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大根

 『撲殺大根ソード』

 この言葉を聞いて直ぐにピンと来る人は相当カンの良い人か、昔実際にこの遊びをやった事の有る人では無いでしょうか?


 数十年前。この頃は子供の数が半端なく多く、某地方都市でも例外では有りませんでした。

 しかし、子供達が遊ぶものは今ほど種類が多くなく、裕福でない子供達は輪をかけて遊ぶものがありませんでした。

 

 そこで遊び道具となっていたのが、近所にある様々な物。

 粗大ゴミで捨ててある棒状蛍光灯を破壊して楽しんだり、海に行けば牡蠣イカダのフロートに使われる発泡スチロールをロープで繋いでボートにして楽しみ、時には沈めてある蛸壺から蛸をとりだしたり。山に行けば山に生える竹や猿柿、カラスノエンドウなどの天然の植物、果ては畑に植えてある冬瓜、ひょうたん、大根まで様々な物を使い遊び道具にしていました。


 その中でもよくやったのが『撲殺だいこんソード』という遊びでした。

 それは悪がき連中が下校中の通学路で、畑に植えてある大根をめいめい引き抜くと、葉を持ち大根の根の部分で相手をぶっ叩きあいます。

 

 相手に命中すると物の見事に爆散する白い刃。

 刹那、飛び散る汁、相手は汁まみれで二重のダメージです。

 頭なら痛いやら濡れて気持ち悪いやらでまさしくクリティカルヒットでした。

 しかし、そこで自分の得物は消えうせ攻守交替です。

 其処からは、残存武器をもった相手から逃げる方にまわります。 

 --振り返ることなく、ただ只管に。

 お陰で畝は足跡でめちゃくちゃ。今思えば、まさに禁じられた遊び。


 ――傍から見ればタダの畑荒らしですが……。


 でも、不思議と苦情は学校まで来ませんでした。

 結構な本数の大根が叩きあいの果てに破壊されたと言うのに、(しかも数年間の間)

 今だと確実に苦情が出て来るレベルの話です。


 今じゃ考えれない社会の寛容性でした。


 今思い返すと、この時代の社会の空気はずっと軽かったような感じもします。

 閉塞感が何となく漂う今よりも。


 そんな時代が有った事をスーパーで並んだ、どれを取ってもほぼ同じ大きさで傷一つ無い工業製品のような大根を見るたび思い起こすのでした。

 

 大根は工業製品じゃありません、畑で育てる野菜です。

 普通に育てればバラつき、少々の傷は当然の筈なのですが……店に並ぶものは工業製品のようなものばかり。

 そして――少々傷があっても大根は大根です。

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