25.峡谷での遭遇 2
跫音が鳴った洞窟と違って、外での歩きは危険を伴うものだと思い出していた。
「ここでは挟撃となるか……」
「薬師の女たちはどうされますか?」
「そうだな、俺の姿は敵には見えていないだろうから、俺の傍に来るように言って来てくれ」
「分かりましたわ」
俺の姿を敵に晒したとしても、力なき賢者に何が出来るというのか。
今出来ることは、ロサに動いてもらいつつ、パナセとルシナで混乱をあえて起こしてもらうしかない。
「アクセリさま~、来ました!」
「賢者さま、ルシナも参りました」
「ルシナ、俺のことは賢者と呼ぶなと言っていたはずだが?」
「どうお呼びすればいいんです? パナセと同じ呼び方をしようとしたら、駄々をこねられましたよ?」
「だって、だってぇ~……、アクセリさまって呼ぶのは、パナセ専用なのだ!」
「……だそうですよ」
どう呼ぼうとどうでもいいことなんだが、今はそんな下らないことをしている余裕が無い。
「ではルシナは、俺のことは呼び捨てで呼べ。俺が許す。お前の素は、小生意気なことと分かったからな」
「えええっ!? アクセリさまを呼び捨て……ルシナちゃん、ずるい~!」
「あーもう! パナ、やかましい! それで、アクセリは危急なのでは?」
「さすがだな。その通りだ」
パナセは気持ちがオープン過ぎるがゆえに、切り替えも遅い。
ルシナは妹のはずだが、ハーフエルフなりの愚かなプライドに加えて、長としてやってきた判断力が生きているから、指示を与えるのは楽だ。
「ルシナ、今すぐ霧を張れ! 出来るな?」
「敵ですか。すでに気付いていたのですね」
「そうだ。正体は分からないが、霧を張れば相手の出方が分かるだろう」
「分かりました」
里にいた時と違って、大げさな発動呪文はしないようだ。
手の平に風を巻き起こし、そこから大気を濁らせて霧を作り出せるらしい。
「出来上がりました。その代わり、壁より外の様子は見えないですが……」
「今はそれで構わん! よくやった、ルシナ」
「と、当然です! 本当なら、パナが出来てもおかしくないことなんですよ? 全く、アクセリが甘やかすから、パナがどんどん面白くなっているじゃないですか!」
「俺のせいにするな。それが個性なのだとすれば、成長も見込めるということだろう」
「ほえ? アクセリさま? わたし、成長出来るんですか~?」
「それはもう、大いに期待していいぞ! だが、まずは俺の姿を発現させる薬を作り出してくれ」
「はいぃ……それはもう本当にごめんなさいなのです~」
防御だけは成ったが、相手が見えないどころか仕掛けることも敵わない。
ロサだけが何かしらの動きで敵を封じているのかもしれないが、それすらも見えぬようではどうにもならない。
だがここで明らかに、動きが出始めた。
霧の壁で外側の様子は、俺らからは見えないはずだとばかり思っていた。
それがどうしたことか、吹き荒れるような砂嵐が霧の壁に迫っている。
「はふぅ~アクセリさま。あのぅ……」
「どうした?」
「さ、寒気がするです……」
「何? ルシナもか?」
「はい……」
姿が無い俺には、自分の体の変化すら見ることが出来ないわけだが、彼女たちの皮膚が鳥肌立っているのは見えている。
だとすれば、恐怖を感じるような何かが迫っているということか。
目に見えない姿と霧に迫りつつある砂嵐、そこからさらに冷気に近い慄きなるモノが、彼女らに圧を与えているようだ。
くそっ、何なんだ。
じりじりと砂を巻き上げながら、谷の石を削って来る存在はハイクラスのモンスターなのか?
『ロサ! どうなっている!?』
『アクさま、は、羽根です……とてつもなく大きな竜がアクさまたちを、覗き込んでいますわ』
『なにっ!? 竜だと? 常人じゃないどころか、ハイクラスではないか!』
『わ、わたくしは、竜に紛れて近付こうとする雑魚を狩ることしか敵いませんわ……』
『分かった、ロサはそこで踏ん張れ!』
まさか、竜の塒の道を歩いて来たとはな。
何の注意も払わずに来たとは、やはり姿が見えないことは俺にとっても良くないことだった。
「アクセリさま……どどど……どうしましょう?」
「心配するな」
「アクセリ、どうするつもりがあるのです?」
「そうだな……」




