51.黒騎士と奴隷
パナセ、そしてルシナは共に気を失い、しばらく目を覚ますことは無いだろう。
その方が幸いと思わざるを得ないが、パナセによるダメージ転移によって、どうやら俺の体に変化をもたらしたようだ。
パナセから受けたダメージによる能力の回復は、以前から感じていた。
だがそれは微々たる感じだっただけに、そこまででは無かったのだが。
しかしこれは完全なる回復と呼んでいい。流れ過ぎた血はすぐに止まり、賢者としての盟約要素は全て使える状態となった。
一体パナセは何なのか。
「劣弱……貴様は、パナセの隠し持った能力に気付いて連れていたか?」
「何のことだ?」
「万能、変異……どれもこの女の潜在能力だ。変異は特定条件でしか発動しない……」
「変異……それが血か……?」
「貴様はどこでパナセを見つけた?」
エウダイは何を明かそうとしている? パナセとの出会いといえば、倒れていた俺に声をかけて来た所からのはずだが……。
「パディン近くの森だ。PTに置き去りにされてだがな」
「PT? パナセが?」
「お前は何を言っている? 何を疑っているのか、話してもらおうか」
シヤというキツネ娘と同じギルドにいたはずのパナセは、どうやってPTに入っていたのか。
「ここにいるシヤは俺の奴隷であり、娘でもある。そして、パナセも俺の奴隷だった……貴様ごとき劣弱賢者に見つけられたパナセを、到底救えるはずがない……俺はそう貴様を見ていた」
「娘だと? お、お前、母親だったのか!?」
「それが貴様に何の関係がある?」
掠れた声、傷のある隠された仮面の中……黒騎士の運命も、勇者で狂わされたか?
「パナセも奴隷だとすれば、何故お前はそれを明かさなかった! 跫音洞窟で気付いたはずだ!」
「変異が発動しなければ気づくことは無かっただけだ……万能だけの薬師、加えてあの変わりようは奴隷だったパナセと同一とは思えなかった。全て貴様、賢者によって変えられたせいだ!」
パナセが奴隷……か。
俺を見つけた時、離れていくPTを見て、勝手に置き去りをされたものとばかり思っていた。
そうではなく、血を見ることにトラウマを抱えるような扱いを男どもから受けていて、そこから逃れて来たというのが正しいのかもしれん。
「パナセの能力か……出会った時に気付くはずが無いだろう? 俺は全ての能力を失っていたのだからな! パナセが俺を見つけた。それだけのことだ」
「御託など無意味。薬師とシヤが再び目を覚ますまでに、貴様は俺と戦え! 真に貴様がパナセを連れ行く者に相応しいかを下させてもらう!」
その為に眠らせたということか。
「劣弱……いや、戻った能力で力を示してみろ! そうでなければ、貴様……賢者をここで殺す」
「ふ、それもお見通しか。いいだろう……だが、後方にいる鎌使いの勇者は倒さなくていいのか?」
「雑魚に手こずる勇者など、偽物に過ぎない。貴様もシヤによって偽者と戦ったはずだ!」
勇者を名乗る偽物……賊の男はそうだったが、鎌使いの女は魔族の気配をさせていたが、まさか――?
「……なるほど。俺が眠り続けていた数年に、勇者と魔族で何かの招きがあったか。ならば……」
「ここでは手狭だ。賢者は俺と外へ出ろ。そこで貴様を殺してやる」
「いいだろう」




