ」
「……初めからその力を使っていたとしたら?」
「そうだとしても、俺の精霊要素は力を取り戻したぞ。それ以外の力なぞ、オハードのようには行かないしな」
「いずれにしましても、アクさまはベナークと組んでいた時のメンバーを、よくよく思い出してくださいませ。記憶までは劣弱化していないのでしょう?」
ベナークの野郎とPTを組んでいた時か。
デニサなる黒魔導士はまるで記憶が無いが、後ろにずっと控えていた回復術士は、俺自身がどこかで誘った記憶がある。
そして裏切られ、追放された後のメンバーのことについては、今となっては知る由も無い。
まさか……な。




