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37.義賊と黒騎士の刃


 謎の黒い騎士。


 奴が勇者一派とは、目的も狙いもまるで違うということは、戦った時に感じていた。


 しかし戦いを挑み、決着がつかなかった者が求めるとすれば、勝利しかないだろう。


 ルシナを先頭に、一寸の光を頼りに岩窟を進むと、ソイツは分かりやすい姿で俺を迎えた。


 草木の無い岩だらけの中にありながら、大気をも威圧させる恐ろしさは健在のようだ。


「アクセリの知っている相手なの? す、すごくざわめく感じがするんだけど……」

「あぁ、そうだな。ルシナ、お前はどこかに身を隠せ。ここで幻霧は出せないだろうし、通じる相手でもないからな」

「そ、そうみたいね……私は岩屋に戻れたら、パナを呼んでくる。あの子の力もきっと必要だと思うし」

「パナセの力か……力はともかく、いるだけで何かが起きそうだな」


 それにしても、岩屋には直接攻撃をしていないところを見れば、狙いは中にいる者あるいは、秘宝か。


『闇に潜みし嘆きの氷刃よ……俺が命じる。揺るぎの中、非情の刃を凍てつかせ!』


 今までは自信を持って先制攻撃を仕掛けたことが無かった俺だった。


 しかし外に出た時に得られた属性要素を、存分に使えるくらい要素らに取り込むことが出来た。


 使わない手は無いだろう。


 元素の中でも一番使いやすく得意とする氷の要素ならば、致命傷を負わせられなくとも、動きを封じることが可能なはずだ。


『何奴!』


『何者でもないが、岩砕きの見世物はいい加減止めたらどうだ?』


 凍てつきの気配に気づくまで黒騎士の長槍は、動きを止めることなく辺りの岩を砕きまくっていた。


 反射的ではあるが、岩の硬さと氷の硬さで違和感に気付いたようで、すぐに声を荒らげた。


「貴様はあの時の義賊……! 何故ここに来ている?」

「それはこちらが問うことだ。全てを気圧けおす黒騎士さまが、こんな何も無い岩窟の岩を破壊するとは、許しがたいことだと思わないか?」

「……人心を掌握しようとしている義賊ごときが、それをほざくか」

「狙いは何だ? それによっては、俺もただ事にするつもりはないが?」

「義賊の貴様に知らせる義理は無い! すぐに去れ! そうでなければ、義賊だとて容赦しない」


 やれやれ、随分と凝り固まった考えで生きている騎士のようだ。


 狙いが知れるとは思っていなかったが、この手のタイプは、戦うことで理解を得るしかないということらしい。


「人心以外も得ようとしているのは明白だ! 義賊! 貴様はここで逝ね!」

「……やれるものならな。もちろん、岩のように砕かれるつもりはないが」


 これまで戦いの前面に出ていたのは、勇者だった。それゆえ、敵の力量を直に推し量ることなどなかったが……


 黒騎士は、対峙する俺に向けて長槍で円を描くように回し始めている。これには覚えがあるが、洞窟で見せた閃光直後の突き刺し技だろう。


「義賊め、我が槍をその身に刻め! ロタツィスラスト!!」

「むっ!?」


 狭く暗い岩窟に閃光が走る。


 同時に、地響きを鳴らしながら、岩窟そのものに衝撃を与えたような感覚に陥った。

 

「――くっ!」

「我が凶刃に倒れることを光栄に思え! 力なき義賊ごときに使わない技なのだからな」


 先制で見せた氷はすでに砕かれ、残す壁は砕かれの岩石のみ。


 やはり只者ではなかったようだ。


『え~~い! く、くらえ~~!!』


 戦いたかったのかと言わんばかりに、パナセの必殺的な叫び声が聞こえた。


「ちっ、またも邪魔するか。小賢しい」


 洞窟でも手あたり次第に草を投げまくっていたパナセだったが、今回は何かの液体が入った瓶を投げつけているようだ。


 しかし見るからに重いのか、一本ずつ投げていて隙が生まれまくりだ。


『パナセ! 俺の傍に来い!』

『は、はひっ! い、今すぐに~~』

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