52.空穿ちの光槍と満身創痍の賢者 前編
「一つ聞く! パナセをどうするつもりがある?」
「貴様が知ることではない」
「それは困るな。あいつは俺が愛すると決めた薬師だ。奴隷であったかどうかは関係なくだ。それでも奴隷に戻すつもりがあるなら、俺はお前を許すつもりは無い!!」
「知ったことか。そういう戯れ事は、俺の槍を全て受け止めてからほざけ!」
黒騎士エウダイから聞かされた事実は、パナセを愉快な娘としてみていた俺にとって、衝撃的なものだった。
ルシナも言っていた通り、元々のパナセは全然違う性格だったが、俺によって変わってしまったと聞いていた。
恐らく初めて出会った時のパナセが、弱さを見せていた姿だったのだろう。
「劣弱と果てながら、息絶えることを選ばなかった賢者。貴様は俺が始末してやる」
「ふ、そうならないことを願う」
「奴隷を守る意気地のない賢者め、消えろ!」
どこまでの憎悪をこめて言い放っているというのか。
黒の騎士と成り果てた女と、劣弱にされた俺とで過去の因縁を断ち切る戦いとなるようだ。
「精霊要素を呼べ! 賢者としての力は我が奴隷によって戻ったはずだ!!」
「言われるまでも無い……お望み通りに食らわせてやろう」
ルシナ、そしてパナセによる痛みの連鎖で死に際となりかけたが、パナセの意識が閉じられたことで、寸での所で息を吹き返すことが出来た。
同時に、潜在能力の恩恵を受けた俺は、奪われていた精霊要素の力を取り戻すことが出来た。
とはいえ、痛みが消えたわけではなく、完全に戻ったわけではない。
槍の動きを封じることを考えずに、攻撃に転じた方が得策かもしれん。
『地に眠りし統べの王、満ち満ちた怒りを我が胸に、災い為すものへと激震せよ!』
「……賢者の精霊要素、土か」
「黒騎士エウダイ! お前の槍の威力はすでに承知している! 踏み込みの力を半減させてもらう!」
「それだけか……?」
「ほぅ? 精霊要素など脅威にもならぬのか?」
「もっと繰り出せ! 劣弱と呼ばれたままで勇者を消すなど笑止」
正直言って、槍使いの黒騎士とは一度戦っている上、相手としての相性は悪すぎる。
前に出て戦うものでもないのを言い訳になどしたくは無いが、攻撃特化の騎士に一騎打ち、しかも近距離で対するにはあまりに不利過ぎる。
「俺を殺す気で来るんじゃなかったのか? 何故俺の精霊を受けたままで動かない?」
「くく、劣弱だった賢者アクセリ。貴様の精霊要素の強さを噛みしめている……それだけのことだ」
何を企み、何を見抜こうとしているのか、素顔の見えぬ騎士の心は未だに見えて来ない。




