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38.薬師パナセの予期せぬ成長


「はふぅ~お、お久しぶりなのです、アクセリさま」

「あぁ、そうだな。数時間程度だが」

「そ、そそそ、それよりも大変なのです! 黒い人がドーン! って来まして、ガンガンと迫って来てですね……それはもう、すごかったです!」


 傍に寄れば寄るほど幼くなっているようだが、言っていることを理解出来る俺も大概か。


 黒い騎士の素顔は相変わらずハッキリと見えないが、それが男か女かは関係なく危機であることに変わりはない。


「パナセは相変わらずだな。言っていることがすぐに理解出来るのも、お前との付き合いが長くなっている証拠なのかもしれないが、怪我は無いのだろう? ロサとパナセ、それに中の住人もだ」

「ロサさんでしたら、真っ先に住人さんたちに指示を出していたです! わたしはあの~……言われた通りに調合をしまくって、黒い人を近づけさせないように色々投げていたら……」

「話はそこまででいい。そういう余裕を生まれさせない相手のようだからな」

「はぐっ! ふぐふぐっ!」

「そのまま、岩陰に伏せつつ気配を消していろ」

「消して……? は、はいですっ!」


 パナセは自分の口を手で押さえて自分を苦しくさせている。愉快な薬師だが、少しずつ賢くなって来ているようだ。


『無駄話……いや、遺言話は済んだか?』


『まぁな。黒の騎士とやら、お前の目的は何だ? ここにお前の槍を振るうほどの強大な敵がいるとは思えないが?』


『知らぬ奴に話す義理は無い。だが貴様とてそうだろう? 何も無ければいるはずも無い! 貴様も狙っているものは同じか?』


 一体何の話をしているのかは分からないが、ルシナの案内で訪れた召喚士の岩屋には、黒騎士が求める何かがあるということなのだろう。


『能書きなど、無用! 後先々で出会うことも無駄だ。貴様はここで消えてもらう!』


 黒騎士が放った言葉から繰り広げられる光景に、俺の全身はすぐに反応を見せていた。


 えんえがきの長槍から繰り出される閃光をかわし、最初に唱えていた氷の要素を黒騎士の四方に展開し、俺の元に近付いて来ようとする奴の急所目がけて、尖った氷刃を幾重にも張り巡らせた。


「ちぃっ! 以前に見せた魔法よりも格を上げたか。忌々しい賊め」

「お前も本気では無いだろうが、俺も魔法扱いの端くれなのでな。狭い空間には有効な攻撃を仕掛けさせてもらった」

「……貴様、名は?」

「以前も名乗ったが、義賊アクセリだ。お前は?」

「アクセリ……? なるほど、聞いた覚えがあると思ったが、劣弱賢者と果てた男が貴様だな?」

「……何のことだ? どこでそれを聞き覚えたかは知らないが、そういうお前は無名の黒騎士なのか?」

「くくっ、勇者ごとき者どもに弱くされた男が、よくも偉ぶれるものだ」

「その言葉をそっくり返してやろう」

「俺の邪魔をするならば、血塗られの騎士であるエウダイ・ルテールが貴様と仲間ごと消し去ってやる」


 どこにも属さない奴がいることは、勇者と組んでいた時から話には上がっていたが、コイツがそうなのだとすれば、行く先々において障害となり得るか。


「動くつもりがあるかもしれないが、氷刃がお前に向かって伸びているぞ? いかに黒騎士であろうと、自分の血は見たくないだろう?」

「……脅しにもならない氷刃で俺を止めたつもりだろうが、血を流すことに躊躇など無い! 消えろ!!」


 致命傷を与えられないことに気付いていたかは定かではないが、黒騎士は手にした槍で大車輪が如く回転を見せた。


 辺りの岩はもちろんのこと、仕掛けていた氷刃はことごとく粉砕されてしまった。


 やはり対人、それも単独で動いている手練れ相手には分が悪すぎる。狙いはおろか、目的が何なのかさえ不明なまま、無意味な退きをさせられるのは何の利も得られない。


「形勢逆転のようだな。劣弱賢者ごときが、弱体化した属性魔法で手こずりを招くとでも思ったか?」

「……いや、この場には俺だけじゃないことを忘れているのか?」

「雑魚がいくら増えようと、俺の槍の餌食となる――!? バカな、麻痺だと!?」


 俺は何も追加弱体をかけていないが、黒騎士の動きは明らかに麻痺効果を見せている。


 氷の要素が本来の力を出せていれば、攻撃展開と同時に敵の動きを硬直させる弱体効果があるが、今は足止め程度にしかならない。


 しかし黒騎士は間違いなく麻痺に陥っている。だとすれば、これの仕業は薬師によるものか。


 そう思って隠れるパナセの様子を見てみたが、どこにも姿が無い。


「(え~い、え~~い!! どれもこれも、行っちゃえ~~!)」


 どこからともなく、ヤケになったパナセの声が聞こえて来るが、姿がまるで見えない。


「くそがっ! 小賢しい薬師ごときが邪魔をしよって!」


 身体からだが麻痺状態にありながら、辺り構わず槍を振り回す黒騎士は、相当タフのようだ。

 

「(きゃぁっ!? やばいやばいです~)」


 どうやらパナセ自身で姿を消して、密かに奴の所に近づいていたようだ。


 大した女だ。予想の出来ないことをしでかして、俺を陰で支えるとはな。


『どこでもいい逃げろ! この隙を生み出したお前に応えてやるぞ』


「(ひゃい~! 逃げるです~)」


 姿が見えなければ音も聞こえて来なかったが、恐らく無事に岩陰に戻ったとみえる。


「ち……たかが小娘に封じられるとは愚かな……」

「更に逆転のようだな。エウダイとやら、悪いがこの場からいなくなってもらうぞ」

「何!? 貴様も呪詛使いか?」

「そんな大げさなことでもない」


 呪い魔法は、黒い意思を強く持つ者でなければ使えないもの。

 

 まして呪詛を受けて弱くされた俺では、何者であろうと呪いをかけることなど出来はしない。


『地底に眠る大地の守護者、風無き地を翔け、歪みをもたらす黒き者へと吹き荒らせ!』


 唱えた言葉に応じた要素はすぐに応え、風の無い岩窟に人一人を吹き飛ばすだけの風を呼び込んだ。


「くそ、風を呼びやがったか……小癪こしゃくな」


 外に通じる空気の流れが瞬時に変わり、暴風は黒騎士の全身に襲い掛かった。


『ひぃええええええ!? と~ば~さ~れ~るぅ~~』


「おい、パナセ! 岩肌に掴まれ! どこにいるかは分からないが、お前まで飛ばされては元も子もないではないか!」


『はひぃぃぃぃ~~』


 これは誤算過ぎる。姿を消し、黒騎士を麻痺らせたパナセを流石だと思っていたのが、全て台無しとなってしまうではないか。

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