35.賢者のゆく道へ ④
「まさか一度も呼んだことがないとはな……辛うじて宝石部分だけが存在を示したからいいようなものの、アミは召喚見習い以下なのか?」
「う、うるさいのだ! わ、我はずっと岩屋の中で過ごしていたのだから、呼ぶ機会なんて無かっただけだぞ! そ、それに宝石の輝きで外に出られるのだからいいではないか」
アミナスと名乗る召喚少女は、パナセとは別の意味で、召喚士らしからぬ動きを見せてくれた。
その時点で、力比べといった勝負にはならないことが分かりきってしまったが、秘められた力には関心があり、それ次第では成長のさせようがあると判断した。
たとえ態度と口調に多少の問題が生じても、召喚の力が本物であれば、十分敵に通用出来るだろう。
「そ、外だー! ほら見ろー! 我のおかげで外に出られたではないか」
「そうだな、紅く輝くガーネットのおかげだ」
岩窟を出てすぐの眼前に広がっていたのは、深く茂りまくった森の中と道標の無い荒れた道が見えているが、人の気配が近くに感じられないのは幸いだった。
自然が存分に広がっているのであれば要素を使うには十分であると思うのだが、岩窟もまともに歩いたことの無い召喚少女は、外の景色にいちいち感動を覚えているらしい。
岩屋に迷わず戻ることを考えれば、岩窟からすぐの外で力を示してもらうのが最適だろう。
「……しかし」
「わーわーわー! 空! 森! すごい、すごいのだー!」
「アミナスとやら、ここへはお前を感動の渦に巻き込むために来たわけではないのだぞ? 俺の賢者としての力を試すのではなかったのか?」
「そ、そうなのだ! ふっふふー! さぁ、賢者! 我に魔法の力を見せつけてみるのだ!」
外を知らない召喚少女には、力の使い方と外の歩き方も教える必要があるようだ。
幼くあどけない顔のアミナスは、よほど自信があるのか、腰に両手を付けながら俺の先制攻撃を待ち構えている。
「要素を見せる前で悪いが、俺は敵とみなさない相手を傷つける趣味は無い。今からお前に見せるのは、せいぜいが木々を激しく揺らす程度だ」
「な、何だとー! わ、我を愚弄するのかー!!」
「お前の召喚も、果たして素直に従うつもりがあるのか? 外に導いたカーバンクル……の宝石は、共にいた者に、悪しき心が無いと判断したからこその輝きを示したはずだ。召喚士本体に敵意を向けていれば、獣は本体を守る行動、もしくは攻撃を向けて来ることだろう」
「そ、そうなのか? し、知らないことばかりなのだ……ううううー」
駆け出し召喚で知識も皆無のようだが、パナセの潜在能力よりも、はっきりとした強さを秘めているのが何となく俺には見えている。
ここはその引き出しをさせてもらうために、やむを得ないことになるが自然の要素で発揮してもらうことにする。
『木々に宿りし御霊、根ざしの源、我が問い、我が答えとなりて、攻めの意思を遂げよ!』
「な、何だそれ、何だその魔法はー!」
「何てことはないものだ。アミナスに向けて、木霊が攻撃の意思を見せるだけのことだ」
「……地面が抉れて、何かが出て来るのかー!? どう、どうすればいいのだ?!」
「何かを呼ぶことだ。そうでなければ、お前の体は切り傷が増えて行くことになる」
実際はそこまでの痛みを伴うことはないが、全て未経験だとすれば、先の戦いにおいては不利に陥る。
多少騙してでも、荒療治をしてやることがいいと判断した。
「い、嫌だ、嫌だ、嫌なのだ! あたしの……我は傷を負いたくないのだーー!」
「ならば何かを呼び、木霊を滅することだな」
「け、賢者! と、止めるのだ!」
「それは無理だな。俺は唱えを終えると、その後の意思を要素に任せる主義だからな。止めたければ、召喚で何とかすればいい。それだけのことだ」
これも真実ではないが、目に見える木々に意思を持たせただけでどうにかなるものだ。
宝石ではない、俺が危機的状況になりそうな召喚を呼び出してくれれば面白くなりそうだが。
「むーむーむむー! 痛いのは嫌! 嫌なのだー!」




