39.召喚士と黒騎士の対峙
何ということだ。隙の無い黒騎士に対して、初めて油断を生ませたというのに。
「パナセッ! おいっ!!」
暴風に曝されている黒騎士は、しぶとさを見せながらその場に踏み止まっているが、姿の見えないパナセからの返事が返って来ない。
「くそっ! 俺としたことが……」
「くくく……どこにいるかまではこの俺でも分からなかったが、薬師の女だけが飛ばされてしまったようだな。女の声で一瞬だけ力を弱めただろう? その隙に我が槍で全身を固定させてもらった」
「ち、ちくしょう……パナセ……」
無風の岩窟であれば、手練れな相手でも吹き飛ばせるのは確実だった。
しかしパナセの動きを予期出来なかったのは悔やみであり、敗北を意味するのは明白だ。
「……俺の負けだ。好きにしろ」
「そうさせてもらうが、貴様がそうまで生き続けるのは何故だ?」
「何のことだ?」
「勇者に裏切られ追放された挙句、劣弱賢者の成れの果てとなった。それがどういうわけか、使えもしない女どもを引き連れて各地を彷徨っている。貴様の目的は何だ?」
劣弱賢者を知った上での情けのつもりがあるようだが、知らせたところで黒騎士とは分かり合えないだろう。
「目的は勇者を世界から消すことだ。その為に、弱かろうが成長に望みをかけられる者と、戦える者を連れて旅をしているだけだ。お前も知っての通り、俺だけでは戦えないのだからな」
「……ふん、弱体しても賢者らしく動くか」
「変わりようがないからな」
「……」
俺の話を聞いても情けをかけるほど甘くもないようだ。
パナセを失い、俺もここで果てるのか。
「さっさと始末したらどうだ? 劣弱賢者に用など無いだろう?」
「……勇者を消す、か。面白い」
「俺を奴隷として生かすつもりか?」
「それも悪くないが、俺の”目当て”がようやく姿を見せた。貴様は薬師の女の所にでも行け!」
「なにっ!?」
処されると思っていたが、黒騎士は体の向きを変え、俺ではない何かに敵意を向けている。
『うーうー!! ガンネアに手を出すのは許さないのだー! そういうことだから、大地の神蛇さまに飲まれちゃえーなのだ!』
聞こえた声は、外で泣きじゃくっていた召喚士アミナスであり、怒りか何かで呼び出した大蛇を黒騎士に向けている。
どうやら泣き止みと同時に、召喚士として何かを悟ったか。
そうでなければ制御の効きそうにない荒れ狂いの大蛇を、容易に御する事など出来るはずも無い。
大蛇を呼べる程のスキルを秘めていたとは正直驚きではあるが、やはり俺の慧眼に間違いなど無かったようだ。
黒騎士とアミナスに目を向けた時だったが、目の前を影が覆いかぶさった。
「――ぬっ!? ん……むっ!? な、何?」
「プハー! えへへ……アクセリさまの息吹を頂いてしまったです~愛の力は不滅なのですよ」
「不意打ちにも程がありすぎる……一体、いつから俺の前にいた? というより、失ったものとばかり思っていたぞ……」
暴風で吹き飛ばし、てっきりコイツを失ったとばかり思って落胆していたが、召喚士に救われたか。
「それがですね~不思議なことが起きまして、吹き飛ばされたと思っていたら、モフっとした何かに包まれていたのです! そのまま連れられてここに戻って来たというわけなのです。えっへん!」
「良かった……お前を失ったかと思った」
「ア、アクセリさま?」
「傍にいると言っておきながら、許可なく俺の傍を離れたパナセの罪は深いぞ……」
「えええええ!?」
思わず思いきり抱き締めてしまったが、今は召喚士の強さを確かめておくとする。
「え、あれ? 力強く抱きしめて頂けたのに、もう離れられるのです?」
「いや、お前……どこか生臭いぞ。モフっとした感触と言っていたが、お前を救ったのはアレじゃないのか?」
「ひぃええええ!? へ、蛇……蛇だったのですか!?」
「ふっ……はははっ!」
黒騎士の妙なる情けと召喚士の怒りで、九死に一生を得たようだ。
おまけにパナセの幸運を手にしていたことで、果てる機会も失わせたとみえる。
「パナセは俺にしがみついたまま、戦いを記憶して閃きを生み出せ。出来るな?」
「閃きですか? やってみますです~」
黒騎士の狙いは召喚士……いや、呼び出す獣にあったようだ。表情は俺の時とは比べ物にならない激変ぶりを見せている。
アミナスの意思が獣に伝わっているかは分からないが、大蛇のうねりによる猛進は明らかに黒騎士に向いているようだ。
『劣弱賢者と薬師は獣を屠った後に、下してやる! 逃げるなら逃げてもいいが、すぐに追い詰めてやる』
狭苦しい岩窟内で大蛇に対峙していてもなお、気を緩めることは無いらしい。
召喚士と黒騎士の戦いで俺の運命も変わるか。




