36.賢者のゆく道へ ⑤
危機的状況を与えなければ召喚をする意思が無いとなれば、召喚士として使い物にならないが、どうするべきなのか。
「痛い目に遭うのも、遭わせるのも嫌なのだ……うぅ……うわぁぁぁぁぁん!!」
「なっ!?」
「どうしておっさんは我をいじめるのだ~~! うぅぅっ……クスンクスン……」
「ま、待て! いじめではなく、お前が俺を試すと言ったのであって……」
小さな種族、幼い少女は力を秘めている……それは確かだ。
だからこそあえてけしかけ、少しばかりの痛みを伴わせて引き出そうとしたのに、まさか泣き出すとは。
『あ~~~! アクセリが女の子をいじめてる~~!』
岩窟側から声を張り上げている者がいるかと思えば、ルシナの姿が見えている。
案内も無くどうして外に出て来られたのか。
「ルシナ! どうしてここに来ることが出来た? ロサとパナセは一緒では無いのか?」
「あなたが女の子を泣かせる賢者だったなんて……」
「不本意だ」
「そ、それよりも、大変なの! は、早く岩屋に引き返して!」
「どうした? 何があった?」
「く、黒い騎士が襲撃して来たの! 見たことない……あんな槍を振り回して岩を砕くなんて」
「何!? 黒騎士だと?」
黒騎士というと、エルフの双子と三白眼の娘を捕まえに来た厄介な奴だ。
いつかどこかで出会うとは思っていたが、何故こんな何も無い岩屋を襲撃するというのか。
「は、早く一緒に来て! エーセン族とパナとロサさんで凌いでいるけど、長く持たないの! だから急いで!」
「凌いでいるだと? ロサなら分かるが、パナセがか!?」
「あの子は守りにかけては才能があるから。そ、それよりも賢者なら何とかしてよ!」
「分かった。案内しろ!」
「召喚の女の子はどうするの?」
不本意に泣かせてしまったのは仕方がないが、泣き止ませる自信が無い以上、今は救援に向かう方が最善だ。
聞こえるかは不明だが、岩屋に戻ることを伝えてから引き返すしかない。
『おい! 召喚士アミナス! 俺はお前の住むガンネアが危機と聞いた。悪いが戻らせてもらうぞ! そのままそこで泣いていても何も解決しない。お前が守りたいと強く願うのであれば、力を示せ!』
「うぅっ……グズッ……ガンネアを守る……?」
『アクセリ、早くっ!』
泣き止んでもすぐに動けそうにないし、一人で岩屋に来れるとも限らん。
この際ここで留まってもらうのが吉か。
『召喚士として生きて行くつもりがあるなら、アミナスは俺と仲間に力を示し、心を知れ! そこの木霊をどうにか出来なければ、どのみち俺たちと戻ることは出来ない。そこでどうするべきか大いに悩め!』
ここまで言っておくだけが限界だろう。
それよりも洞窟の戦いから年を経るほど、俺と黒騎士の実力が縮まったとは思えない。
黒騎士の狙いが分からないが、ロサとパナセを失うわけには行かない。
「ルシナ、お前は怪我をしていないだろうな?」
「岩窟が暗くて見えないから、転んでかすり傷を負ったけど大したことないから」
「――じゃじゃ馬娘のくせに無茶をする奴め。だが、よくぞ知らせてくれたな」
「アクセリだけが頼りだから。だから暗くても転んでも、私が行くしかなかったの! そ、それにたまたま岩屋の外に出ていた時だったから……」
「襲撃をされた所を抜け出して来たのか。臨機応変に動けるのは、さすが長だったものの術ということか」
黒騎士と再び戦うにしても、不十分過ぎる。
まさかと思うが、シヤとかいう娘を捜し歩いているのではあるまいな。
それとも何かの貴重なアイテムでも眠っていたか。
「痛っ! やっぱり薄暗くて見えない……外を目指していた時は進めたのに……」
「任せろ」
召喚の宝石に頼らずとも、岩窟の暗さを明るくさせればいいだけのことだ。
『風無き地、鋼石に眠りし古の光……見えざる力となりて、我らを照らせ! ゲレル!』
岩といえど、一度は光を浴びたことのある岩石が眠っているはず。
それに賭けての呪文をかけたが、一寸でも照らせば文句は言われないだろう。
「……何だ? 俺の顔に何かついているのか?」
「あなたが賢者なんだなぁと思って」
「ふ……俺ではなく前を向くことだ。多少は明るさを感じられるだろう?」
「その力でパナたちを助けてね? 私、あなたを信じてるから!」
「無論だ」
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