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唐辛子 

 昔読んだエッセイに面白いことが書いてありました。

 作者の方が子供の頃に流行った遊びらしいのですが、狸の巣穴を見つけると唐辛子に火をつけ、それをネズミの尻尾にくくりつけた後に狸の巣穴に放つ。

 そして、ネズミが穴の奥に逃げ込んで暫くたつと、穴の中に充満した唐辛子から発生した催涙ガスで狸が堪らなくなり咳き込みながら穴からイブリ出される……ーーと。

 ――ほんまかいな?


 冷静に考えたら突っ込みどころの満載のどう見ても眉唾ものの話ですが、民俗学が好きな自分にとっては子供達が昔行っていた風習という事で興味のわく話です。

 でも、実際にやったらどうなるかは藪の中。

 真相は作者のみの知る事です。


 そこで、狸いぶしの真偽を確かめようと、確かめるために子供の頃、狸燻しの実験を行った事があります。

 まずは作者のおこなったオリジナルの狸燻し方法を試してみました。

 その方法とは、唐辛子に火をつけ煙を発生させると言う方法です……。

 そこで香辛料の置いてある台所で実験開始です。

 

 まずは、引き出しにあった鷹の爪を皿に乗せ、ライターで火をつけ燃焼実験。

 まあ、当然の事ながら勢いよく燃えません、ブスブスと黒コゲになって火が出ても直ぐに鎮火です。

 蒸し焼き状態の有る程度の高熱が持続する事で煙が発生するわけですから、直ぐに燃えあっという間に燃え尽きては煙は出よう筈も有りません。

 

 コノママジャダメだ……。


 高温を維持させないと煙を発生させる事が出来ない、つまりオリジナルの方法では煙を発生させる事が出来ないという事が判明しましたわけです。

 ダメジャンこれは……。


 しかし、狸燻しの作中には出ていない公表できないような秘伝が有った可能性も捨て切れません。

 そこで、発煙方法に独自のアレンジをくわえる事にしました。

 その工夫とは十数本の唐辛子を刻んだ後、アルミホイルで何層にも包み、何個もの穴を開ける。

 そして其れをガスバーナーで加熱する事で蒸し焼き状態を長時間保つ事が出来、多量の催涙ガスを発生させると言うアイデアです。

 ――狸燻しの作者が居た時代にアルミホイルやガスバーナーなんかの文明の利器が有ったかどうかは置いておいて……。


 結果、実験は大成功でした。

 熱せられた唐辛子の銀玉から、煙幕のごとくもうもうと立ち込める刺激性の煙。

 此れなら狸も燻されて出てくる事は間違いありません。

 素晴らしい発煙性能です。


 ――言うまでも無く、あまりの煙に実験している本人も台所と言う閉鎖空間なので換気扇を回しても尚ダメージを受け、涙ながらにゲホゲホ咳き込む始末。

 これはマジで死ぬほどの苦しみです。

 そして、近所には狸の巣穴や鼠も居ないと言う事も後で気がつくのでした。

 あまりに醜く、間抜けな結末ですが、催涙ガスの恐ろしさを身を持って知る一日となりました。

 

 でも、自分達の世代はこうな風に様々な実験イタズラをやる事で、此れをやったら死ぬと言うデットラインを体で覚えて言ったように思います。

 そして日々の生活でリアルな危険を体験する事で、工作員の様に危険回避能力を養っていました。

 そのお陰か判りませんが、高い壁からの墜落死、海での溺死、更には火遊びでの焼死と何時くたばっても不思議ではない危険な遊びを毎日していたにも関わらず、悪友達に大怪我や亡くなった方は居ませんでした。

 そして何時の今にやら、何が有っても生き延びると言う自己保存の本能が研ぎ澄まれて居たのでしょう。


 生きていてナンボのこの世界。

 ハリウッドのスターのようにカッコつけて死ぬより、卑怯者、チキン等と後ろ指を指されようが何があっても生き残る事がきっと大切なのでしょうね。

 後ろ指指されたくらいでは死にませんが、ナイフで刺されたらあっさりくたばります。

 其処に有るのは、英雄だから何とかなると言う、甘い幻想ファンタジーではなく、人間全てに平等にもたらされる死と言う、冷酷な 現実リアル


 どんな英雄でも、老若男女、美醜関係なく死んだら等しくタダの生ゴミ。

 ーーでも、生きてりゃ犬にも明日は来ます。


 そんな事をふと唐辛子を見て思い出しました。


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